サハリン2問題は、これではっきり分かった、、、かな?
漁船銃撃事件につづく、サハリン2問題。
日ロ関係は03年末以降悪化の一途をたどっています。
笑いが止まらないのは、漁夫・中華人民共和国。
この問題については、かなり詳しい解説があちこちに出ていて、特に
書く必要も感じなかったのですが。。。
いちおうロシア政治経済ジャーナルということで。。。
▼サハリン2ってな~に?
基本から抑えていきましょう。
サハリン2ってそもそもなんでしょう?
サハリン2には油田とガス田があります。
石油埋蔵量は推定10億バレル、天然ガスは4080億立方メートル。
事業主体は、サハリンエナジー。
ロイヤルダッチシェル・三井物産・三菱商事の合弁会社。
出資比率は、シェル55%・三井25%・三菱20%。
1995年にロシア政府とサハリンエナジーは生産物分与(PS)契約を結ん
でいます。
サハリン2の際立った特徴は、液化天然ガス(LNG)。
皆さんこれから、「燃料電池の時代だ!」なんて考えていませんか?
実はそうではないのですね。
これから数十年間は天然ガスの時代になるのです。
米エネルギー省によると、2000年の時点で世界のエネルギー需要に占める
割合がもっとも多かったのが石油(39%)。
これが、2020年には37%になる。
天然ガスは、2000年の22%から、2020年には29%まで増加します。
サハリン2の特徴はLNG。
将来世界生産の10%を占めるようになる。
LNGは年間960万トン生産される予定で、既に東京電力・東京ガス・九州
電力・東邦ガスなんかが、購入契約をしています。
▼環境問題が原因?
さて、ロシア天然資源省は9月18日、サハリン2プロジェクトについて、03年
に出された同事業第2段階への事業許可承認を取消す決定を下しました。
欧州も日本も大騒ぎ。
欧州委員会のアンドリス・ピエバルグス委員(エネルギー担当)は9月19日、
「企業が数10億ユーロ規模に達するエネルギー開発プロジェクトに前向き
に取り組むためには、いかなる国においても安全で将来を見通すことので
きる投資環境が不可欠だ」と語り、ロシア政府を非難。
安部さんは、サハリン2の事業の大幅な遅延が、「日露間の友好関係に影
響することを懸念する」と語っています。
今回の決定について、ロシア側は「環境対策に問題がある」としている。
↓
「<サハリン2>自然破壊は犯罪 露天然資源監督副長官が非難
(長くなるので、中略)
ミトボリ副長官は会見で、海底パイプライン敷設により絶滅種ニシコククジラ
の繁殖を脅かす、陸上のパイプライン建設でサケの遡上(そじょう)に大損
害を与えた、工事に伴う土壌投棄でサハリン南部アニワ湾の汚染が深刻で
「湾は死んだ」状況になっている――などの問題点を指摘した。」
(毎日新聞) - 9月20日9時47分更新
具体的な指摘であります。
副長官は怒りを隠しません。↓
「同副長官は「このような環境破壊を起こした経営者は米国なら刑務所入り
だが、ロシアではメルセデス(ベンツ)に乗っている」と皮肉を述べ「自然破
壊は犯罪であり、刑事責任を追及すべきだ」と語った。」(同上)
なるほどなるほど。
しかし、右翼の人はいうかもしれません。
「ロシアのいうことなんて信用できるか!北方領土返せ!」
そんな人のために、日本のメディアからも引用。
「ただ、環境保全を政府介入の口実だと決めつけるのも一面的だろう。
ロシア国内でも環境への意識は高まっているし、海外の監視の目も厳しいか
らだ。サハリン2に対しては、国際的な自然保護団体から、次のような指摘が
ある。
沖合の採掘が希少生物のニシコククジラの生態系を脅かす。液化施設まで
の800キロに及ぶパイプラインは千を超える河川を横切るため、敷設などで
サケの遡上(そじょう)に悪影響を与えかねない。
工事のための森林伐採が環境を破壊している。いずれも軽視できない問題
だ。」
(朝日新聞社説9月20日)
まあ、ロシア側のメディアを引用しても、「言論の自由のない国」ですから、信
用がないですね。
とにかく「環境破壊が一因」であることは間違いないようです。
しかし、「それが主な理由なの?」と聞かれると、そんなことないでしょうと思
います。
あるロシア人がコメントしていました。
「新興財閥はみんな脱税していたよね?でもつかまったのは、プーチンに反
逆した(ユコス社長の)ホドロコフスキーだけだった。環境破壊も同じさ。皆
多かれ少なかれ環境を破壊している。でもサハリン2が狙われたのには、他
の理由があるってことさ!」
どんな理由があるのでしょうか?
▼サハリン2に入りたいガスプロム
既述のように、世界は天然ガスの時代に入ります。
で、サハリン2は世界のLNG生産の10%を占める。
ここを外国企業が牛耳っている。
これは、全く合法ですが、ロシアとしてはムカつきますね。
天然ガス世界最大手ガスプロムのミレル社長は、プーチンさんのお友達。
それで、プーチンはミレルさんに命令しました。
「サハリン2に参加しろ!」
ガスプロムはシェルと、「資産スワップ」に関する交渉を開始しました。
で、05年7月に基本合意します。
ガスプロムは、シェルからサハリン・エナジー株25%を取得。
シェルは、ガスプロムから西シベリア・ザポリャルノエ・ガス田の権益を得る。
こういう合意だったのですが、ガスプロムは9月19日、「サハリン2の先行き
に不透明感が高まった」ことを理由に、交渉打ち切りを発表しています。
25%ではイヤです、もっとくださいということでしょうか?
この点、ちゃっかり者のロシュコフ駐日ロシア大使がいっています。
ロシュコフさんは9月20日、東京で記者会見しました。
曰く「ガスプロムは政府系の会社で、政府系の会社が参加すればプロジェク
トが早く実施できるかもしれないね~」。(^▽^)
同じ記者会見で
「ロシア政府は何かをたくらんでいるわけではない」
「ロシア政府が誰かを追い出すつもりはない。サハリン2のプロジェクトは実施
されて完了される」
と自己フォローしましたが。。。
これが一つ目の理由。
▼事業予算とPS契約の問題
もう一つの問題は、事業予算と契約に関する問題。
サハリンエナジーは当初、事業予算を100億ドル(約1兆1500億円)としていた。
それが後に、120億ドル(1兆3800億円)まで増えた。
ところが、05年の秋に「200億ドル(2兆3000億ドル)まで増やす必要がある」と
発表。
「別にどっちでもいいじゃないか?どうせ払うのはサハリンエナジーなわけだし」
と思うでしょ?
そうじゃないんですよね。
契約によると、サハリンエナジーはかかった費用を、石油・ガスの取り分として
回収できることになっているのです。
事業予算が100億(1兆1500億円)増えたということは、ロシア側の取り分がそ
れだけ減るということになります。
1兆1500億円。。。
結構なお金です。
この点トルトネフ天然資源相がブツブツいっています。
「ロシア、サハリン2停止求める提訴は超過コストが原因と主張
[モスクワ 12日 ロイター](中略)
シェルは昨年、サハリン2の事業コストを当初の2倍に相当する200億ドルに
修正。
サハリン2は生産分与契約に基づいているため、コスト高はロシアにも影響
を与える。
トルトネフ天然資源相は「シェルの意図が実現すれば、ロシア連邦は100億
ドルを失うことになる。合意内容は双方を拘束している。
ロシアは自国の利益を守らざるをえない」と述べた。」
(ロイター) - 9月13日10時16分更新
もう一つ、ロシアのPS法。
PS法というのは、国が投資家に対して一定の鉱区開発・生産の排他的権
利を与え、採取物(生産物)が投資家と国で分与される制度。
ロシアのPS法は、経済がどん底だった1995年末、外資導入のために作ら
れた。
ところがここ数年の石油高で、オイルマネーが洪水のように流れ込み、別
に外資を呼び込む必要がなくなってきた。
それで、「サハリン2のPS法の条件を、ロシアが儲かるように改定しよう」
という活動が活発化しています。
今回の出来事も、そういった圧力の一環でしょう。
三井・三菱としては、「今さらそんなこと言われてもね~」(怒)というところ
でしょう。
▼もっと本質的な理由
ここまで、サハリン2にかぎった話をしてきました。
しかしもっと本質的な理由は、世界的潮流です。
つまり、石油枯渇時代が近づいていること、米一極主義対多極主義。
もう一つ米ロ冷戦。
つまり、ホドロコフスキー逮捕→グルジア・ウクライナ・キルギスのカラー革命
→上海協力機構強化による反革命運動・ベラルーシでの革命阻止・ウクライ
ナでの親ロ政権復活→ロシア石油のルーブル取引を開始。
今回の出来事も、この流れの一環と見るべきでしょう。(シェルは米系ではな
いが。。。)
つまりどういう結論か?
サハリン2だけでなく、他の油田でも問題が起こってくるということです。
この手の問題について触れる機会が、これから増えることでしょう。(涙)
(おわり)
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○メールマガジン「ロシア政治経済ジャーナル」
発行者 北野 幸伯
購読は http://www.mag2.com/m/0000012950.htm
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サハリン2とサハリン1ののニュースはこちらで読んでね。
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