ピアノの発表会 | 日本のお姉さん

ピアノの発表会

友達のピアノの発表会に呼ばれた。


友達はそつなくピアノをひいたけど、


ある40歳前半のおじさんは、初めから最後まで


失敗だらけで、何の曲を弾いているのかも良く


わからなかった。海外出張でひとり暮らしだったとき、


衛星放送で観る日本の番組に励まされたからという理由で


そのテレビ番組のタイトル曲を演奏したらしかった。


間違えては、弾き直し、間違えては、弾き直し、


いつ終わるのかと思うほど長い時間をかけて


一曲弾き終えた。会社が忙しくて練習できなかったのか


緊張しすぎて、頭の中が真っ白になって、ちゃんと弾けなかった


のか、上手く弾けなかった理由はよく分からないが、


その40代前半のおじさんは、


とにもかくも一曲、弾き終えたのだ。


練習不足でも発表会に臨んだ勇気も凄いが、


曲を弾き終えた後も、飄々としており、照れ笑いもせず、


普通の顔をして舞台から去った。


彼は、海外出張で精神が鍛えられているのだと、わたしは思った。


少しぐらいの失敗など、気にしていては海外では生きて


いけないし、人が働く時には、


いろんな屈辱に耐えねばならない場面がある。


一曲を上手に弾くのも、失敗しながら弾くのも人生だ。


失敗しても悪びれず、生きていくのも人生だ。


40代前半の男性は、ともかく海外出張から帰って、今は


日本にいるのだ。辛い出張の間、彼を励ましてくれた


日本のテレビのタイトル曲は、彼にとっては大切な思い出の


曲であり、彼はその国から生きて日本に帰ってきた勝者なのだ。


彼には、その国ではどんな思い出があるのか、わたしは知らない。


でも、これからも、どんなことがあっても、彼は立派に


生きていける人であるように感じた。