【幸福苑】で仕事をしていた頃は、施設勤務をしていた時も訪問事業所に移ってからも、職員で苦手な人は一人も・・・いや、一人だけいたかな?(笑)まあその人もダブルワークで夜勤に何回かしか来ない人だったから、ほぼ毎日職場に行くのが苦にならない楽しい日々を送れていました。

 

本稿にたびたび登場しているちか子さんとは特に親しくしていましたが、彼女と並んで親しかったのが同い年の江本直美さんでした。親しみを込めて、以後ここでの彼女の呼び名を【ナオミ】とします。

 

ナオミの見た目は一見すると北斗晶系のコワモテなんですが、納得いかないことは相手が主任でも食って掛かる気の強さを見せた反面、いろいろ世話焼きな一面もあって仕事ではずいぶんフォローしてもらいました。休憩で一緒になると必ず昭和のアイドルやテレビ番組の話題で盛り上がり、ちか子さんら気の合う仲間とよく夜勤明けや休日にファミレスでランチしたりカラオケに行ったりしていました。カラオケでは、ナオミが大ファンだった【田原俊彦】の曲をワタシがモノマネで歌って「やめろ~!」とナオミが悶絶するのが毎回のお約束だったりしたものです。のちにワタシと同じ訪問事業所に異動となったナオミと、一緒の夜勤を終えたあと二人でカラオケに行って、10時からなんと夕方5時過ぎまで歌いまくったなんてこともありました。

 

こんなことを言っていると、なんかナオミと特別な関係だったの?と疑われるかもしれませんが、向こうからすればワタシのようなハゲチャビンのガッチリチビはトシちゃんのイメージからは程遠く、ワタシも好みのタイプは熱烈なファンだったのが【倉田まり子】で双方とも外見上は恋愛感情を抱く対象にはなり得なかったしwワタシに愛する妻💦とこども(猫ですが・・・)がいたように、ナオミにもイケメンと噂のご主人に自慢の一人息子がおりましたので、本当に仲のいい同性の友人感覚でさっぱりとした関係でした。職員同士の雑談の中では笑い話としてたびたびナオミの天然エピソードが話題にのぼり、若干コミュニケーション力が劣る息子ほど年の離れた後輩男子職員に懐かれるなど、【幸福苑】でも【しらゆり入間】でもナオミは”愛されキャラ”でした。

 

2015年5月のある日、夜勤を終えて帰ろうとしていたワタシは、日勤で出勤していたナオミとすれ違いました。その日、夜勤明けにもかかわらず新車購入の相談に行く予定だったワタシがナオミにそのことを伝えると、

「へえ~、じゃあ最初の助手席には私をのっけてね♪」

と茶目っ気たっぷりに返してきました。

 

 

 

 

 

 

 

よもや、それがナオミとの最後の会話になるとは、その時は夢にも思いませんでした。

 

その翌日、夜勤に出るべく自宅で準備していたナオミが浴室で突然倒れ、そのまま息を引き取ったことをちか子さんが号泣しながら電話してきました。次の日早番出勤すると、ナオミの代わりに夜勤で緊急出勤していたマミちゃんが、ワタシの顔を見るなり緊張の糸が切れたのか、ワタシの胸に顔をうずめて泣き出してしまいました。誰からも愛されたナオミの突然の死は、施設に大きな衝撃を与えました。

 

ナオミの通夜では、みんな涙にくれていました。御主人も、息子さんも、彼女の友人たちも、職場の人たちも。あの、ナオミによく懐いていたコミュニケーション能力に欠ける若手男子でさえハンカチで目頭を拭っていました。でも、なぜか不思議とワタシの目からは涙がこぼれませんでした。あまりに突然すぎてピンとこないこともありましたが、泣くと彼女に笑われそうな気もしていたから。ご厚意で遺体にも対面させてもらえました。まるで今にも起き上がってきそうな、安らかな眠り顔でした。
「起きるなら今のうちだぞ」
思わずワタシは、ナオミにそう声をかけていました。