吸血龍の子とライオンぼうや。 | 日本のお姉さん

吸血龍の子とライオンぼうや。

老獪な黒い熊が、太った赤い龍と戯れている。
飛んだり跳ねたり、上になったり下になったり、
転がしたり、転がされたり、うなり声をあげながら.
熊が戦いの仕方を龍に教えている。


それを見ながら、ライオンがうるさそうに片目を
開けて、しばらく熊と龍を見た。
そしてまた目を閉じて寝返りを打つ。
心地よい眠りをジャマされたくないのだ。


龍は太っているのではない。妊娠しているのだ。
いや、妊娠しているのではない。子供を産んでいる。
次々と龍の子供が生まれている。
それらは、生まれて直ぐに羽を広げて、飛んでいく。


アフリカへ。ミャンマーへ。ベネズエラへ。
東欧へ。シベリアへ。インドネシアへ。


そこで、龍の子は獲物を見つけて、
甘い汁を獲物に与えて喜ばせる。甘い汁をなめて、
獲物はおとなしく横たわる。龍の子は、彼らの血を
吸い始める。龍の子たちの腹はみるみるうちに
大きくなる。むくむくと、龍の子たちは大きく
成長する。


一匹が、ライオンの尻尾をかじった。
ライオンは一声吼えた。


しばらく、龍の子はかじるのを止めるて様子を

見る。ライオンは動かない。
それで、龍の子は再びライオンに飛びかかり、

尻尾に食らいつく。


龍の子はライオンに甘い汁は、渡さない。
なぜなら、ライオンは牙が無いのだ。
爪も無い。自分の力で起き上がり、龍の子を
はねのける気力もない。


60年前に、信じられないほど大きな鷲(わし)が
ライオンを、爪で押さえつけて牙と爪を
抜き取ったからだ。


ライオンはそれから、起き上がったことはない。
いつも夢見て、まどろんでいるのだ。

鷲が運ぶ餌を食べ、そしてまた寝る。
夢の中で、ライオンは平和な世界で遊ぶ。
現実は見たくない。


見る必要すらない。ライオンは安心している。
鷲が餌をくれるからだ。ライオンをじゃまする

獣(けもの)はいないのだ。いつもそばに鷲がいて、

ライオンを見守っていてくれるから。


60年間、まどろみながら、ライオンは大きくなった。
牙と爪を失くしたままで。


そして今、ライオンは戦う術(すべ)も知らずに、
龍の子に尻尾をかじられている。
甘い汁無しに、血を吸われている。

そして側にいるはずの鷲の姿はもう無い。


尻尾を一振りして、龍の子を潰(つぶ)す?

そんな勇気も無く、いたずらにただ血を吸われ続けて、

いらだたしげに吼えるだけ。