2008年から東アジアの軍事バランスが大きく崩れる危険性がある。 by宮崎正弘
2008年から2015年にかけて東アジアの軍事バランスが崩れる危険性
陳水扁台湾総統が日本とのテレビ会議で大胆な指摘が続出
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▼台湾総統、北朝鮮制裁を明確に発言
昨日(10月30日)、東京の東急キャピタルホテルと台湾総統府とを
インターネット回線を直接繋いで、陳水扁・総統とのテレビ会議が開催
された。
これは早稲田大学台湾研究所(西川潤所長)が主催したもので、内外
記者団および関係者が多数、東京の会場に詰めかけた。
http://www.sankei.co.jp/news/061030/sei003.htm
ゲストは「日華議員懇談会」会長の平沼赳夫氏、自民党政調会長の
中川昭一氏、民主党「日台懇」会長の池田元久氏。
司会役は中嶋嶺雄(国際教養大学学長)。ホスト役は西川順氏。
それに許世楷(台北経済文化代表所代表=駐日台湾大使)。
冒頭、早稲田大学台湾研究所を代表して西川所長が「これを新しい
日台関係を築くチャンスに」と目的を述べられ、また中嶋学長は「北朝鮮の
核実験は日本への宣戦布告に等しく、北東アジアにおける軍事的な緊迫度
は深刻さを増加させている。こうした状況下で安倍総理の訪中がなされ、
(日中台関係も)大転換期を迎えている。このタイミングでの会合は
画期的な意味がある」とされた。
平沼赳夫氏は、
「双十節のお祝いで先日、台湾に伺ったおり、野党がさかんに総統
演説を妨害していたが、これも台湾の民主主義が成熟した逆証明であり、
陳総統は妨害にすこしも臆せず演説を続けられた。
しかも双十節の演説の、じつに三分の一が北朝鮮の核実験に関してであり、
他方、中国は年率120基ものミサイルを台湾向けに配備しており、こうした
軍事情勢の変化は日本の安全保障に直結している。
米国を含め、日米安保条約のもとでの、海峡の安全をはかる協力メカニ
ズムが必要である。
また日本は中国に対して言いたいことを言える良好な機会(安倍訪中
以後)でもあり、日本はそうして方向で努力するべきである」。
つづいて陳水扁総統から基調報告のスピーチがあった。
要旨は次の通り。
「東アジアの安全保障情勢は大きな変化に包まれている。7月に北朝鮮
のミサイル実験、9月、安倍政権の誕生。そ
して十月の(安倍首相の)訪中と北の核実験。後者に対しては台湾政府も
最大級の批判を展開し、国連決議にそった制裁を台湾独自にも実行し、
国際社会の批判に同調してきている。
ともかく東アジア地域には安全保障のメカニズムが不在であり「六カ国
協議」のような場が必要ではないか」。
(台湾総統が北朝鮮制裁を明言したのは、これが初めて)。
陳総統は続ける。
「2005年2月19日、日米は『2+2』において『台湾海峡の安全が日米
両国に重大な関心事』という(従来になかった)文言を盛り込んでいる。
平和は血と涙によって構築されるものであり、堅実な国防力がない限り、
邪悪な侵略者にやられてしまう危険性がある。
平和を念仏のように約束するのは空弾に等しく、実際にペンタゴン報告は、
軍事バランスが中国有為に傾いており、2008年に中国側
の台湾侵攻実践配備が完了することになって
も米国側の対抗配備は2015年にずれ込む。
つまり2008年から15年に危険な軍事的空白が台湾海峡をめぐって
醸成される恐れがあるとの報告を出している。」
(ところが、けさ(31日付け)の日本の新聞見出し。
日経は「日本と台湾の投資協定」が前面にでていても、上の軍事分析の
箇所はみごとに削除されている)。
▼台湾海峡は独裁政権に直面する最大の危機だ
陳総統はさらに続けた。
「台湾海峡の危機は共産主義独裁と直面した、最大の危機であり、国際社会
はもっと、この現実を直視してほしい。
におけるリーダーである事を見せつけてきたことを評価したい。
日本は90年代の所謂『喪われた十年』から抜けだし、東アジア共同体の
主導権を取っていることを注目しているし、また日本のODAが世界一で
あることに敬意を払いたい。
とくに日本の対南アジア島嶼国家への援助は、台湾の目的とも合致して
おり、連携を深めたい。
昨年3月の『反国家分裂法』以後に日本が示した台湾への理解は、台湾
からの観光客にビザなしをみとめ、かつWHO加盟申請への理解。
こうした対台姿勢に感謝と敬意を払いたい。
本日のこのようなテレビ会議では、直接の面談ではないにせよ、両国間
の距離がいかに近いかを物語っている。
これからも日台友好関係はますます拡大発展してゆくだろう」
と結んだ。
▼非民主的国家の不透明さが脅威の源泉
引き続きテレビ会議では、ゲストからの発言があった。
中川昭一氏は、
「米国から帰ってきたばかりだが、アメリカの関係者からふたつの点に
質問が集中した。まず安倍政権の外交方針、日米関係、東アジアの分析。
ついで北朝鮮への批判があったが、自由、民主、平和を希求する政治課題
は日本と台湾共通の課題であり、他方、中国の環境破壊、省エネ(の無策)
はちゃんと対応すべきである。
毎年二桁もの中国側の軍拡にはきちんと説明を求めていきたい。
鳥インフルエンザなどの国際的な医療強調が必要であり、
台湾のWHO加盟を早急に実現すべ
きである」
池田元久(民主党)氏は、
「中国は民主主義国家ではないゆえに価値観を共有出来ず、しかし日本と
台湾は共通の価値観で繋がっており、一層の結びつきが必要だ。
東アジア共同体は日本と台湾が中核になるべきで、もっと政治家同士の
交流も必要。
日米共同戦略目標が『2+2』で、明確になったことは支持できる。
台湾に住む二千三百万国民の生命と財産を守るのは、当然の権利である。」
中嶋嶺雄氏は司会役の立場を離れて、ここで発言された。
「日本のマスコミは安倍首相の訪中前に靖国参拝に批判的であるとする
北京の様相だけを書いていたが、小泉前首相の参拝によって、むしろ
安倍首相はフリーハンドを得た。
チャイナ・スクールなどによる事前工作
のA級戦犯、東京裁判、靖国、歴史認識など、事前の日本側の譲歩が一切
無いにも関わらず安倍訪中が実現した。
日本のマスコミは最近、上海汚職に関して胡錦濤派の全面勝利などと
解説しているが、中国の権力闘争は凄まじく、この国内党内闘争の最中に
安倍訪中があった事実を忘れてはなるまい」。
▼アメリカの「台湾関係法」のように日本も「台湾関係法」を!
これらに対して陳水扁総統が中間的にコメントした。
「日本でも(米国の)『台湾関係法』のような立法措置ができれば、
もっと秘話に寄与できるのではないか。北朝鮮の核実験は、実験そのもの
による核の脅威よりも、北朝鮮の政権の不透明さが、問題であり、
政策決定のメカニズムが不透明である。
志向している。とりあえずはEPA(経済的パートナー協定)を提案したい」
(最初に日本と台湾の間に『投資保証協定』を締結し、ついでEPA
(経済連携協定)、それからFTA締結へと駒を進めたい、と述べた)。
さて質疑応答の時間となった。
真っ先に手を挙げた(小生タッチの差で遅れた)のは東京新聞の
前台北支局長。帰国されたばかりの佐々木理臣記者。
つづいて金美齢女史(台湾人のアイデンティテイに関する戦闘的な質問)。
ついで『自由時報』東京支局長の張茂森氏。
やっと四番目に小生が指名された(小生のあとは共同通信の岡田氏。
なんだか質問した四人は全員知り合いだが。。。)。
▼国共合作? 民主国家に於ける民間団体は利用されただけでは?
小生の質問は以下のごとし。
「国民党および野党は最近さかんに北京詣でを繰り返し、台湾議会では
米国からの防衛兵器購入の予算案成立を徹底的に妨害している。
さきほど陳水扁総統は『これは国民党と中国共産との連携がある』ことが
一つの理由とされたが、さて、現在の国民党と共産党との『連携』は、
第三次国共合作というほどの度合いなのか、それを目指そうという
段階なのか、どのように総統は認識しておられますか?」。
陳水扁総統からの回答はつぎのようである。
「野党が防衛予算に反対しているのは、第一が将来の統一。
つまり中国と統一すれば台湾に自衛力は不要という考えからだ。
第二に理由は野党が中国共産党の要求にそった行動をとって、連携してい
るからだ」。
「いまの国共合作のご質問だが、野党と中国共産党との連携を注意深く
みまもる必要がある。これは『統一』の手段である。
しかしながら中国は台湾の主権が存在しないとしており、中華民国の存在
さえ認めていない。
台湾を矮小化、脱政治化という宣伝を通じて国家の存在を認めようとしない。
台湾は中国とことなった、歴とした主権国家である。
共産主義独裁政権は党が政治と
軍事をリードするシステムであり、
この制度は台湾とまるで異なる。
台湾は民主主義体制の自由な国家
であり、したがってどの政党も民間団体も政府をしのぐ存在ではない。
いまの国民党などの中国訪問は、かれらに利用されているだけだが、
やがて泡のようになるだろう。
主権をまもるには国防力の後ろ盾が必要であり、防衛兵器を米国から
購入する予算の成立は必須である。
かれらが反対するのは大きな『統一戦略』に利用されているだけである。
第三次国共合作かどうかは判らないが、こういう動きは国家全体の
利益にはならない」。
◎
(このテレビ会議の模様を日本の各紙は三段、四段扱いで報じたが、台湾
各紙は、経済問題よりも、むしろ小生との質疑応答の部分を大きく
報道している)。
http://www.libertytimes.com.tw/2006/new/oct/31/today-fo2.htm
自由時報 ↑
http://news.chinatimes.com/Chinatimes/newslist/newslist-content/0,3546,110502+112006103100035,00.html
中国時報 ↑
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成18年(2006年)10月31日(火曜日)
通巻第1605号 特大号
◎宮崎正弘のホームページ http://www.nippon-nn.net/miyazaki/
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