生後5日目の猫を連れて
メリーさんは羊を学校に連れて行ったけど、
お姉さんは生後5日目の子猫を会社に連れていったんだよ。
だって、2時間おきに子猫用のミルクを作って飲ませないと
子猫が死んでしまうんだもの。
公園のベンチの下に、新聞紙が敷かれていて、
その上に寝かされていた子猫ちゃんは、友達が直ぐに
ペットショップで子猫用ミルクと「子猫の育て方」という本を
買ってきてくれたおかげで、ぷっくり太った姿のまま、
うまいぐあいに育ちそうだった。
病院に連れて行くと、「捨てられたばかりらしく、健康です!」と、
医者が太鼓判を押してくれた。ミルクさえやれば、育つと思うと
なんだかわくわくした。
目が片方だけうっすら開いているけども、まだ目も見えていない
本当の赤ちゃん猫だった。こんな姿の赤ちゃん猫をよく公園に
捨てるなと腹が立った。推定年齢5日と医者が言うので、誕生日は
五日前ということにした。
どこの誰が、こんな本当の赤ちゃん猫をミルクから育てられるか!
まったくひどい人間がいるもんだ。
N猫ちゃんと名前を付けて、車に乗せて会社に行った。
ダンボール箱がゆりかごだ。ひろった時は、50メートル先からでも
聞こえるぐらいの激しい泣き方をしていたのに、ひろってからは
ぴたっと鳴くのを止めてしまった。まるで、もう一生分泣いたから、
もういいやって思っているみたいだった。
おかげで、N猫を会社の横のガレージに停めた車の中で育てても
全然鳴かないので、誰も気が付かないようだった。
後で、同僚の女子社員のA子に聞いたんだが、わたしの上司から、
他のみんなが全員、車の中の子猫に気が付いていたが知らない
フリをしていてくれたんだそうだ。
A子にわたしの上司が「いつまであの猫、連れてくる
つもりなんだろうな。」と心配そうに聞いていたとか。
A子は「さあ。猫だから直ぐ自分でミルクを飲めるようになるから、
もうすぐでしょう。」と、言っておいてくれたそうだ。
知らなかった。誰も知らないと思っているのは、わたし一人だったのだ。
N猫は夜中の12時にミルクをやったら朝の6時まで寝てくれた。
手間のかからない猫だった。車に乗せてちょうど会社に行く途中、
8時にお腹が減って暴れだす。車を停めて、お湯と粉ミルクを混ぜて
ミルクを作って哺乳瓶に入れて、飲ませる。
飲み終わるとすぐ寝てくれる。
会社では、2時間おきに台所でミルクを作って駐車場に行き、
N猫に飲ませた。ミルクを飲む以外は寝ているので、楽に世話ができた。
仕事中にミルクをやるので、時間が無い。どんどん飲ませたが
気管につらせることもなく、順調に大きくなっていった。