N猫ちゃんを連れて歩く。
目も開いていない生後一週間未満の赤ちゃん猫を育てる場合、
子猫用ミルクと哺乳瓶をペットショップで買ってくる必要がある。
どこの店にも置いてあるわけではないので、あちこちペットショップを
回らなければならない。
見つかるまでは、牛乳とスポイドでなんとかつなげる。
消化できずに牛乳を吐く猫もいるので、あくまでも子猫用ミルクを
手に入れるまでのつなぎだ。子猫は牛乳より濃い母乳を飲んでいる。
牛乳では栄養失調になるらしい。
公園でひろった生後5日目ぐらいの、まだ目も片方しか開いていなかった
三毛の赤ちゃん猫は、Nと名づけて育てることになった。
手のひらに乗るぐらいの小さい猫だった。N猫ちゃんは、お湯でといた
子猫用ミルクをどんどん飲んでくれた。
おしっこは、お湯で濡らした温かいティッシュで、おしっこの場所を
ぽんぽんと軽く叩いて刺激してやるとジョ~っと、勢いよく出すものを
出してくれるのだが、うんちを全くしてくれなかった。
どんどん飲ませるのにうんちがでない。
ひろってから一週間たつのにうんちが一回も出ない。
お腹がだんだん膨らんできて、とうとうぱんぱんになってしまった。
苦しいらしく、ミルクの飲み方がちょっといつもと違う。
心配になって、ペットショップへ行くと、「赤ちゃん用の下剤を入れたら
どうですか。」と言うので、薬局でいちじく浣腸を一つ買って、お湯で
薄めておしりからスポイドでちょっとだけ入れてみた。
今から思うととんでもないことをやってしまったのだが、N猫ちゃんの
場合は、量がちょうど良かったらしく、ぷっという音と共に、手のひら
いっぱいの大量のうんこを出してくれた。
それからは下剤の世話にならず、ティシュで刺激すればうんちが出る
ようになった。いちじく浣腸は危険なので絶対使ってはいけない。
友達が子猫をひろった時、同じようにうんちが出なかったので、
いちじく浣腸を買ってお湯で薄めてスポイドで入れたら量を間違えたらしく、
急にぐったりして体も一気に冷えて死にかけたことがある。
急いで動物病院に電話をして指示を仰いだら、とにかく意識があるなら
お湯を飲ませて、体をどんどん温めるように言われた。
必死の介護の甲斐があって、なんとか命をとりとめた。今では
その猫は堂々とした男前のオス猫で元気にしているが、その時は
ヤバかった。猫殺しになるところだった。そうなったら一生後悔して
しまいそうだ。友達にも絶交されて、一生うらまれるところだった。
その時は正直、真剣に子猫のいのちが助かるように、神さまに祈った。
赤ちゃん猫のN猫ちゃんは2時間置きにミルクを飲むので、家に
置いておけない。映画を観にいくときも、四角いカバンにN猫ちゃんを
入れて、お湯と粉ミルク持参で出かけた。映画はシュワちゃん主演の
ハードなアクション物だった。轟音が鳴り響く映画館でも、N猫ちゃんは
おとなしく寝ていてくれた。映画が終わると直ぐに映画館のトイレに
行って温かいミルクを作り、トイレでミルクを飲ませた。
カバンの中を覗いた女の子が目を丸くして驚いていた。
あまり驚いたからか女の子たちは、みな無言だった。映画館のトイレで
猫の赤ちゃんにミルクをやっている人なんて普通はいない。
その後、デパートの屋上に行きハーブティーを飲んでゆっくりして、
電車に乗る前にまた、ミルクを作ってN猫ちゃんに飲ませて家に
帰った。会社の同僚のA子にそのことをしゃべると、「子猫を連れて
歩くのは子猫にとってはハード過ぎる!ひどい!」と言われたので、
お出かけはその一回だけになった。普段会社に車で行っていたが、
N猫ちゃんも車に乗せて会社に行っていたので、N猫はずっと移動
ばかりしていたことになる。おかげで大きくなっても車に乗って移動
するのが平気で、車に乗せると楽しそうに窓から外の景色を見物する
猫になった。少し大きくなったので、車の中に浅い容器に砂を入れたものを
置いてやると、そこでおしっこやうんちをしてくれるようになった。