中国の「大学の卒業証書をよこせ!」デモ | 日本のお姉さん

中国の「大学の卒業証書をよこせ!」デモ

21世紀の中国を見極めるセンス(2)-藤村幸義(拓殖大学教授)

 6月半ばに河南省の鄭州大学で、学生数千人がデモを行い、校舎や宿舎などを破壊する騒ぎを引き起こした。と言っても、民主化などを求める政治的なデモではない。鄭州大学の正式な卒業証書をくれないのは詐欺だ、というのがその理由だった。背景には教育産業化という深刻な問題が横たわっている。

■民営メカニズムの新たな大学を創設

 中国では近年来、独立学院と呼ばれる大学が多く生まれた。全国で約300校にものぼる。一見すると公立大学なのだが、実は公立大学が官・財と合同で設置したもので、民営のメカニズムによって運営されている。合格基準は低く、教育の質はあまり高くない。高いのは学費だけと言ってよい。鄭州大学も同じやり方で、「昇達経貿管理学院」という独立学院を創設した。

 入学に際して学院側は学生に対し、卒業時には正規の鄭州大学の卒業証書を公布する、と約束していたらしい。はっきりと鄭州大学の文字が記載され、鄭州大学の印鑑が押してあれば、卒業後の就職にも役立とう。それならば学費が高くてもやむを得ない、ということで、ブームにもなった。

■学生に正規の卒業証書を出すと偽りの約束

 しかし実際には、2002年に入学した本科生の卒業証書には、「昇達経貿管理学院」の文字が単独で記載されていただけだった。それでもよくみると、末尾に「鄭州大学」の文字が小さく記載されていた。だが最近になって、今後の卒業に対しては、その小さな文字さえも入れず、昇達経貿管理学院とのみ記された卒業証書に改めることが発表された。

 学生が怒るのも無理はない。全校生徒、とりわけ今回06年度の卒業生が、怒りを爆発させた。激高した学生は、まず宿舎楼の部屋からビンやテレビなど様々な物を投げおろした。それでも収まらず、大学の外に出て大規模なデモを行い、周辺の器物や建物を破壊した。

 正規の大学の定員は限られている。この5-6年、定員を増やしてきてはいるが、それでも大学に入りたいと願う多くの若者を収容しきれない。政府の予算の制約もあって、そうやたらに大学を作るわけにもいかない。

 そこで既存の大学に官・財が協力する形で、新しいタイプの大学を作ってはどうか、ということになった。発想そのものは悪くない。多くの学生を収容できるし、国の予算で足りないところは官・財が補ってくれる。

■利益優先、教育産業化に走る

 しかし利益優先があまりに前面に出過ぎてしまった。その揚げ句、肝心の卒業証書についても、学生に誤った言質を与えてしまった。学院側は最初から学生をだますつもりだったかもしれない。あるいは政府当局が当初は正規の大学名を入れることを容認していたが、最近になって方針を変えた可能性もある。

 卒業証明書問題は昇達経貿管理学院だけに限らない。05年末には東北大学東軟信息学院において、またつい最近では浙江科技学院求是応用技術学院でも、全く同じ問題が発生し、学生たちが騒いでいる。

 教育は利益を生む産業だ、との考えが台頭してきたのは1999年ころだった。大学入試の合格点に足りなくても、「1点いくら」とお金さえ払えば入学できるところが増えてきた。大学の授業料も高騰し、いまや大学生は生活費を含めれば1年に1万元は必要になっている。貧乏人はとても払えない。大学に入学できても、大学生活を送っていけない学生が増えている。

 05年7月、寧夏・銀川で13歳の少女が服毒自殺した。両親への遺書には「13年育ててくれて、随分たくさんのお金を使わせてしまった。私が死ねば、10万元ほど節約できます。ごめんなさい。私はできの悪い生徒でした」と書いてあったという。

 教育産業化は大学だけでなく、小中高にまで蔓延してしまった。胡錦涛政権は最近になってようやく、教育産業化に歯止めを掛け始めたが、簡単にはなくならない。昇達経貿管理学院のデモ事件は、ほんの氷山の一角でしかない。(執筆者:藤村幸義・拓殖大学教授)

(サーチナ・中国情報局) - 7月12日

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060712-00000005-scn-cn