高速道路で走りながら嘔吐
県外の親戚の家に車で行き、親戚の姉の誕生日パーティーに参加した
後のことだった。なんとなく気分が悪いので嫌な予感がして、
早めに家に帰るとみんなにいい、5時頃お別れした。
高速道路に乗ったのはいいが、乗って直ぐに吐きそうな予感がした。
まさかと思いながらも運転しながら左手で紙袋にコンビニでもらった
ビニール袋を入れて万が一の場合に備えたのだが、用意して直ぐに
いきなり吐いてしまった。
気持ちの用意ができていなかったが、ビニールは用意ができていた。
高速道路で80キロぐらいで走りながら、前を見つつ運転しながら
吐くというのはなかなか大変だった。左手で小さな紙袋を持ち、右手で
ハンドルを握り、吹き出してくるモノを紙袋の中のビニールで受けるのは
なかなかの芸当だったが、気が付けば吐瀉物は袋に上手く入らず、
胸やら膝の上にこぼれている。温かい感触が胸と膝にじんわり伝わって
くる。頭の中はとにかく車を正しく走らせることと、まだ1400キロしか
走っていない新車を汚さないことだけだった。
自分はいくら汚くなってもいい。車のシートだけは汚したくない。
一通り吐いたので、紙袋からビニール袋を出して口を縛ろうとしたが
紙袋から出そうとしたら、そのままビニール袋が膝の上に落下した。
(しまった!)中身がどっと膝の上に流れた。膝をぴったり寄せて
シートにこぼれないように頑張った。ちょうどお腹にUVカットの長袖
ブラウスを置いていたので、ブラウスでなんとかビニール袋を丸め
込んだ。膝の間にこんもり溜まった嘔吐物を手で掴んでブラウスの中
に入れて包み込む。ブラウスは水を通しにくい素材だったので
助かった。吐き気が治まったと思ったらまた次が来た!いそいで
ビニール袋を取り出した後の紙袋の中にあった包装紙の塊を取り出し
口に当てる。どっと水のようになったモノが出てくる。包装紙を丸めて
紙袋に戻し、それを助手席の足下に置く。足下の敷物の上なら
洗えば大丈夫だ。口をTシャツの袖でふく。今日に限って車の中に
ティッシュが無いのだ。こないだ空箱を捨ててから新しいティッシュを
置くのを忘れていた。
目で高速道路の避難所を探したが、こんな所で車を停めて、何が
できるだろうかと考えた。Tシャツもジーンズもボトボトだ。
この状態で車を降りても、着替えも無いしどうしようもない。
(次の料金所まで突っ走ろう!)そう決めて生あたたかい塊を抱えて
そのまま走ることにした。だんだん吐いたモノが冷えてきてひんやり
してきた。でも暑いのでエアコンは冷房のままにしておいた。
乾燥させたほうがいいかもしれない。シートには数カ所、飛沫が
飛んでいる。ハンドルの下半分には、いろんなモノが付いている。
お昼は、山の上にあるレストランで食べた。
山小屋風の入り口を入ると、中はまるでアメリカ人の家のよう。
あちらこちらにバラの生花が生けてある。ゴージャスなレストランだ。
天井と全面がガラスのサンルームのような部屋の前には、谷が見下ろ
せるバルコニーがある。そこにはまるでフランスの避暑地のような
布と木で出来たパラソルがいくつも立ててあり、その下には木製の
テーブルとイスが置いてある。バルコニーからは遠くの街と海が
見える。時々飛行機が飛び立ち、ゆるく旋回して腹を見せながら45度
右上の空に向かって飛び立っていく。
そんなレストランで2800円ぐらいのゴージャスなランチを食べたのだ。
それなのに、全部吐いてしまうなんて、残念だった。
白いTシャツには、オレンジ色のトマトの皮とパスタと未消化のアスパラ
ガスがいっぱい。高速道路で、こんな格好になってしまうなんて、いったい
どうしたらいいんだ。とにかく料金所まで行くしかない。そこにいったら
休憩してなんとかしよう。そう思ってガンガン車を走らせる。
料金所について、係のおじいさんに「ちょっと休憩したいんですけど、
あそこに止まっていいですか?」と尋ねる。おじいさんはわたしの格好を
見ても別におどろくようでもなく、「あそこの旗のあるところがガレージ
です。他の車に気を付けて行ってくださいね。」と言う。
料金を払って出てみたら、左の道からどんどん車が入って来ているし、
旗などどこにあるのか、さっぱり分からない。
(もういいや。このまま家に帰ろう。)そう思って、汚い姿のまま車を
飛ばす。吐きながら運転している時は、さすがにハンドルが少しぶれた。
高速道路で吐きながら運転している人なんて、めったにいないはず。
でも、子供を連れた家族だったら、子供が車の中で吐くというのは十分
ありえる。もし、新車を買ってご機嫌なお父さんの車の中で、子供が
吐いたら?お父さんは、怒るだろうか。きっと仕方が無いなと思って
我慢するのだろう。
シートがどろどろ、子供もどろどろ、車の中はエアコンをかけているから
密室で、臭いがトマトソースとパルメザンチーズだとしたら?
お父さんが怒ったら、子供は悲しそうに泣くのだろう。誰だって車の中で
吐こうなんて思ったりしない。本当にそれは突然に出てくるものなのだ。
予感があったとしても、いつ出てくるかなんて本人には分からないのだ。
どろどろになって泣いている子供、黙って我慢しているお父さん。
次のドライブインまで、子供の顔や車の中を掃除しだすお母さん。
お兄さんは「くっせー!」と大騒ぎ。家族でドライブ中に子供が吐いたら
こんな感じかな。
そんなことを想像しながら、車を走らせていると何とか家がある県まで
帰って来れた。とにかく早く帰りたい思いでいっぱいになっていた。
途中にドライブインがある!一瞬、入るべきかどうか考えた。
車から降りて、どろどろのTシャツとジーンズでトイレに向かう自分の姿を
想像した。やっぱり、止めておこう。家に帰って、どろどろのまま風呂場に
直行だ!そう思ってドライブインに入るのを止めた。
でも、なんとなく、このままで済むはずがないという気がして、途中にある
友達の家に寄ることにして次の出口で高速道路を降りた。
一般道路を降りたら、普通の人に姿を見られる可能性が高くなる。
なるべく見られないよう、こそこそしながら友達の家に向かった。
携帯電話で「助けてコール」をすると、外から帰るところだから、駐車場に
止めて待っているように言ってくれた。
友達のガレージに車を入れて車の外に出た。車のシートは飛沫が
何カ所か飛んでいるだけだ。ハンドルがかなり汚れている。
他は大丈夫だった。問題は服とブラウスで包んだビニール袋とブラ
ウスだ。紙袋の中の本は、少し濡れた。今読んでいる「1500年の
真実 日本とシナ」渡辺昇一著 PHP研究所の本だ。
この本は、日本と朝鮮とシナを中心に、戦争になったいきさつを
歴史に忠実に書いている本で、読みやすいし、朝鮮半島の人間と
シナ人の性格にも触れて、どうして日本がどんどん戦争に引き込ま
れていったのか、詳しく書いている本だ。
その本が汚れたのが辛かった。友達が外から帰ってきたので家に
入れてもらった。その頃には、お腹が急におかしくなっていたので、
友達の家に寄ったのは正しい判断だった。吐いたということは、いずれ
トイレにも行く必要にかられることになる。
げっそりしてトイレから出ると、友達が自分の服を出してくれた。
ありがたく貸してもらってシャワーを使わせてもらった。風呂の中で
Tシャツやジーンズを洗うと、いろんなモノが流れ出して配水口のネットに
ひっかかった。それらを丁寧に外して、排水口のネットも綺麗に洗った。
友達が服を洗濯してくれた。
なんだかフラフラになって、横になっていた。
これで朝ご飯も食べていないし、昼ご飯は全部出してしまったし、
夜ご飯も食べる気がしないから、一日絶食したってことだ。
少し休んで10時頃、元気になったので家に帰った。
友達が買ってきてくれた20世紀梨だけ食べる気になって食べた。
事故を起こさず無事に帰ることができた。それだけは良かった。
次の日は、日曜日だったのでいつもの友達を迎えに行って一緒に
車で教会に行ったら、なにか車の中が臭うと言われた。
友達にわけを話すと、「わたしも子供の頃に車の中で吐いたこと
あるわ。」と言っていた。そういうことは良くあるのだ。
車の中にはいつも二重にしたビニール袋を入れておくべきだ。
でも、まさか自分が高速道路で運転中に車の中で吐くことになるとは
思っていなかった。