「黒社会」養う警察汚職蔓延
中国経済学者・ジャーナリスト 何清漣氏
中国社会をむしばむ汚職のうち、「黒社会」と呼ばれる暴力団と警察の癒着は、国外からは想像できない広がりをみせている。在米の中国人ジャーナリスト、何清漣(か・せいれん)氏は産経新聞への寄稿で、警察汚職そのものが暴力団を養う構造を指摘した。
◆◇◆
6月半ば、遼寧省瀋陽市内で、100人もの警察官が暴力団の薬物密売の片棒を担いでいたスキャンダルが明るみに出た。汚職警官には、薬物対策班長や分局長(分署長)クラスの現職幹部ら4人も含まれていた。海外であれば驚天動地の一大事だったに違いない。
だが、中国人、とりわけ遼寧省など東北3省の人々にとって、警察と暴力団の癒着はもはやニュースと呼ぶに値しない。
東北3省では暴力団の横行が甚だしく、その背後には警察や政府の役人が用心棒として控えている。暴力団の組長が政府の公職に就いていることも珍しくない。2004年に瀋陽で明るみに出たケースでは、市の公安局長(警察署長)以下32人の警察官、さらに一般の党・行政機関職員も含めると計64人が暴力団と癒着していた。
羽振りのいい暴力団となると、「裏の市役所」として公共サービスにまで介入してくる。堅気の衆の間でも、「政府よりヤクザの方が話が早い」といわれるほどだ。
こうした癒着は、むろん東北部にとどまらない。暴力団と直接対峙(たいじ)する警察が最もヤクザに取り込まれやすく、続いて検察、裁判所がわいろ攻勢の標的だ。警察と暴力団がツーカーの関係になれば、ヤクザの違法行為が野放しになるのは道理だろう。中国で生きながらえている暴力団には必ずこうした用心棒が控えており、歴史の長い組ほど背後の人脈は広いのだ。
では、どの程度の警察官が暴力団に取り込まれているのだろう。
中国公安省(警察庁に相当)のさる報告がある。それによると、1997年に同省が「督察」と呼ばれる監察制度を導入して以来、約9年間で1万34人の警察官が停職処分となり、5856人が身柄を拘束されている。このうち相当な数の警察官が暴力団にかかわっていたことは、いうまでもない。
また、最高人民検察院(最高検)がまとめた2001年から04年1月までの統計でも、検察が摘発した暴力団の用心棒は557人に上った。
こうした状況を前にすれば、誰もが当然の疑問を抱く。中国の暴力団を肥え太らせたのは、いったい誰なのか。
この疑問には、湖北省松滋市の公安局長を務めた●年炯氏が記者の質問に対してこう明確に答えている。「社会と一部の警察が連中を養ってきたのだ」と。
もし警察が野放しにしてこなければ、暴力団がここまで広がることはおろか、生き延びることもできなかったことは疑いない。
納税者が警察を支えるのは、社会の安寧を維持するためである。しかし、警察の一部が暴力団の用心棒に成り下がったとあっては、中国社会に頼るべき安寧は望み難いことになるだろう。
◇
【プロフィル】何清漣
か・せいれん 中国の女性経済学者、ジャーナリスト。同国の経済改革の構造的問題をえぐった「中国現代化の落とし穴」が1998年にベストセラーになったが、発禁処分となった。2001年に渡米し、現在、「中国人権」(本部・ニューヨーク)上級研究員。●=登におおざと産経新聞 2006年7月2日
中国社会をむしばむ汚職のうち、「黒社会」と呼ばれる暴力団と警察の癒着は、国外からは想像できない広がりをみせている。在米の中国人ジャーナリスト、何清漣(か・せいれん)氏は産経新聞への寄稿で、警察汚職そのものが暴力団を養う構造を指摘した。
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6月半ば、遼寧省瀋陽市内で、100人もの警察官が暴力団の薬物密売の片棒を担いでいたスキャンダルが明るみに出た。汚職警官には、薬物対策班長や分局長(分署長)クラスの現職幹部ら4人も含まれていた。海外であれば驚天動地の一大事だったに違いない。
だが、中国人、とりわけ遼寧省など東北3省の人々にとって、警察と暴力団の癒着はもはやニュースと呼ぶに値しない。
東北3省では暴力団の横行が甚だしく、その背後には警察や政府の役人が用心棒として控えている。暴力団の組長が政府の公職に就いていることも珍しくない。2004年に瀋陽で明るみに出たケースでは、市の公安局長(警察署長)以下32人の警察官、さらに一般の党・行政機関職員も含めると計64人が暴力団と癒着していた。
羽振りのいい暴力団となると、「裏の市役所」として公共サービスにまで介入してくる。堅気の衆の間でも、「政府よりヤクザの方が話が早い」といわれるほどだ。
こうした癒着は、むろん東北部にとどまらない。暴力団と直接対峙(たいじ)する警察が最もヤクザに取り込まれやすく、続いて検察、裁判所がわいろ攻勢の標的だ。警察と暴力団がツーカーの関係になれば、ヤクザの違法行為が野放しになるのは道理だろう。中国で生きながらえている暴力団には必ずこうした用心棒が控えており、歴史の長い組ほど背後の人脈は広いのだ。
では、どの程度の警察官が暴力団に取り込まれているのだろう。
中国公安省(警察庁に相当)のさる報告がある。それによると、1997年に同省が「督察」と呼ばれる監察制度を導入して以来、約9年間で1万34人の警察官が停職処分となり、5856人が身柄を拘束されている。このうち相当な数の警察官が暴力団にかかわっていたことは、いうまでもない。
また、最高人民検察院(最高検)がまとめた2001年から04年1月までの統計でも、検察が摘発した暴力団の用心棒は557人に上った。
こうした状況を前にすれば、誰もが当然の疑問を抱く。中国の暴力団を肥え太らせたのは、いったい誰なのか。
この疑問には、湖北省松滋市の公安局長を務めた●年炯氏が記者の質問に対してこう明確に答えている。「社会と一部の警察が連中を養ってきたのだ」と。
もし警察が野放しにしてこなければ、暴力団がここまで広がることはおろか、生き延びることもできなかったことは疑いない。
納税者が警察を支えるのは、社会の安寧を維持するためである。しかし、警察の一部が暴力団の用心棒に成り下がったとあっては、中国社会に頼るべき安寧は望み難いことになるだろう。
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【プロフィル】何清漣
か・せいれん 中国の女性経済学者、ジャーナリスト。同国の経済改革の構造的問題をえぐった「中国現代化の落とし穴」が1998年にベストセラーになったが、発禁処分となった。2001年に渡米し、現在、「中国人権」(本部・ニューヨーク)上級研究員。●=登におおざと産経新聞 2006年7月2日