中国のお金
グローバル投資のポイント 第17回-村田雅志
中国人民銀行は、6月末時点の外貨準備高が前年同期比32.4%増の9,411億ドルに達したと発表しました。中国の外貨準備高は、昨年末(8,189億ドル)から半年間で1,222億ドル増加、6月単月だけでも161億ドル増加しており、今年に入ってから急ピッチで拡大を続けています。
■喜べない外貨準備高の増加
外貨準備高は、中央銀行が保有する外貨の量を意味しているため、外貨準備高が増えれば増えるほど、その国の中央銀行(ひいては、その国全体)の富が増えていることになり、直感的には喜ばしいことのように思えます。ただ中国の場合、外貨準備高が増え続けることは喜ばしいことばかりとはいえません。
中国の場合、外貨の資本取引が幅広く規制されていることもあり、中国企業のほとんどは貿易で得た外貨を中央銀行である中国人民銀行に持ち込み人民元と交換をします。このため、貿易黒字が増えれば増えるほど、中国企業は外貨を人民元に換えようと、中国人民銀行により多くの外貨を持ち込むことになります。
中国企業の多くは、ビジネスチャンスが急速に拡大していること等から、手元の資金の多くを設備投資に費やす傾向にあります。これは、貿易で外貨を得る中国企業でも同様で、彼らは外貨を人民元に交換して設備投資を増やしています。つまり現在の中国経済では、
貿易黒字の増加⇒外貨準備高の増加⇒中国企業の手元資金(人民元)の増加⇒設備投資の増加
という図式が成立していることになります。
■「不良債権額」急拡大の恐れ
現在、中国経済では、設備投資の急拡大が問題視されています。設備投資が短期間で拡大すると、設備投資に必要な資材の需要が高まり、資材価格が上昇します。資材価格の上昇は、インフレリスクを高めることになります。また、設備投資は必ずしも企業収益の拡大に直結するわけではなく、場合によっては、収益を確保できず不良債権化することもあります。このため経済全体で設備投資が急拡大すると、経済全体の不良債権額が急拡大する恐れが出てきます。
設備投資が行き過ぎる場合、利上げといった金融政策で市中で流通している資金量を絞ることが有効です。たとえば、中国が4月に利上げを実施し、7月には預金準備率を引き上げたのも、設備投資の抑制を目的としたものと考えられます。
ただ、いくら中国政府当局者が市中に流通する資金量の抑制に努力しても、外貨準備高が増加している状態では、設備投資の抑制に対する効果は限られてきます。なぜなら、外貨準備高が増加していることは、中国企業がより多くの外貨を人民元に換えていることを意味しているからです。
■「元高が続くのは望ましい」
外貨が増えても市中に流通する資金量を抑制するには、2つの方法が考えられます。1つはより大きく金利を引き上げて、市中に流通する人民元を吸収する方法です。しかし、金利を大きく引き上げてしまうと設備投資だけでなく個人消費も抑制する可能性が高まってしまい、中国の経済成長率が低下する恐れがあります。
もう1つの方法が為替レートを人民元高に誘導する方法です。為替レートが人民元高となれば、中国企業が外貨を人民元に交換しても、得られる人民元が以前よりも少額となり、結果として市中に流通する人民元を抑制することになるからです。
今年5月に1ドル=8元を突破した人民元レートは、その後もジリジリと人民元高で推移しており、6月末あたりから1ドル=7元台で定着しています。また、為替政策に影響を持つ貨幣政策委員会の余永定委員が、「元高が続くのは望ましい」と発言するなど、金融当局の関係者からも元高容認の発言が出ています。外貨準備高と設備投資の増加が続く間は、人民元レートは人民元高の方向で誘導される展開が続く可能性が高いと思われます。(執筆者:村田雅志)
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2006&d=0720&f=column_0720_002.shtml