先手を取った政策は、どこの国でも必要だ。
特別インタビュー】北京五輪前に占う 今までの中国とこれからの中国
第4回 藤村幸義教授に聞く - 民工待遇向上など今からの政策的措置が必要
世界最大の発展途上国である中国。人口13億人という背景のもとで、豊富かつ安価な労働力をてこに高度成長を実現してきた。今でも1.5-2億人の余剰労働力が農村に存在しているとされる。それでも2012年を境に生産年齢人口が減少、いずれ労働力不足の時代がやってくると拓殖大学国際開発学部アジア太平洋学科の藤村幸義教授はみている。
中国の市場経済を柱とした改革開放政策がどのように浸透し、いかなる課題に直面しているかを追及。三峡ダムや西部大開発に関する研究を進める過程で、拙速な市場経済の導入が恐るべき環境破壊をも引き起こしていると警鐘を鳴らし、頻発する地方暴動に対しても鋭いメスを入れる。
80年代に日本経済新聞の特派員・支局長として合計6年半北京に常駐し、以来一貫して中国の経済や社会の動きを分析してきた藤村教授に、ご自身の研究テーマを中心として、今後の中国がどうなるのか、2015年ぐらいまでのスパンで話を聞いた。(聞き手:有田直矢・サーチナ総合研究所所長)
――「中国・アジアはエキサイティング」と表現されているが。
中国は開発途上で、1-2年この目で見ないと、あまりの変化の大きさに驚かされます。それだけダイナミックなんですね。中国は政策の変化からも目が離せません。今でも年間3-4回、それぞれ1週間ほど中国には行きます。北京や上海は必ず行くようにしていますが、その他の地域はたまにしか行けず、だからこそ驚きの連続です。
最近では雲南省の景洪に行ってきました。そこから出発して、ラオスやカンボジア、ベトナムなどメコン河流域の研究調査が目的でしたが、景洪は20年ぶりぐらい。ものすごく変わっていましたね。ベトナムも興味深い。ベトナム人は中国人もかなわないぐらい非常にしたたかです(笑)。ただ、投資環境はまだまだですね。
■年間7-8万件ともされる暴動、反政府運動には至らず
――05年には反日デモがあり、地方で暴動が多発しているが。
反日デモは、靖国神社の参拝問題や歴史認識問題などもありますが、やはり自国政府や社会に対する不満が爆発したとみるのが正解でしょうね。だからこそ、中国政府も当初は静観しましたが、徐々に締め付けを厳しくしました。純粋な反日デモではないと判断して、それが思わしくない方向へ発展することを警戒したのでしょう。
中国では地方で年間7-8万件ともされる暴動が起きています。賃金の未払い、下崗(レイオフ)労働者の待遇の悪さ、不当な土地収用と立ち退きの強制、それから環境問題など理由のある暴動が多数を占めていますが、理由のない暴動、例えば街中で肩が当たった当たらなかったという些細なことから大規模な暴動に発展する場合もあります。
理由のあるなしに関わらず、こうした暴動が頻発するのは、中国社会全般に日常の不満が蓄積されてしまっていることを意味しているといえます。
――こうした暴動が中国社会を根底から揺さぶることになるか。
頻発しているとはいえ、これらの暴動は単発で、点の状態。線、あるいは面的に広がってはおらず、暴動全体を統率するような指導者も不在で反政府運動にまでは至っていません。胡錦涛・国家主席と温家宝・首相という体制になってから、政府首脳もこうした暴動の性格を注視しています。もし大きな運動になるようならば、徹底的に弾圧するという準備を怠っていませんので、すぐに対応するでしょう。
■10年後には米国を抜いて世界一のCO2排出国
――中国社会の問題点についてはどうみるか。
最近になって内需拡大をスローガンとして掲げるようになりましたが、今までも、これからも投資と輸出に頼る経済成長という形は存立するでしょう。それが中国の高度成長の起爆剤となってきたという側面は否定できませんが、今噴出している中国社会の問題はほとんどすべて、この投資と輸出という枠組みでの経済成長というところに起因しています。
外国からの投資や輸出に頼るから沿海部だけが発展する。それが沿海部と内陸部、あるいは都市部内の格差を広げることになります。
特に問題は、過度な開発などに伴う環境の悪化です。二酸化炭素(CO2)の排出量は既に米国に次いで世界2位。温暖化加速が懸念されていますが、このままでは間違いなく今後5-10年で米国を抜いて世界一のCO2排出国になるでしょうね。
二酸化硫黄の排出による、いわゆる酸性雨の問題も深刻です。一時期減少傾向もみられましたが、ここ2-3年でまた多くなってきています。がんの発生率の高い村とか、カドミウム(Cd)汚染などの各種公害も軽視できません。10%の経済成長が環境に与える影響は限りなく大きいのです。
――中国政府は環境対策にも力を入れていると明言しているが。
中央によるスローガンだけですよね。もっと本腰を入れなければならない。本気で対策を練るつもりならば今よりも10倍、100倍のコストをかける必要もあるでしょう。中央政府も環境対策のスタッフを多く抱えていますが、どうにも呼びかけにとどまっています。地方政府はいうに及ばず、企業の意識も低い。日本も協力していますが、それでもまだまだ足りません。
経済成長を維持するためにも工場を稼動し続けなければなりませんが、その工場では環境対策がほとんど取られていません。その設備が間に合わないのです。パルプや鉄鋼、発電所などが典型的な例です。経済成長の分だけ汚染が広がっているというのが現状でしょう。
■中国に労働力不足の時代がやってくる
――環境問題以外で指摘できることは。
最近「中国に労働力不足時代はやってくるか」(霞山会「東亜」2006年4月号)という論文を発表しました。中国といえば、安い賃金の豊富な労働力があり、むしろ余剰労働力の問題が深刻化しているという議論もありますね。民工の問題とも関連しています。ただ、中国の人口構造と今後の推移を考えると、中国はいずれ、しかもそれほど遠い将来ではなく、労働力不足に陥る可能性が高いといえます。
今でも一部地域、例えば福建省の一部などでは労働力不足という現象が発生しています。マクロ的にみれば、現在は労働力が有り余っている状態ですが、個別にみていくとそうでもない。上海市の人口は実は1993年から純減しています。流入人口に支えられているだけです。北京市もそうした兆候がみられるようになっています。
いわゆる少子高齢化ですね。日本よりも深刻です。毛沢東時代の生めよ増やせよの政策とここ30年における一人っ子政策、この両極端の人口政策を採用してきたためです。生産年齢人口は確実に減少していきますよ。高齢化率でみてみると、01年に中国は7%を超えて高齢化社会に入りました。日本と比べて31年遅れです。今のペースでいけばそれが14%に達して高齢社会に突入するのは2026年ごろ。2030年からは総人口の減少が中国でも起きます。
現在でこそ高失業率ですが、あと10年もすれば失業率の問題そのものが解消します。働き手がいないという問題のほうが深刻になるはずです。
――そうした状況の変化に応じて今、具体的にどのような状況が生じているか。
中国の労働者は賃金が安いという一つの特徴がありました。今でも都市部で民工を雇い入れる際、2-3年働かせて入れ替えるというサイクルで、絶えず若い民工を使います。賃金を安く抑えるためです。そうした措置を講じてはいますが、賃金は今徐々に上昇しています。もちろん物価上昇などもありますが、労働力不足が顕在化していく中で、賃金上昇は激しさを増していくことになるでしょう。
――内需の拡大という方針は徹底されないか。
難しいでしょうね。スローガンばかりで、具体策を示そうとしません。実際それほど簡単な具体策もありません。考えられるのは、民工の待遇向上でしょう。都市部の戸籍問題や社会保障なども民工を重視したものに切り替えていく。これが結局格差の是正にもつながり、購買力を身につけた民工の消費活性化にもつながります。将来的な労働力不足に備えるためにも、今から民工の待遇を高める政策を実施する必要があるでしょう。
■格差問題と今後の中国
――都市部と農村部をはじめ、貧富の格差について。
都市化という流れは止められないでしょう。だからこそ都市政策が重要になってくる。沿海部の大都市を中心に都市化を進めるのか、それとも内陸部の中小都市を中心に拡大を図っていくのか。都市部と農村部の格差もそうですが、この都市政策を一歩間違えれば沿海部と内陸部の格差は更に広がることになります。
今、中国共産党員が増加しています。中小の企業家などが相次いで党員になるわけです。彼らは自身の事業を拡大するためにも、権益に接近する必要があります。昔はイデオロギーの党、今は実益のための党になっています。ますます政治は金持ちのものとなり、貧困層とは無縁の存在になってきますが、党員増加もあり、新たな利益の代表として、共産党の影響力そのものは落ちていません。
だから、中国には相続税の制定という議論もありますが、なかなか先に進みません。それも党-企業家という新しい形態による勢力の反対が根強いためです。また、党の実態が経済優先になってきているから、例えば環境対策に対する意識も薄れるわけです。
――今後の中国をどうみるか。
08年の北京五輪までは特需もあり、今までの勢いが続くでしょう。しかし、2010年の上海万博前後、今から5-10年後ですが、人口構造の大きな変化に伴って、世の中が変わってくるはずです。変化に対応できなければ、反動が必ずきて、社会暴動の拡大が懸念されます。時代の変化にいかに対応していくか、今から政策的な措置が必要です。
社会保障の普及も急務でしょう。普及率は全国で約3割程度にとどまっていますが、少子高齢化が加速するに伴って、この低普及率が首を絞める結果になることは目にみえています。
環境面でいえば、05年に起きた化学工場爆発事故による松花江の汚染問題など大事故も増えています。今まで水力や火力を中心に回していた発電分野も、今後は原子力発電に注力していきます。環境配慮によって大きなダムが造りづらくなってきており、水力にも限界がある。火力の燃料である石炭は品質に問題があり、これも環境に悪い。今まで安全性に自信がなかったから積極的には進めてこなかった原発ですが、もしこれを積極的に進め、それで大事故が起これば、その被害は間違いなく日本にまで到達します。
日本のバブルがはじけたのは、日本の労働力人口が減り始めた頃なのですが、先にも指摘したように、中国でも生産年齢人口は確実に減り始めます。2030年が総人口のピークで15億人、国連の保守的な見方でも2050年の中国の人口は13.5億人程度まで減少します。
■2015年の中国
――2015年、あるいはそれ前後の中国はどうなっているか。
今の日本と同様、高齢化が進展していますね。社会保障制度の未整備もあって、その状況は日本よりも深刻かもしれません。労働力不足が顕在化しているでしょう。民工に対する優遇策がどこまで進むかも大きなポイントです。経済成長はよくて7-8%ほど。もっとも、これを下回るようであれば社会不安を増長させることになります。
今後10年の人口構造の大きな変化の中で、中国は建国(1949年)以来の未曾有の社会構造の変革を迫られるでしょう。先を読んだ、先手を取った政策を今から順次展開していかなければ間に合わなくなります。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060626-00000001-scn-cn&kz=cn
48歳以上の、昔中国で起こった文化大革命の時に、勉強も
できずに農村に放り込まれた(下放)虐待されてきたおじさん、おばさんが
定年になってた場合、もしも国営企業が年金を積み立てていなかったら、
そして、そんな人に優秀な子供がいなかったら、年金も収入も無い
悲惨な年寄りが出てくる。優秀な子供がいたら、子供が4人の年寄りの
面倒をみることになる。
やはり、一気に人口を増やすと、後々まで問題が続くのだ。毛沢東の時代に
人口を増やしすぎたね。
日本も、団塊の世代が定年になると何か、まずいことが起こるのかな。