知らない間に恨まれるって、恐い。
近所のお好み焼き屋さんでたま客として来ている60歳代のおじさんは、
定年退職後、毎日スポーツクラブに通って体を鍛えている。
髪の毛も染めているのか黒々として、60代には見えない「おじさん」だ。
「今日は行ってきたの?」と、お好み焼き屋のおばちゃんが、その人に
毎回聞いていたし、「泳いできた。」とか「機械、やってきた。」とか返事を
しているのが聞こえるのでスポーツクラブ通いをしているとわかったのだ。
特にしゃべったこともない。客としてたまに会うので軽くお辞儀をするだけで、
正面からはっきり顔を見たことはない。
その人が昨日いきなり、「あんたね!昨日駅であったでしょ!こっちが挨拶
してるのに、完全に無視されて、ショックやったわ!」と、言う。
「昨日って何時ごろですか。」と聞くと、「夜の7時ごろや。正面に立って
顔を覗き込んで最敬礼したから分からんはずない。」と、言う。
「7時ごろなんて、いませんよ。それに知らない人に挨拶をされても、わたしは
挨拶しますよ。別人に挨拶したんですよ。」
「そんなはずない!わし、女性の顔は一度見たら忘れんから。」と、しつこい。
お好み焼き屋さんのおばちゃんも、「この人、夜の7時には駅にはおらんわ。
他人の空似やったんやわ。」と、言ってくれた。
まだ疑っているので、「その人、ジーンズはいてました?」と聞くと、「そこまで
見てない。」と言う。わたしに出会ったと思って、その女性に真正面から
最敬礼して、完全に無視されたらしい。
もしも、そのおじさんがわたしに文句を言わず黙っていたら、わたしに無視され
たと勘違いしたまま、ずっと怒っていたのかな。
カウンターの端に座って、金と女の下品な話をひとりでお好み焼き屋さんの
おばちゃんにして帰っていく人なので、わたしにとっては、いると嬉しくない
おじさんなのだが、いきなり怒って文句を言ってきたので驚いた。
でも、疑いが晴れて良かった。
変な人に、知らない間に勝手に恨まれるほうが恐い。
とにかく、怒っていることを相手に伝えて責めるってことは、黙って怒っている
よりいいことかもしれない。自分の勘違いだったって事もあるのだから。
オセロが妻のデズデモーナを殺したのも、勝手に妻が不倫していると勘違い
したからだ。悪人が用意した証拠とやらのハンカチを見て、妻に直接確認
しなかったからだ。直接相手に自分が怒っていることを伝えないまま、友人
関係や恋人同士の関係が壊れていくパターンって、意外とありそうだ。
傷つけられたら相手を戒めて、相手が謝れば赦してやれというのは聖書の
教えだが、神さまを信じている人たちへ向けた言葉だ。
会社で上司や社長に使えば嫌われてしまうだろうが、家庭では使えそうだ。
「あんたの給料、安いから旅行も行けないわ!○○さんとこなんか、毎年
グアムに行ってるのよ。うらやましいわ~!」
「あの、それ、すごく傷つくんですけど!僕は精一杯毎日頑張って働いている
し、その内グアムでもどこでも連れて行けると思うから家計は僕が全部
管理します。」
「あ~あ。だまされたな。俺の嫁さん、こんなにブタのように化けるなんて、
思ってなかったよ!若い時は細くて可愛いかったのにな!」
「すっごく傷ついた!!昔みたいにデートしてくれないから刺激が無くて
バクバク食べてしまうのよ!今度の金曜日の夜は8時に○○で会って
デートして!毎晩一緒に2キロ歩いて!そしたら痩せるわ。」
等など、ひどいことを言われたら、相手を戒めるようにすればいいのかも。