阪神タイガースのしけた試合中継を聴きながら、ぽつぽつと街頭が照らす道を当てもなく走る。

チャイルドシートの息子は、楽しそうとも退屈そうとも取れない、掴みどころの無い表情でガラスの向こうを見つめている。

このままふたり、事故で死んでしまえたら良いのにと、頭に過る。


いよいよ、この困難と対峙する日が来た。

いや、そんな勇敢な表現は、全く相応しくない。

とうとう、臆病な自分が目を背けてきた事実が、大きな嵐のように避けきれなくなっていた。


1歳6ヶ月の息子の、発達障害。

先の道が平坦である保証なんて無いのはわかってはいた。

だが、暗い悪路が目の前に続いていることは、想定からわざと外していた。

誰だってそうだろう?

当たり前に学校に行って、友達ができて、「宿題しなさい」と叱咤して、受験に気を揉み、就職、結婚、子どもが産まれて…

その当たり前を全て吹き飛ばす嵐が、まさか自分達を襲うなど。



このままふたりで死ねば、悪路を行く苦しみから逃れられるのか。

夫はどう思うだろう、悲しむに違いない。

だが、生きても苦しみが口を開けて待っている。


何も知らない息子は、発語も無く何を考えているのかわからない息子は、ハンドルを握る母親が、愛なのか保身なのか、それ以外なのか検討が付かない感情でいることに、多分気づいていない。


結局生きたまま、車を停める。

前向きに生きる気持ちも、死ぬほどの度胸も無い。悲しむことだけ一人前な、情けない母親。



「歪んだ世界で純粋に生きる それってすこぶるだめってことじゃん」

浅井健一さんの「WAY」。

彼にとって世界は歪んでいて、彼は純粋な生き方をしているつもりなのに、結果皆を辟易させるとしたら。

でも、仕方がない。歪んでいるのは世界の方なのだから。


死ぬまで生きるしか道はない。

死が、世界と私と息子を別つまで。

暗闇の悪路、その上一方通行、止まることは許されない。


ベンジーはこうも言ってた。

「幸せになるのさ 誰も知らない知らないやりかたで」

「小さな恋のメロディー」(Blankey Jet City)。


誰も知らないやりかたで、幸せになる以外、この道を無事に走り抜ける術はない。