等身大の告白 | 日本のお姉さん

等身大の告白

あいつは、ただの友達のハズだった。

だって、背が低くてお腹が出ていてスタイルは悪いし

趣味はガチャポンのおまけ集めとマンガの立ち読み。

おもちゃが大好きで、

ひなびたおもちゃ屋さんを見つけては、

昔のおもちゃを買ってくる。

箱ごと開けもせず、保管している。

ネットオークションで売りに出すわけでもないのに、

人の出したオークションのおもちゃの値段が

気になるらしい。時々チェックしているようだ。

その内、高値になるんだと言うけれど

売るつもりはなさそう。おもちゃの博物館でも

作るつもりだろうか。

そんなあいつが、ステキに見えたのは、

あたしが風邪をひいた日に、手持ちのお金が

無くなったので郵便局に行った日だった。


あたしは熱でぼうっとしてたから、郵便局のATMで

お金を取らずにカードだけ取って、外に出てしまった。

何歩か歩いてからはっと、気が付いて

郵便局に戻ったけれど、既に他の人が機械を

操作中だった。一応、その人にもお金を取り忘れたんだけどって

きいてみたけれど、「はあ!?」って顔して、

何だか違うらしい。

あたしの後ろに並んでいた人は、なぜあたしに一言

教えてくれなかったんだろう。

なぜ、そのままネコババしちゃうんだろう。

「お金、取り忘れてますよ!」って、なぜ言ってくれないんだろう?

郵便局で、勇気を出して、

「お金を取り忘れたんだけど、どなたか預けてくれてませんか?」

と、聞いてみた。郵便局のおじさんが「いませんね~。」と、

普通に応対する。熱っぽかったけど、

「でも、わたしの後ろの人が盗ったに決まってるでしょ?

わたしの郵便局の領収書があるんだよ。この次の番号の人が

わたしのお金を盗ったんでしょ?写真がうつってるハズでしょ?

調べてくれればわかるでしょ?」って、がんばって言ってみた。


すると、郵便局の他のオヤジが後ろの方からでかい声で

「そんなのは、自分の責任だろ?郵便局は責任を取らんよ。

お金を取るのを忘れるのが悪いんだろ!」と、偉そうに言いやがった。

郵便局の他の従業員は聞こえないフリをしている。そのオヤジは

明らかにこの郵便局のボスに違いない。普段から偉そうな態度で

この郵便局を仕切っているに違いない。

悲しい思いで、郵便局の外に出た。


確かにATMのお金を取らずに出てしまったあたしが悪い。

風邪をひいているから、いつもの元気が出ない。弱り目にたたり目って、

こういうことか。泣きたくなって、あいつにメールしたら、

郵便局に文句を言ってやると言ってくれた。


郵便局の名前を伝えると、直ぐに電話番号を調べて抗議の電話を

してくれた。しばらくしてから、もう一度郵便局に入ったら、

さっきの偉そうな郵便局のオヤジが、態度を変えていた。


「あ、先ほどの件ですが、郵便局で起きた事件は、特別な部門があって、

そちらで解決してもらえますので、自分でここに電話してください。」

オヤジは、紙切れに電話番号を書いたものを渡してくれた。

昼休みは、もう終わりかけていた。昼ごはんは食べ損なった。

会社に帰って、その郵便局用の特別な捜査機関とやらに電話して

事情を話し、あたしが取り忘れたお金の行方を調べてもらうよう

手続きをとった。


お金さえ返してもらえればいいんだ。

黙ってネコババした人に対して腹がたった。

郵便局でオヤジに怒鳴られた言葉にも傷付いた。郵便局では偉い人かも

しれないけどさ。わたしにとっては、ただのオヤジに過ぎないのに!

なんで知らない人にえらそうに怒鳴られなければならないんだよ!チキショ。

どんな人がわたしのお金を盗ったのか、とことん調べてやる!


幾日かたって、郵便局の検査部門の人から電話があった。あたしに会って

話がしたいと言ってきた。

会社の近くの喫茶店でお昼休みに会うことになった。

その人は、目が丸くて眼鏡をかけた30代後半が40代前半ぐらいの

おじさんだった。


彼が言うには、あたしの後ろであたしのお金をネコババしたのは

83歳のお婆さんだとわかったとか。そして、あたしが今後そのお婆さんを

訴えるとそのお婆さんは罪に問われて「前科」が付き、海外旅行に出る際にも

支障がでるようになるんだと説明を始めた。

罪に問われて罪人とされたショックで、病気になるかもしれないので、

訴えるのを諦めてくれないかと言うのだ。


そのお婆さんの写真は見せるわけにはいかないのだという。

あたしのATMの領収書の次の番号で、あたしの次に

ATMの機械を使い、明らかにあたしが残したお金を盗っているような

写真が残っていたという。そのお婆さんが盗ったのは間違いが無いと

言う。それでも、訴えるのを諦めてもらえないかと言う。


眼鏡の奥で、丸い目をして、「諦めてもらえませんか?」と、何度も

落ち着いた声で繰り返すそのおじさんの熱意に打たれたあたしは、

なんとなく「じゃあ、、、諦めます。」と、言ってしまった。


後から考えたら、「じゃあ、あなたがわたしの盗られた金額を返して

くれるなら諦めます。」と、言えばよかったかしらとも思ったが、

83歳のお婆さんを罪人に仕立て上げ、外国に行けなくするのも

後味悪いかなとも思ったのだった。

確かにお金を取り忘れたあたしも悪いのだ。
たかが一万円。諦めてもいいかなっと、その時は思ってしまったのだ。

眼鏡のおじさんは、郵便局のオヤジの暴言も「許してください。」と、

言って頭を下げた。それで、なんとなくあたしは満足してしまった。


背が低くてお腹が出ているあたしの友達は、

時々、ここぞと言う時にあたしを助けてくれる。

いろんな男に恋をしたが、誰とも上手くいかなかった。

彼らの目には、あたしは気が強くて、扱いにくい変な女の子に

見えるらしい。直ぐに「結婚して!」と言うのがいけないと、

女の子の友達は教えてくれた。

気が付けばずっと独身で、あたしの側にいる男の友達っていうのは、

あいつだけになっていた。

駐禁キップを連チャンで切られて、頭にきて泣いている時も、

あいつは警察に一緒についてきてくれた。

車を運転中に過呼吸症候群になっちゃって、体がしびれて

動けなくなった時も、救急車でかつぎこまれた病院に迎えに

来てくれた。


考えてみればあたしは、結構あいつが気に入っているんだ。

サイフを落とした!と騒いでいるあいつのために新しいサイフを買って

バレンタインチョコとサイフに

気の利いた文句を書いたカードを付けて渡したら結構喜んでいた。


レストランでご飯を食べて、話が盛り上がったので、ノリで

「結婚して!」と言ったら、「嫌だ。あなた、努力しないから。」と言われた。

ちっ。先にチョコあげるんじゃなかった。甘い言葉付きのカードも

あげるんじゃなかった。

「あ。カードのつづり、間違えてる!バレンタインのレは

アールじゃなくてエルだよ。エヌの最後にイーも抜けてるよ。」

しまった。ちゃんとパソコンでつづりを調べて書いたのに。あのブロガーに

してやられた。ヤフーで調べて最初に出てきたブロガーのタイトル、

そのまま頂戴したらこのざまだ。辞書でしらべればよかった。カッコワル。

あたしは当分独身決定だ。あくまでもフレンドリーなあいつだった。

お互い結婚は向いて無さそうだから、友達でいいや。

どうせたまに会っても二人で本屋で立ち読みしてるだけだし、まあいいさ。

ちょっと、悔しいけど、ご飯はおごってくれたし、

面白い事を言って、ゲラゲラ笑わせてくれるしさ!

それに、ただの友達からは、少し前進できたかもしれないでしょ。


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これはフィクションです。(作り話)

でも、郵便局で後ろの83歳のお婆ちゃんにお金を盗られ、

許してあげてくれと、郵便局の調査官に頼まれて許したのは

本当の話です!