絶対、負けない。 | 日本のお姉さん

絶対、負けない。

ダッシュで、朝の通勤電車に飛び込んだら、前に立っていた
後ろ向きの女子高校生に左の肘鉄(ひじてつ)を食らって、
はじき飛ばされた。ポロリと後ろ向きにホームに落ちた。
ヤバ!ドア、閉まっちゃう!ベル、鳴ってるし!


今度は飛ばされないぞ!


もう一度トライして、中に入った。イジワルな女子高校生なんかに
負けるもんか!再度の肘鉄を警戒しつつ、
腕で自分をカバーして、女子高校生を押しつつ電車に入る。
ドアが閉まり、電車が動きだした。


良かった。会社に遅刻しないですんだ。だって、寝坊しちゃったんだもんね。
車で行ってたら、絶対遅刻してた。
電車なら十分間に合う時間だ。ほっと安心していると、前の女子高校生が、
隣の同じ制服の女子に、ブツブツ言い出した。


「いってえよ~!後ろのオバハン、おもいっきしドッカーンと押しやがって。なんやねん!」


なんやねんて、あんた。あんたが先に、肘鉄で
おもいきり人をどついたんちゃうんかい?
人をドアから落としといて、なんか文句言う資格あるんかいな。
女子高校生は、後ろを向いてわたしを睨(にら)んでいる。
無視していると、なおも言う。


「今まで生きとって、こんなに押されたん、初めてやわ!いったいよ~。」


だんだん彼女の声が大きくなる。
電車に乗っている人々は、し~んとして、女子高校生の恨み言を聞いている。
彼女はなおも、声を大きくして、人を悪者に仕立て上げようとする。
お姉さんは、ちょっと考えた。


彼女が、肘を後ろに直角に勢い良く突き出し、わたしにボディーブローをかましたのは、故意だ。


彼女はそれを人に言わずに、大勢の乗客の前で、わたしを攻撃してきているのだ。
わたしは不当な扱いを受けている。自分のほっぺが赤くなってくるのを感じる。
言い返さなければならない。意外と冷静な声が、自分の口から出てくる。


「ごめんね!背中が痛かったのなら、謝るわ。
でも、せっかく電車に乗れてホッとしてたのに、あなたに肘(ひじ)ではじき飛ばされて、
ポロッと、ドアから落ちてしまったから、必死になってまた乗ったんよ。
この電車をのがしたら、遅刻するから、こっちも必死やったんよ。
ぐいっと押したのは悪かったわ!」


電車の中は、あいかわらずし~んとしていた。
女子高校生は、びっくりして、黙ってしまった。


何事もなかったかのように、電車は次の駅に着き、ドアが開いた。
人々が、せき止められた水が流れるようにドアから出て行く。
わたしも、いっしょに出て行った。

背中に女子高校生の視線を感じながら。