紺色の夜空に満月が
インクをざあっと流したような紺色の夜空に、
完璧に丸くて白い月が、光の輪の真ん中で照り輝いていた。
くっきりと、だんだら模様が見える満月だった。
「立派な月だな。」と、わたしは声を出してみた。
ついさっき街の中で見た月は、
繁華街のビルの谷間の逆二等辺三角形の暗闇に、
ぽっかりと無口な子供のような表情で浮かんでいたのだ。
ざわめく街の真ん中でそこだけが静かな空間で、
時間はゆっくりと流れていた。周りの人工の灯りにも負けず、
満月は凛とした強い光を放って、そこにいた。
家路を急ぐわたしには住宅街の公園の横で見る満月は、
空を掴むように枝を伸ばしている裸の木々の枝の間に
ちらちらと見え隠れして、うきうきしながら
こちらを伺っている子供のように陽気な月だった。
空に伸びた桜の枝の先には、
もうすぐ花を咲かせるチカラがみなぎっている。
頬に当たる夜風はもうそんなに冷たくはない。
芽吹きの時期を待っている木々の気持ちが乗り移ったの
だろうか。わたしも妙に楽しくなってきて、家に帰るまで
何度も何度も、月を見上げながら歩いたのだった。