結構詳しい村上代表の話。 | 日本のお姉さん

結構詳しい村上代表の話。

ニッポン放送、阪神電鉄など、大量資金の投資で企業を揺るがせてきた「村上ファンド」代表、村上世彰(よしあき)容疑者(46)。自ら虚像を作り上げて市場から資金を集めたライブドア(LD)事件に対し、実態のあるニッポン放送という企業の株を対象にインサイダー情報で利得を図った村上代表。検察側はより悪質とみて、「容疑を認めた」と会見で強調してもなお逮捕に踏み切った。4000億円もの運用資金を誇った村上ファンドも、存続の危機を迎えている。


 村上代表を巡るインサイダー取引容疑は、既に昨年暮れ、東京地検特捜部の視界に入っていた。10月中旬に内偵捜査が始まったライブドア(LD)事件で、前社長の堀江貴文被告(33)=証券取引法違反で起訴=らの不正を探る中、合同で調べを進めていた証券取引等監視委員会が、ニッポン放送株を巡る村上代表との不透明なやり取りについても注目し、手口を分析していた。


 「どちらの内偵を優先させ、事件化するか」。実際、検察部内ではこんな検討がなされ、「ライブドア事件の方が比較的立証しやすい」と判断されたという。


 逆に言うと、今回の事件は立証が難しいとみられていた。それが、村上代表の逮捕までこぎつけた要因は何か。それは、同放送株を大量取得する実務を中心的に担ったライブドア証券幹部(30)や、LD前財務担当取締役、宮内亮治被告(38)=同=に加え、村上ファンド側からも具体的な証言を得られたうえ、それを裏付けるLD社内の詳細なメモの発見だった。


 これらが鮮明に描いた構図は、こうだ。


 <村上代表側は、買い集めたニッポン放送株の処理に困り、買い取り先などを探していた→04年9月15日、LD側に大量購入を持ち掛けた→LD側はこれに応じて同11月8日、同放送株の買い付けを市場に知られないよう一緒に進めることを提案→売り抜け可能な状態になり、村上代表側がさらに株を買い進め、最終的に売り抜けた>


 これらは「ニッポン放送を正すために株を買い進めた」「LDが(インサイダー取引の構成要件となる)5%以上を購入するという情報は得ていない」など、「予想される村上代表の弁明を崩すのに十分だった」(法務・検察幹部)という。


 任意聴取の際、特捜部からこの構図を突きつけられた村上代表は4日午前、当初逮捕を予定されていた側近3人や弁護士らと対応を協議。関係者によると「法の解釈を受け入れるしかない」と切り出し、容疑を認めることを決めた。


 ある法務・検察幹部は、ライブドア事件を、実際には価値のない自社株を虚偽事実公表や株式分割などで価値があるように見せかけた「虚」の株式操作事件と位置づけた。一方、村上ファンドの事件については、「実」の株(ニッポン放送株)を対象とした違法行為として、「より悪質だ」と指摘する。


 別の幹部は、村上代表の手法そのものについて「M&A(企業の合併・買収)をやると見せ掛け、会社に強引な要求をして売り抜ける手法は、実態として株価操作に近い」と指弾した。【山本浩資、伊藤一郎】


 ◇ファンドは存続の危機


 「私は今日をもってこの世界から身を引く。(村上ファンドには)主要な人物は残ってくれると思う。間違ったことは見直し、コーポレートガバナンスの原点に戻り、きちんとやってもらえばよい」


 村上世彰容疑者は5日の会見で、自らは投資活動から身を引くものの、ファンドは存続させたいとの意向を示した。しかし、創立者が証券取引法違反容疑で逮捕されたことで、「投資していた投資家が資金を引き揚げ、ファンドが保有株の売却に走るのは必至」(証券関係者)だ。


 一般的にファンドは投資家から資金を集めるにあたり、「法令違反があった場合はファンドを解散し返金する」などと契約している場合が多く、捜査の進展次第ではファンドが消滅する可能性もある。


 村上ファンドの運用資金は昨年末時点で3842億円で、直近には4000億円を突破したとみられる。村上容疑者は会見で「6割が米国の大学の財団の資金」と説明。「(4000億円のうち)1000億円くらいは出ていくかもしれない」と漏らし、資金の引き揚げに懸念も漏らした。


 村上容疑者は、運用拠点となる投資ファンド「MACアセットマネジメント」をシンガポールに移し、日本の拠点として残すコンサルティング会社「M&Aコンサルティング」の社長は、5月に副社長だった丸木強氏に交代したばかりだった。


 丸木氏は村上容疑者と灘高校、東大時代からの友人。村上ファンドは丸木氏をはじめ、村上容疑者の個人的な人脈でつながった組織とされる。トップの逮捕で、組織は求心力を失うのは必至で、約30人の社員の中から後継者が現れるかは不透明だ。


 一方、村上容疑者が正式に応諾を表明した阪急ホールディングス(HD)の阪神株のTOB(株式の公開買い付け)は、申込書に代表者がサインする必要がある。村上容疑者は不在だが、幹部が事務手続きを代行することで「TOBの応募には支障はないはず」(証券関係者)とみられている。【川口雅浩】


 ▽高木勝・明治大教授(現代日本経済論)の話 他の株主が全く指摘してこなかった株主価値、企業価値向上を、村上代表が積極的に提案したのは評価できる。しかし運用額が急増し、投資家から多くの実績を求められて、ファンドの性格が利益至上主義に変質してしまった。ファンドのプロ中のプロが、株取引でインサイダーに気付かなかったわけがないと思う。ライブドア、村上ファンドと株に絡む事件が続き、証券取引法がいかに現状に遅れているか明らかになった。


 村上ファンドは投資先の企業に経営改善を突き付けるが、自らの運営実態は全く不透明。株の大量保有報告書の提出も一般企業より圧倒的に規制が緩く、不正の温床となった。当局がファンドの運営を把握できるよう法改正し、公正な株式市場を目指す必要がある。


 ▽企業買収に詳しい中島茂弁護士の話 インサイダー容疑は、詐欺と同じで極めて悪質な行為。村上代表は意図的でなかったと主張しているが、(ライブドアの)ニッポン放送株の大量取得はインパクトのある情報だ。必ず株価上昇が見込まれるもので、認識がなかったとは言い難いのではないか。


 しかし、今回の一点をもって、村上代表を一面的に評価してしまうのもどうかと思う。株主への説明責任や配当政策の見直しなど「ぬるま湯体質」の経営者に鋭く改革を迫ったプラス面は評価されてもいいし、日本に新しいファンドの形を示したとも言える。村上代表はコーポレートガバナンス(企業統治)論に火を付けた当事者として、司法の場を経たうえで再び論争の場に戻るべきだ。

http://news.ameba.jp/society/20060606020015/20060606k0000m040170.html