国民向けの対策は普及啓蒙でしか進められないことが予想されるチャイナの環境対策
中国】環境・省エネに対する中国政府の取組み内容
2010年に向かって中国の環境・エネルギー問題は解決されるのか(3)-天野宏欣(NRI上海)
第11次5カ年規画が公布される前に、国務院から中長期的な環境保護対策に関する決定「科学的発展観を実行し、環境保護を強化することに関する国務院の決定」が出された。この決定は、2010年までに重点地区と都市部の環境水準の改善と生態環境悪化の抑制、2020年までに環境水準と生態環境状況を改善させることを目的に出された計画である。
本シリーズ初回で、大雑把に中国の環境・エネルギー問題のポイントを、「政府と企業」、「インフラ」、「国民」に絞ったが、国務院のこの「決定」を「政府」、「企業」、「インフラ」、「国民」という視点から独自に整理してみると、以下のような概要に分けられる。
■国務院決定の整理
1. 政府対策
(1)一部環境保護意識に欠ける幹部の意識向上を望む。
(2)環境保護をより戦略的な位置付けにし、科学的に環境保護対策に取組み、痛みを伴う問題の解決を望む。
(3)地域によって環境と開発のバランスを変える。
・優化開発区域、重点開発区域、制限開発区域、禁止開発区域
(4)政府のグリーン調達を進める。
(5)国家環境保護プロジェクトを5カ年規画期間に実施する。
(6)環境法規と基準を整備する。
・土壌、化学物質、生態系、遺伝子操作、オゾン層、環境補償等。
・環境保護法の改定を進める。
(7)環境行政の執行力を厳格化する。(汚染工場に対する厳しい制裁等)
(8)環境管理の政府の体制を整備する。
(9)環境状況監視(モニタリング)の仕組みを、地方各級政府のレベルに徹底させる。
・汚染物の総量規制に結びつける。
(10)環境インフラ、技術開発投資の財源を確保・強化する。
(11)インセンティブ制度を導入する。
・税収、融資、政府のグリーン調達、再生可能エネルギーの価格補助、環境保護事業の税減免措置、SO2排出権取引等
(12)各地方政府のリーダーに環境責任を持たせ、評価を行う。
・グリーンGDP等の地方行政の評価指標策定を進める。
(13)政府部門間の障壁を取り払える統一監督管理組織の設立を図る。
2.企業対策
(1)リデュース、リユース、リサイクルの原則を基に、製品・生産の設計と改造を図る。
(2)拡大生産者責任制を適用し、省エネ・節水・リサイクルの産業構造を進める。
(3)環境保護産業を育成する。
(4)企業工場移転後の土壌汚染の修復を行う。
(5)SO2対策(石炭洗浄、火力発電所の脱硫、鉄鋼・冶金業の制限)を行う。
3.インフラ対策
(1)省エネ建築、中水利用、廃棄物回収再利用を進める。
(2)上水道安全と重点流域(淮河、三峡水源、黄河等)の水質汚染管理を実施する。
(3)都市部の環境インフラの整備を進める(上下水、廃棄物、騒音、緑地等の対策)。
(4)新エネルギー(風力、地熱、ソーラー、バイオマス)の推進、原子力発電の積極発展、水力発電の適切な発展等再生可能エネルギーの比重を高める。
・原子力の安全管理(環境、廃棄物)の監督。
(5)「新農村」の建設に併せた、土壌汚染の調査と耕作地整備を進める。
(6)生態系保護の強化(資源開発の管理、自然植生回復、植林等)を進める。
4.国民対策
(1)環境ラベリング制度、環境認証制度の導入で環境配慮型消費を推進する。
(2)環境啓蒙、教育を進める。
以上から読み取れるように、中国の中長期的な環境・省エネに向けた取組みとして、地域別の開発方針、法整備、管理体系、監督執行能力、財源や評価体系といった政府組織の改革が進められようとしている。特に地方政府の評価体系に環境保護を要素として入れ込む中国流の目標管理方式が、その他のインフラや企業対策を引っ張ることが期待されている。
一方で、国民向けの対策は普及啓蒙でしか進められないことが予想され、かつ、最も時間がかかる分野であるので、第11次5カ年規画の目標「人口、資源、環境と経済成長が調和した社会」の形成は、中国国民が環境を意識した生活・消費行動を取れるようになれないと実現は難しいのではないだろうか。(執筆者:野村綜研諮詢(上海)有限公司 天野宏欣)
(サーチナ・中国情報局) - 9月18日10時11分更新