“午後ティー”の愛称で消費者に親しまれ、日本の飲料市場でトップブランドに君臨し続けているキリンビバレッジの「午後の紅茶」。中国でも「午后紅茶」の名で若者に人気だ。送り出しているのは、上海の大手企業グループ錦江国際(集団)と合弁の上海錦江麒麟飲料食品有限公司。販売市場はまだ長江デルタなど沿海部中心だが、コンビニエンスストアや大学の売店などを主要販路にしぼりマーケティングを徹底する戦略が奏功し、販売は全製品平均で年3割増の快進撃を続けている。
工場に入ると、さわやかなレモンの香りに包まれる。ラインは折しも看板商品「午后紅茶」を生産中。空っぽのペットボトルが次々と琥珀色の液体で満たされていく。このラインの製品は幅広い。「午后紅茶」にはレモン、ミルクなど3種類あり、他に缶コーヒー「FIRE」、茶飲料「生茶」、昨夏発売の缶酎ハイ「氷結」などを日替わりで生産している。
昨年の販売量は約400万箱(500ミリリットルペットボトル24本)で、このうち「午后紅茶」がほぼ半数を占めた。年間販売量は工場の年産力に迫っており、生産ピーク期の夏場などは自社ラインだけでは生産が追いつかず一部を外部にOEM(相手先ブランドによる生産)に出すまでになった。特に今冬はコンビニなどに投入した店頭用缶ウオーマー(温蔵庫)の効果で、「午後ティーミルクとFIREの売り上げはコンビニでワンツートップ」と秋山昇総経理は“えびす顔”だ。
■冬場のワンツートップ
生産過程ではタンクでの原料混合が中心。言い換えれば生産面で最も神経を使うのは原料だ。中国進出の日系飲料・食品メーカーはどこも、低コストかつ高品質で安全な原料調達に力を注いでいる。中国では安い原料に安全面の問題があることが少なくないからだ。例えば「午后紅茶」の最重要原料である茶葉では、工場は特定の農家と契約栽培したものを採用し、残留農薬の問題に備えている。
原料の大半は中国で調達しているが、例外もある。そのひとつがミルクティーやコーヒーに使われる牛乳だ。中国でも牛乳生産は盛んで低価格で生乳を仕入れられるが、工場ではオーストラリア産の脱脂粉乳を使っている。中国の生乳には残留抗生物質が含まれている恐れがあるからだ。
乳房炎治療などで乳牛に投与された抗生物質が残る生乳が出回っている問題は中国当局も指摘しているが、実際にどこから出荷された製品に問題があるのかは明らかにされていない。調達先として調べた中には「うちの製品は検査済み」と安全性を強調する企業もあったが、工場は高コストの輸入粉乳を選んだ。原料価格はざっと倍だが、安全には替えられない。
■10周年で新製品ラッシュ
中国では水筒を愛用する習慣に代わり、ペットボトル飲料などを買って持ち歩く消費行動が急速に広まっており、飲料市場の急拡大に結びついている。錦江麒麟によると1998年、中国の飲料販売量は951万トンと日本の65%程度だったが、04年には2,912万トンに膨らみ1,721万トンだった日本を大きく追い抜いた。今後の成長も確実で、「ビール市場はちょうど日本の5倍。ソフトドリンクも5倍は堅い」(秋山総経理)という。
成長市場で勝ち抜くカギは、積極的な製品展開だ。01年の「午后紅茶」発売以降、新商品投入を重ねてきた錦江麒麟は合弁10周年の今春、複数の新商品を一挙に発表する計画だ。
昨春発売のウーロン茶飲料「花間清源」は、発売4カ月で年間目標の倍の16万箱を売り上げた。「既存のウーロン茶は“おじさん向け”」という女性の声を受け、花の香りをブレンドし包装も華やかにした結果、“成熟市場”とみられていたウーロン茶に新分野を拓いた。販売で苦戦する日系企業も少なくない中、徹底した市場調査で好成績を重ねる錦江麒麟。春の新製品では市場のどこに斬り込むか。業界の注目が集まっている。【上海・杉本りうこ】<上海>
<メモ>
会社データ
所在地:上海市滬太路7388号
電 話:86-21-5686-7070
FAX:86-21-5686-3058
資本金:2,230万米ドル
出資比率:キリンビバレッジ58%、錦江国際(集団)42%
従業員数:600人(パート従業員を含む)