石原壮一郎の『大人のお悩み教室』
~第8回 他人を妬んでしまう~
「大人のお悩み教室」ウェブでもご覧いただけます!!
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◎● プ ロ ロ ー グ
人生には、さまざまな悩みが付きもの。そして悩みに
は、さまざまな回答が存在します。仕事にまつわる定
番の悩みに、作家、タレント、スポーツ選手などは、
どんな解決策を示してくれているのか。見比べながら、
自分なりの乗り越え方を探ってみましょう。
□■ 第8回
~ 他人を妬んでしまう ~
誰しも身に覚えがあるように、人間は嫉妬深い生き
物です。同僚の成功や身近な人の幸福を見ると、心穏
やかではいられません。いっぽうで、そんな感情を抱
いてしまう自分を責めたくもなります。「妬み」とい
う醜い感情と、どう付き合えばいいのか。いろんな回
答者が提示する解決策を見てみましょう。
出身大学も職場も同じA君に嫉妬しているという29
歳の男性会社員。こちらの仕事に関するいいアイディ
アをもらっても、喜ぶより「余計な口出しをするな」
という気持ちが大きいし、相手がうまくいくと不愉快
になる。どうしたら嫉妬をなくすことができるかとい
う悩みに、ディスカヴァー21の代表取締役である伊藤
守さんは、こう答えます。
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〈このセンチメンタリズムと自己憐憫と……やだね! 自
分のことだけしか好きになれない奴! でも、本当は自
分のことが好きじゃないんだよ。誰かの期待に応えよう
とすることばかりに忙しくて、今、自分はこうなんだと
いうことは何も受け入れられないでいる。(中略)生の
自分はこうなんだ、という現実に目を向けて、そこに気
づきが生じてくるというプロセスに入らないと、どこま
でも、この状態は続くよ〉(ディスカヴァー21『よく効
く人生相談室』より)
嫉妬している自分も含めて、そのみっともなさや未
熟さを自覚しないと、何も始まらないってことですね。
確かに「なんであいつばっかり」と妬むことで自分を
甘やかしているうちは、何の進歩もないでしょう。
結婚15年目にして中古マンションを手に入れた38歳
の主婦。ところが隣に住んでいる若夫婦は、双方の親
が共同出資してマンションを買ってくれたという。こ
の差はどこから生まれたのか。「お隣のことを考える
とユーウツなのです」と嘆く彼女を、作家の阿佐田哲
也さんは、こう慰めます。
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〈人の運というものは、おおむね(ごく少数の例外をのぞ
いて)トータルすると大差がなくて、皆、チョボチョボ
になってしまうみたいですね。(中略)彼等の一生のト
ータル、自分たちの一生のトータルをつき合わせて計ら
ないと、恵まれていたかどうか、わかりません。短いサ
イクルで計れば、その都度他人のいい所ばかり目立って、
きりがありませんよ〉(文藝春秋『週刊文春』1989
年4月27日号「オトナの相談室」より)
ギャンブラーとしても名をはせた阿佐田氏らしい回
答です。同じ悩みに対する、漫画家の黒鉄ヒロシさん
の答えは次のとおり。
…………………………………………………………………
〈人生はハンディキャップレースのようなものですからね
……。しかも条件の悪い方に負の斤量が多いというモノ
スゴサ。(中略)価値観をかえちゃえば楽になれるので
すが、どうやらハンディキャップレースをお続けのご様
子……。「比較の心」が貧乏の心の素ではないでしょう
か……〉(同)
上を見ればキリがないし、うらやめばうらやむほど、
妬めば妬むほど、自分がミジメに思えてくるだけだと
言っています。
最後は、大学時代からの友達の成功に嫉妬してしま
うという悩み。お互いに画家で、今までは同じような
評価や収入だったのに、突然、相手が売れっ子に。そ
の絵や才能は認めてはいるものの、嫉妬してしまう自
分がいる。「親友に対してこんなふうに競争心を抱く
のは、おかしくないでしょうか」という訴えに、アメ
リカの心理療法家で女性心理学・家族心理学の専門家
であるハリエット・レーナーさんは、こんなアドバイ
スを贈ります。
…………………………………………………………………
〈もちろんあなたの感情はおかしくなんてありませんし、
そういった感情を抱いていることをちゃんと自分で認め
られるのは、あなたの長所です。友情は、競争心によっ
てではなく、競争心を否認することによって汚されるも
のだからです。(中略)あなたがベスをうらやんでいる
という、「受け入れ難い」感情を認められなければ、彼
女の作品を蔑んだり無視したりするといった形で、その
感情を表現してしまうかもしれません〉(誠信書房、訳
・園田雅代『人生の浮き輪』より)
ここでは女性同士の友情について語られていますが、
男性同士の場合も、友だちではなく同僚という関係で
も、きっと同じこと。相手の実力を認めつつ、「いつ
か追いついてやる」と思っているうちは、多少の嫉妬
心はむしろ励みになってくれるでしょう。自分に対し
て「オレは妬んでなんかない!」と無理に言い聞かせ
るほうが、よっぽど事態を悪化させそうです。
□■ 石原の結論!
妬みのタネは、ありとあらゆるところに転がってい
ます。その気になれば、会社でも家でも、単に道を歩
いているだけでも、無数に見つけられるでしょう。た
だ、頭では「人を妬むのはみっともない」「人を妬ん
でもキリがない」とわかってはいます。それでいて、
つい妬みの気持ちを抱いてしまうのが人間の性。切っ
ても切れない関係にあるにもかかわらず、なかなか付
き合いづらい相手です。
「妬みの感情」から必死で目をそらそうとすると、
相手の長所にケチをつけたり、自分の過大評価に精を
出したりする羽目になりかねません。「妬んでいる自
分」に後ろめたさを覚えて自分を責めてばかりいるの
も、それはそれで、何も生み出さない単なる言い訳で
す。
たとえみっともない感情でも、確かに「自分が抱い
た感情」だと認めることが大切。その上で、どう克服
するかや、どう利用するかを考えるのが、大人の落と
し前の付け方と言えるでしょう。もちろん表面的には、
みっともない感情を押し隠して、いかに無難な態度を
貫けるかという点も、大人の醍醐味であり実りある克
服への近道です。
□■ 石原壮一郎プロフィール
1963年三重県生まれ。コラムニスト。雑誌編集者を経て、1993年に
『大人 養成講座』(扶桑社サブカルPBで復刊!)でデビュー。
以来、大人モ ノの元祖&本家として日本の大人シーンを牽引し
ている。『大人力検定』 『大人力検定DX』(文藝春秋)は各
メディアで話題沸騰。5~6年前から人生相談本や記事の収集&分
類に没頭している。個人サイト「大人マガジン」でも大人ワールドを展開中!!
<最新刊>大人の女養成講座(扶桑社サブカルBPシリーズ)
http://www2t.biglobe.ne.jp/~isihara/onnayousei.html