我が家のパトロール隊長であり、静かなる守護神だったチンチラシルバーのフィオちゃん。

彼女との生活は、穏やかで知性に満ちたものでした。

しかし、運命はあまりにも過酷な試練を彼女の小さな体に与えました。




​忍び寄る影と、闘病の始まり

​日常に違和感が混じり始めたのは、いつからだったでしょうか。

昨年9月上旬は胃拡張で入院や通院。

約1ヶ月はほぼ毎日病院通い、その後は週1で通っていました。

そして今年1月、扁平上皮癌が発覚。

訳あり治療ができない身体のため、緩和ケアとなりました。

日に日に細くなっていく体。

あんなにふっくらしていた毛並みの下で、骨の感触が手に伝わるようになった時、私の胸は張り裂けそうな恐怖に襲われました。

​診断の結果は、厳しいものでした。

けれど、フィオちゃんは「病人(猫)」になることを拒みました。

鼻が詰まり、呼吸が浅くなっても、彼女は決して苦痛な表情を見せませんでした。

ふらつく足取りでトイレに向かい、私と目が合えば、いつものように優しく目を細める。

その知性溢れる瞳は、「私はまだ負けていないよ」と静かに語っていました。


息子や娘とのこと

​「お兄ちゃんが帰ってくるから、一緒に頑張ろうね」

その言葉を、フィオちゃんは魂の深いところで理解していました。

全盲という暗闇に包まれ、体力も限界を超えていたはずの彼女を動かしていたのは、本能ではなく、明確な「意志」でした。

​彼女は、ほとんど眠ることもせず、休むこともなく、家の中を歩き回り続けていました。

目が見えなくても、彼女の心には鮮明に、大好きなお兄ちゃんの姿が映っていたのでしょう。

その姿を追いかけ、足音を待ち、一秒でも長くこの世界に留まろうとするその姿は、痛々しくも、神々しいまでの「執念」に満ちていました。

​そして訪れた、待ちわびた再会の瞬間。

お兄ちゃんの腕の中に抱かれ、その温もりと匂いに包まれたとき、張り詰めていた彼女の「愛の糸」が、ようやく安らぎの中で緩みました。

​「あぁ、やっと会えた。よかった……」

​そう安堵したかのように、彼女は倒れるように深い眠りにつきました。

それは、自らに課した「お兄ちゃんに会う」という最後の任務を完璧に遂行した、一人の戦士がようやく手に入れた、束の間の、しかし至福の休息でした。


娘がリビングの床で教科書を広げ、勉強を始める。

そのわずかな衣擦れの音や、ボールペンが走る微かな振動、そして娘が放つ独特の集中した気配を、フィオちゃんは誰よりも早く、正確に感じ取っていました。

​全盲という孤独な暗闇の中にいながら、彼女は自分の体調の辛さなど微塵も見せず、スッと娘のそばへ歩み寄ります。そして、ただ静かに、そこに「一緒に」いることで娘を鼓舞し続けてくれました。

​「お姉ちゃん、頑張って。私もここで一緒に戦っているよ」

​言葉はなくとも、背中で語るその姿は、どんな言葉よりも娘の力になっていたはずです。

1.36kgの小さな身体は、最後まで家族の幸せを願い、支え続ける、世界で一番優しくて強い「応援団長」でした。



​1.36kgの限界を超えた戦い

4月下旬には、体重はついに1.36kgまで減少しました。

医学的な常識では、立ち上がることさえ奇跡に近い数字です。

動物病院の先生方と協力し、あらゆる手を尽くしました。

とにかく痛みや苦痛のないように、ブプレノルフィンなどを処方して頂いたり。

痛々しい姿に涙が止まらない夜もありましたが、フィオちゃんの「生きようとする意志」は、数字という概念を遥かに超えていました。

彼女は、ママである私を悲しませないために、最期まで「可愛らしいフィオ」であり続けようとしたのです。

それは、彼女が持てる全てのエネルギーを使い果たして捧げてくれた、究極の愛でした。




​2026年5月3日、完璧な幕引き

​その日は、突然、そしてあまりにも美しく訪れました。

午前中は生涯鳴いたことのなかった彼女が、魂を振り絞るような声で三回だけ鳴きました。

​それは、「ありがとう」だったのか、「もう行くね」だったのか。

午後4時30分、私がほんのわずか、席を外した隙に。

駆けつけた時には、彼女は1.36kgの重みからも、病の苦痛からも解放され、静かに、そして気高く旅立っていました。

扁平上皮癌と闘病した期間は約3ヶ月と半月ほどでした。

最期まで

「自分の人生を自分でコントロールした」

完璧な幕引きでした。



初七日を迎えて

本日、四十九日までの旅の途、初七日を迎えました。

寂しがり屋の彼女のために、今朝旅立ってしまったベタちゃん。

三途の川の案内役をしに、急いで行ってくれてしまったのかもしれません。

ぱんちゃんやカラット、モフやぴーちゃんとも会えたでしょうか。

彼女は今、リビングの特等席で、お花に囲まれながら、我が家の新しい守護神としてパトロールを続けていると思います。


​1.36kgという小さな体で、彼女は「生きることの気高さ」を教えてくれました。

姿は見えなくなっても、彼女は永遠に私の胸の中にあります。

フィオちゃん、本当によく頑張ったね。

あなたのママであれたことを、私は一生の誇りに思います。