中国の対日宣伝工作は日本のメディアを使い世論を操作する。
中国の対日宣伝工作で最大の効果をあげているのが、「南京事件」に関する
宣伝戦だ。さらに宣伝工作の対象は在日中国人にも広がっている。
≪大虐殺記念館≫
中国・南京の「南京大虐殺記念館」(侵華日軍南京大屠殺遭難同胞記念
館)は1985年に建設され、現在は拡張工事が行われているため
閉館中だ。2年後に敷地面積7・32ヘクタール、建築面積2万3000平方
メートルの大規模施設に生まれ変わる。
「三〇〇、〇〇〇」
記念館の前面に掲げられた数字は中国が主張する虐殺者数だ。
「30万人虐殺」は、当時の南京市の人口や軍事常識では不可能で、誇張
された数字であるのは研究者にとって“常識”だ。
しかし、この記念館を訪れた日本人修学旅行生や政治家は、凄惨(せいさん)
な展示内容に絶句し、贖罪(しよくざい)意識を植え付けられるという。
「(過去を忘れず未来を大事にするという)中国側の姿勢に心の
豊かさを感じた」
17日、記念館を訪れた自民党の古賀誠元幹事長はこう語った。
中国側は、休館中の記念館を古賀氏のために特別に開いた。
だが、展示物には、偽造写真や事件と関係のないものも少なくない
という。日本政府も6月、「『記念館』に対し、写真パネルで用いられ
ている写真の中に、事実関係に強い疑義が提起されているものが
含まれている旨を指摘している」(
河村たかし衆院議員の質問主意書に対する答弁書)との見解を示した。
記念館を訪れたことのある河村氏は、「あんな展示を見たら、
中国人は日本に復讐(ふくしゅう)心を持つ」と語る。
≪歴史カード≫
中国事情に詳しい国際政治学者によると、対日歴史カードの扱いや、
宣伝工作の基本方針を決めるのは中国共産党中央政治局。
実行に移すのが党中央宣伝部だという。
ことに南京事件の宣伝工作は、1930年代に国民党が生み、
共産党が1980年代に育てた“国共合作”といえる存在だ。
東中野修道・亜細亜大教授によると、1937年12月の南京陥落から
7カ月後に出版されたハロルド・ティンパーリ編「戦争とは何か-
中国における日本軍の暴虐」が宣伝戦に大きな役割を果たしたという。
「私の調査で『戦争とは何か』は中国国民党の宣伝本だったことが
百パーセント確認された」と、東中野氏は指摘する。
ティンパーリは英国紙の中国特派員で、同書は南京在住の欧米人(匿名)
の原稿を編集、38年にロンドンやニューヨークで出版された。
この本をもとに「残虐な日本」のイメージが定着していった。
実はティンパーリは、中国国民党の「顧問」だった。
東中野氏が台北で発見した極秘文書「中央宣伝部国際宣伝処工作概要」(
1941年)には、「国際宣伝処が編集印刷した対敵宣伝書籍は次の2
種類」とあり、そのうち1冊が「戦争とは何か」だった。
国民党で宣伝活動を担当していた作家の郭沫若は著書「抗日戦争
回想録」で「宣伝は作戦に優先し、政治は軍事に優先する」との当時の
スローガンを紹介している。
「中国共産党は、『アジプロ』を重視していた。アジテーション(扇情)と
プロパガンダ(宣伝)という意味だ。
日本人は『扇情』『宣伝』というと後ろ暗く感じるが、彼らは公然とやっている」と、
現代史家の秦郁彦氏は指摘する。
秦氏は「最大限で4万人」との立場だが、かつて中国人学者に30万人説に
ついて聞いたところ、「『たくさん』という意味だ」との答えが返ってきた。
秦氏は「中国は『30万人』は絶対に譲らない。
つじつまが合おうと合うまいと、情報戦の世界では『たくさん』という
イメージを作るのは当たり前。
中国がカードを切れば、日本国内で何倍も大騒ぎしてくれる。
こんなに安くつく情報宣伝工作はない」と指摘する。
≪コントロール≫
在日中国人向けの中国語新聞や雑誌は現在、約20も発行されている。
そのうち公称部数8万部の「中文導報」は20日付の1面トップで、
台湾の馬英九中国国民党主席の訪日を「3つの誤算があった」と報道。
「国民党は政権を目指すなら、自分に対する認識と世界に対する認識を
改めるべきだ」と厳しく批判した。
その一方、2面では「日本は靖国の代替施設建設について政権中枢で
熱心に議論、胡錦濤国家主席訪日のため道をつくろうとしている?」との
記事を掲載。さらに中国側が歓迎した民主党の小沢一郎代表の訪中を
「昔を思い、今を大事にし、未来をとらえる。小沢は丁寧に中国の旅を
作り上げた」と持ち上げた。
記事の内容は中国政府の方針に近い立場をとっているようにみえるが、
同紙の楊文凱編集長は「本国政府や大使館から編集方針で圧力はない」
と語る。
だが、日本国内で発行されている中国語新聞・雑誌の大多数は
中国政府を批判する記事を載せないのが特徴だ。
ある日中関係筋は、「中国人向けマスコミの中には経営者や記者が
定期的に大使館に呼び出され、指導を受けているところがある。
本国の意向に反する記事を掲載したら、パスポート更新をはじめ、嫌がらせを
受ける可能性があるからだ。
逆に意向に沿った記事を載せれば広告の便宜や事業で大使館に
後援してもらいやすいのでメリットがある」と明かす。
在日中国人の活動を紹介する情報誌「日本僑報」を創刊し、出版活動や
メールマガジンを運営する段躍中・日中交流研究所長は「政府の息が
かかっている媒体もある」と関係筋の話を裏付ける。
段氏によれば、「中国政府はインターネットを自分の意見を述べる道具に使おうと
している。
それは中国政府関連のホームページで日本語表記が充実しつつあることなどを
みれば分かる」という。
日本国内向け中国系マスコミの中には「北京週報」の日本語版などがインター
ネット版を開始、対外宣伝機能の強化をはかる動きが出ている。
こうした指摘に、在京中国大使館の李文亮報道部参事官は、「中国の広報
活動はまだまだ非常に足りていない。どこの国でも同じことで相互理解のため
には、まだ努力しなくてはならないと思っている」と語っている。
産経新聞 2006年7月26日