石平氏の最新刊『中国人だから見える日中の宿命』について(扶桑社刊の『日中の宿命』)。
滞日19年の石氏は特別な情報源に拠らず(実際はお持ちでしょうが)、公開情報を丹念に蒐集し緻密に整理しそのデータを基に細緻な分析を展開しています。近年、日中間で生起している事々のファクト・ブック的価値のある好著で、日中問題についてあれこれ思いを巡らす上で格好の快書です。
石氏の究極のコメントが、第三章の最後に以下のようにあります。
- 結論、 筆者には日中関係の抜本的な改善はもはや不可能ではないか、と思えてならないのである。-
中国人の専門家にこう言って頂けると優柔不断な日本人の一人としてホッとします。
日中に真の友好は絶対に不在であることを前提に考えを進めればよいのですから。
靖国問題(正確には”靖国神社を巡る日本の内政問題への中国政府の平和条約違反の干渉行為”)について石氏は、「靖国参拝問題は中国政府の日本政府に対する切々たる”お願い”に聞こえてならない」と述べています。中国政府は ”日本の首相の靖国参拝”⇒”中国政府がもはや抑えられない反日運動の再発”という悪夢的循環を避けたいのだと説き、小泉首相の靖国参拝こそ中国での反日運動の再燃を最も刺激しやすい象徴的な行動に他ならないと分析しています。
小泉首相が昼休みを活用して毎日靖国神社に参拝でもすれば、再度暴発する反日的民衆運動に四苦八苦するのは当の中国政府で、そうなれば小泉退陣より胡錦濤が先に政権の座を降りることになると予想します。
中共政権倒すにゃあ核は要らぬ、コスト・ゼロの靖国参拝で済むというのです。
これは皮肉を超えたブラック・ユーモアです。
先月の武部幹事長と胡錦濤との会談では、胡錦濤から「日本の指導者がA級戦犯がまつられている靖国神社に参拝する姿はもう見たくない」と言明しました。これは中国政府として「靖国参拝をする日本首相の政権を相手にせず」とはっきり態度表明したことを意味します。
胡錦濤は、昭和十三年(1938)「国民政府を対手とせず」 と表明し蒋介石政権との交渉の道を閉ざした近衛文麿と同じ轍を踏んだようです。
中国政府はこの9月で小泉政権はジ・エンドとの(甘い)見通しを立て、 日本の政治に手を突っ込んで掻きまわそうという邪悪な行動に出ています。 もしこの見通しが狂ったら胡錦濤はどうするのでしょう。 9月に小泉首相が退陣しても、来年の(衆参同時になるかもしれない)参議員選挙で小泉復活があるかもしれません。
石氏は、「小泉純一郎という天才的カリスマ指導者の出現によって、日本の政治のあり方が根本的に変えられたのと同様、日中関係のあり方も根本的に変えられたと言えよう」と述べています。
前段はさて置き、後段は著者の云うとおりであってほしいものです。
石氏は台湾問題を同書で果敢に論じています。
来るべき’08年の台湾総統選挙で野党国民党が政権奪取を果した暁には、中国政府はこれと「反日民族同盟」を結成して大陸と台湾の「統一」の気運を作り出し、 東アジアにおける日本の立場を根本から脅かしかねないことになると警鐘を鳴らしています。
中国政府にとって最もデリケートなイシューであり、これを論じた以上著者は故国に戻れないだろうと心配になります。
日中間は多分に台中問題をピボットとして近い将来激変する可能性があります。その前哨戦は「靖国参拝問題」、「歴史認識問題」、「東シナ海資源争奪・境界線問題」というかたちで始まっていると石氏は説きます。
第7章のタイトルの通り「日中冷戦時代」は幕を開けたと捉えるべきでしょう。
これが近い将来熱戦につながる「戦後以来未曾有の緊張局面」に至ることを覚悟して備えるべきです。
だって中国がその覚悟で事を進めているのですから避けようがありません。
中国の有力メディアは東シナ海が既に”火薬庫”になったと報じ、日本政府から日本企業への試掘権賦与は”導火線”だと警告を発しています。中国の専門家も日中間の武力衝突の可能性に言及しています。中国海軍は軍艦を日中中間線に派遣し日本側を威嚇する行動に出ているのです。 その一方で中国政府と中国軍部は”日本脅威論”を煽っています。自らの軍備拡張をさて置いて日本海軍の軍備拡大を論い中国国内に警戒警報を発しています。戦前ソ連が稀に見る軍備増強の道を驀進しておきながら日本帝国を軍事大国と非難していたことを思い起こします(中村燦氏著『大東亜戦争への道』にその実証データが詳しく掲載されています)。
「日中友好」は幻であり、空想に耽ってる暇はないのです。
(しなの六文銭)
(宮崎正弘のコメント)産経新聞の書評でも、屋山太郎氏が「靖国カード」は、むしろ小泉首相のほうにあり、とする石平さんの見解に注目しています。
◎宮崎正弘のホームページ http://www.nippon-nn.net/miyazaki/
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日本はいつも、周りの国に脅かされているんだな。
戦前は旧ソ連が、今は恩を仇で返す中国が、
自分の国の軍備を急激に増強させておきながら、日本を
軍事大国だと非難したり、軍国主義化してきたなどと、
非難をくりかえしている。
同じことが繰り返されているんだなあ。