旧日本軍の遺棄化学兵器について
旧日本軍の遺棄化学兵器について
結論から言えば遺棄はなかった。
全部引きわたしたという日本側の書類が出てきたから。
史料精査し責任の所在明確に
『正論』(産経新聞社)六月号が水間政憲氏の論文「“遺棄化学兵器”は中国に引き渡されていた-残っていた兵器引継書」を掲載した。
水間氏は全国抑留者補償協議会(故斎藤六郎氏が代表をつとめたいわゆる「斎藤派・全抑協」)の「シベリア史料館」で、「全体で六百冊にも及ぶ膨大な量の『旧日本軍兵器引継書』が長年、段ボール二十四箱の中でほこりにまみれて眠っている」のを発見した。
ゴルバチョフ・ソ連共産党書記長がペレストロイカ(改革)政策に沿って、KGB(国家保安委員会)がシベリア抑留問題に関する史料を公開し、日本世論に「ソ連は変化した」との印象を植え付ける工作を展開した。この工作の責任者がキリチェンコ・ソ連科学アカデミー東洋学研究所国際学術協力部長だった。その下で、カタソノバ上級研究員がシベリア抑留者問題の公文書調査にあたった。
キリチェンコ氏の表の顔は学者であるが、KGB第二総局(防諜(ぼうちょう))の大佐で、日本大使館担当課長をつとめていた。日本の外交官や、大使館に勤務する学者(専門調査員)の弱点をつかみ、協力者に仕立て上げたるのがキリチェンコ氏の仕事だった。後にキリチェンコ氏は自らがKGBの擬装職員であると告白した。
斎藤六郎氏は日本政府に訴訟を起こしていた関係もあり、当時の日本大使館と「斎藤派・全抑協」との関係はほとんど没交渉であった。後に斎藤氏とキリチェンコ氏は決別したが、カタソノバ氏は斎藤氏への協力を続けた。ソ連(現ロシア)政府は、日本軍関係書類を日本政府に返還するのが筋だが、実際には日本政府が関知しないところで、ソ連から相当数の重要書類が斎藤氏に引き渡されたようである。
今般、水間氏が発見した「旧日本軍兵器引継書」もそのような書類の一部と思われる。一九九九年七月三十日、北京で署名された「日本国政府及び中華人民共和国政府による中国における日本の遺棄化学兵器の廃棄に関する覚書」は冒頭で以下のように定めている。
<1・両国政府は、累次に亘る共同調査を経て、中華人民共和国国内に大量の旧日本軍の遺棄化学兵器が存在していることを確認した。旧日本軍のものであると既に確認され、及び今後確認される化学兵器の廃棄問題に対し、日本国政府は「化学兵器禁止条約」に従って遺棄締約国として負っている義務を誠実に履行する
2・日本国政府は、「化学兵器禁止条約」に基づき、旧日本軍が中華人民共和国国内に遺棄した化学兵器の廃棄を行う。上記の廃棄を行うときは、日本国政府は化学兵器禁止条約検証附属書第4部(B)15の規定に従って、遺棄化学兵器の廃棄のため、すべての必要な資金、技術、専門家、施設及びその他の資源を提供する。中華人民共和国政府は廃棄に対し適切な協力を行う。>
国際社会の「ゲームのルール」では、遺棄化学兵器について、それを遺棄した国家がカネや技術などをすべて提供して廃棄する義務を負う。当然、文明国家である日本もその義務を忠実に履行しなくてはならない。ただし、それは日本が遺棄した化学兵器に限られる。終戦時に日本軍を武装解除した中国軍やソ連軍に化学兵器が引き渡されている場合、日本に化学兵器を廃棄する義務はない。
『正論』六月号のグラビアには「旧日本軍兵器引継書」の写真が掲載されているが、そこには「四年式十五榴弾砲台榴弾」「四一式山砲榴弾甲」など秘密兵器概説綴と照合すると化学兵器とみられる事項が記載されている。政府は、今般水間氏が発見した史料と日本政府がこれまでに廃棄した遺棄化学兵器のリストを早急に照合して、重複が発見されれば直ちに遺棄化学兵器廃棄事業を凍結し、データを精査すべきだ。同時に外交ルートを通じ、ロシア政府に対して、ロシアが保管する旧日本軍の兵器引継に関するすべてのデータの提供を要求すべきだ。
仮に日本政府が廃棄する義務を負わない、旧日本軍が中国やソ連に対して引き渡した化学兵器が、国民の税金を用いて廃棄されている事実が後に明らかになれば、日中関係に取り返しのつかない悪影響を与えることは必死だ。
データの精査が真の日中友好に貢献する。水間氏の史料が国益に与える重要性について、外務省もマスコミも感度が鈍いようだ。
続きはこちらで。
↓
http://pride.arrow.jp/klingon/sb.cgi?cid=2
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
中国における日本の遺棄化学兵器の廃棄に関する覚書
日本国政府及び中華人民共和国政府は、日中共同声明と日中平和友好条約を銘記し、1997年4月29日に発効した「化学兵器の開発、生産、貯蔵及び使用の禁止並びに廃棄に関する条約」(以下「化学兵器禁止条約」という。)の関係規定に基づき、中国における日本の遺棄化学兵器の問題を出来るだけ早く解決することの緊迫性を認識し、本件問題について以下のとおり共通の認識に達した。
1.両国政府は、累次に亘る共同調査を経て、中華人民共和国国内に大量の旧日本軍の遺棄化学兵器が存在していることを確認した。旧日本軍のものであると既に確認され、及び今後確認される化学兵器の廃棄問題に対し、日本国政府は「化学兵器禁止条約」に従って遺棄締約国として負っている義務を誠実に履行する。
2.日本国政府は、「化学兵器禁止条約」に基づき、旧日本軍が中華人民共和国国内に遺棄した化学兵器の廃棄を行う。上記の廃棄を行うときは、日本国政府は化学兵器禁止条約検証附属書第4部(B)15の規定に従って、遺棄化学兵器の廃棄のため、すべての必要な資金、技術、専門家、施設及びその他の資源を提供する。中華人民共和国政府は廃棄に対し適切な協力を行う。
3.日本国政府は、上記の廃棄に係る作業を進めるにあたり、中華人民共和国の法律を遵守し、中華人民共和国の領土の生態環境に汚染をもたらさないこと及び人員の安全を確保することを最も優先させることを確認する。この基礎の上に、中華人民共和国政府は中華人民共和国国内で廃棄を行うことに同意する。
廃棄の具体的な場所、廃棄施設の建設等の問題は、両国政府が協議して確定する。廃棄作業を行う際に遵守される環境に関する基準に関し、両国政府は原則として中華人民共和国の国家基準を採用することとし、双方は環境影響評価及び環境監視測定を行うこととした。
廃棄の対象、廃棄の規則及び廃棄の期限については、両国政府は「化学兵器禁止条約」に基づき、協議して確定する。
4.両国政府は、廃棄効率、安全及び環境面で十分な信頼性がある、成熟した廃棄技術を選定するものとし、具体的な廃棄処理技術の種類については、日中共同作業グループにおける双方の専門家による十分な検討、論証の後に、透明性及び公平性を確保した方法で、最終的に確定されることとする。
5.廃棄の過程で万一事故が発生した場合には、両国政府は直ちに協議を行い、その基礎の上に、日本側として必要な補償を与えるため、双方が満足する措置をとる。中国側は日本側の措置に適切な協力を行う。
6.今後の廃棄作業の計画、実施、運営等の問題に関しては、両国政府は日中共同作業グループ等の協議を通じて、解決されることを確認する。
7.両国政府は、廃棄作業において意見が異なる問題については引き続き協議することを確認する。
8.中国における日本の遺棄化学兵器廃棄事業は本覚書の署名の日より実施に移される。本覚書の内容を変更又は補充することが必要な場合には、双方の同意の下にこれを行うことができる。
日本国駐中華人民共和国 | 中華人民共和国外交部 | |
特命全権大使 | 部長助理 | |
(谷野作太郎) | (王 毅) | |
1999年7月30日 於 北京 |
こちらも読んでね。↓