レアメタルは大事だよね。 | 日本のお姉さん

レアメタルは大事だよね。

マンガン、コバルト、タングステン、ゲルマニウム、プラチナ、パナジューム、リチュウム、ガリウム、セシウム、アンチモンなどのレアメタル(希少金属)が最近急騰している。レアメタルは液晶テレビ、携帯電話機、自動車産業、軍事産業などに欠かせない素材だ。筆者はこれらレアメタルの高騰はしばらく続くと見ている。

レアメタルは特に中国だけではなく、ブラジル、南アフリカ、ロシア、チリ、インド、オーストラリアなどにあるといわれている。しかし日本の場合は、日系素材メーカーが中国での鉱山開発に深くかかわっていた経緯があり、主たる供給源として中国に頼ってきた実態がある。昨年中国では鉱山のガス爆発などが頻発し、それによって鉱山の操業規制が厳しくなり供給不足となっていることが高騰の主な原因であると思われる。

中国側は安全管理や環境破壊などに関する技術供与や資金援助を日本側に要請しているようだが、外資企業が直接鉱山開発に参入できない現状では日本側の協力も限定的なものにならざるを得ない。たとえ参入できたとしても、輸出は中国政府の政策に強い影響を受けるライセンス制であるため、日本へ供給できる量の保障はない。したがって今後レアメタルに関しては中国以外の地域で鉱山開発をするなど調達先の多角化が必要で、それが実現するまではレアメタルは高騰し続けるだろう。

一方で、レアメタル高騰の背景には中国政府が内需のために備蓄を始めたとの報道もある。後述するように、中国ではまだレアメタルを備蓄するまでにはいたっていない。レアメタルが逼迫(ひっぱく)するような産業構造にはなっていないからだ。ただし、レアメタルは銅と同じ非鉄金属であることから、銅の需給動向の影響を受けやすいことも事実だ。以前このコラムで紹介したように( 参考記事「大陸向け高付加価値製品・サービスを香港でつくる」 )、中国で現在逼迫している素材の代表は銅であると言われおり、その動向に注目する必要はある。新たに中国政府が発表した「主要鉱物資源の戦略的備蓄制度」も紹介しよう。

未熟ながら先物取引せざるをえない矛盾

ロンドン金属取引所(LME:London Metal Exchange)など国際市場で取引されている銅は2005年初めは1トン当たり3000米ドル台であったものが、7月20日時点で7530米ドルにまで値上がりしている。15年ぶりの極端な上昇基調にある。最高値は8600米ドルであったが、6月ごろには3カ月先物が一時6570米ドルまで下げた。このときは、銅だけでなくレアメタルの価格も一斉に下げた。金利の先高感の影響で相場をかさ上げしていた投機資金が手を引いたと考えられている。専門家は5000米ドル台が実態と見ているが、仮需を呼ぶと再び8000米ドル台に入るとの指摘もある。実際、7月中旬には8040米ドルをつけた。

問題はこの高騰は中国が主役となった点にある…

問題はこの高騰は中国が主役となった点にある。つまり、銅の先物取引はデリバティブの一つで、資本主義の最先端の取引であるにもかかわらず、これらの取り引きを国家管理している中国がLMEなどの国際市場で取引をしているのだ。迅速果敢な決断を必要とする先物取引にも拘わらず、中国では専門家も育っていないであろうし幾多の矛盾を抱えている。この問題は、旧ソ連をはじめ社会主義国でも同じ経験があり、日本とか韓国でも外貨不足の時代は同じ困難に遭遇していた。

通常、銅などの精錬業社は通常取引で現物を買って同じ量の先物をLMEに空売りしている筈だ。すなわちごく一般的なリスクヘッジで、買った現物の価格より市場価格が下がっても先物を売っているので損はカバーできる。売った場合はこの逆のヘッジをすれば良い。今年の上昇場面ではヘッジしていないケースが多いと筆者は見るが、LMEの先物が上がれば、空売りのカバーのため、ブローカーは追加証拠金(デポジットの増額)を要求される。これは株式市場と同じだ。

ところが中国のブローカーが問題なのは、外貨が自由に入手出来ないことだ。このような場合 国家保証統制委員会(CSRC:China Security Regulatory Commission)に申請して外貨を取得しなければならないが、申請から許可までに十日はかかるという。これでは迅速な行動は出来ないのでリスクヘッジはせず、相場次第となり、場合によって現物は巨額の損失となる。

実際問題になっているのが、先のコラムでも書いた国家発展改革委員会(The National Development and Reform Commission)配下の国家備蓄局(SRB:State Reserve Bureau)職員の銅トレーダーQi-Bing Liu(劉 其兵)氏だ。

2005年7月と8月の先物取引で18万トンの空売りをした件だ。当初4億米ドル程度の損害を予想していた。6月初めのSouth China Morning Post紙によると手仕舞い残の13万トンの大半の受け渡しは今年に持ち越され、3月から5月に決済され、一部がまだ残っていると報じている。この結果、LMEの調査では韓国の倉庫にある仕向け先は中国と思われる銅が10万トンに及ぶとのことだ。最終損失は未定としても当初の4億米ドルを超えていることは確実で、数億から10億米ドルにまで膨らんだと予想されている。

Liu氏が起こした損失の行方に興味はないが、中国の2004年の銅の消費量は“世界最大”の288万トンであり、国際市場での中国の取引量が少なくないことは知っておく必要がある。

先物取引の失敗で今度は大規模備蓄計画を発表…

さらに注目しなければならないのが、最近国土資源省が主要鉱物資源の戦略的備蓄制度の概要を発表した点だ。石油の備蓄制度に次ぐもので、鉄(鉱石)、銅(鉱石)、ボーキサイト(アルミニウム鉱石)、マンガン(鉱石)、クロム(鉱石)、タングステン、ウラニウム、石炭が対象資源となっている。銅取引の損失以来、穀物の備蓄も開始したといわれている。

国土資源省の2010年までの目標は膨大で、50億トンの原油、2兆立方メートルの天然ガス、50億トンの鉄鉱石、2000万トンの銅、2億トンのボーキサイト、1000億トンの石炭の備蓄が望ましい、と戦争用の備蓄でもあるまいし気の遠くなるような数字を挙げている。2005年の中国のボーキサイトの需要量は1700万トンと推定されており、それぞれ数年分の備蓄に相当する。

ボーキサイト、銅、鉄鉱石などバルクのものはストックするだけでコスト増になるし、石炭の場合、夏場の火災の危険もあり単なる備蓄は不可能だし土地選定も問題であろう。第11次5カ年計画では鉱物探査計画なるものがあり、探査目標を掲げているが推定埋蔵量とか資金計画は相変わらず不透明なので、結局は国内資源開発に資金を廻す口実であるとの見方もある。

筆者の見るところ5カ年計画発表の年には各省庁や地方政府が競って新計画を発表するので、それぞれに矛盾があるし、不透明さゆえに解釈が難しい場合が多い。いずれにしても、銅やレアメタルなどの非鉄金属の実需筋は当分中国にかき回されることを覚悟しなければならない。

南船 北馬

長年商社で海外取り引きに従事。

ニューヨーク、ロンドン、香港、北京と20年近くを三極で過ごす。

中国との取り引きは1970年代から経験。

北京には天安門事件後に駐在。 欧米での長い経験と香港企業との付き合いも深く、海外経験が中国中心の中国通とはやや異なるクールな見方を持っている。

現在、日本香港協会理事長。

デンマーク、カナダ、旧東欧圏諸国などとの経済交流にも積極的に参加している。

http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/china/hong_kong/060724_21th/


中国は銅で何を作っているのだ?