会社勤めから介護職員に転じて1年数か月が経った2013年の春ごろ、幸福苑では介護系の学校を卒業した20歳前後の若い職員を積極的に採用することになりまして、我が職場にも自分にとっては娘ぐらいの歳の女性が3名入職してくるという情報が耳に入りました。ことこういう介護という業界においては、若さ、フレッシュさはイメージ戦略的にはいいのですが、ある程度の人生経験もないと高齢者とのコミュニケーションを取ることは難しい部分もあり、果たして夢を抱いて入ってきた若い職員がやりがいを感じ、定着してくれるかという点においては懐疑的な声が職場には溢れていました。
そんな中、ある日の夜勤でのこと。休憩に入ろうとしたところで、一緒に勤務していた下田主任に呼び止められました。
「パパさん、ちょっとご相談したいことがあるんですが・・・」
当時はまだ記録はほとんどが紙媒体で、その様式を見やすく、わかりやすくするべく改良していく作業を、主任とはそれまでもさんざんしてきていたので、今回もそういう話かと思っていたら、
「今度入ってくる新人たちの研修担当をお願いしたい」
と言われたので、かなり面食らってしまいました。日頃のワタシの仕事ぶりを評価し、周囲も納得してくれているので是非頼みたいとのことでした。
そこまで評価していただいたことについてはありがたい話だったのですが、ワタシとしてはまだ介護士としてのキャリア的には職場内で自分が一番浅いこと、身分もパートであることで、正社員待遇で入ってくる職員が、納得してそういう立場である自分の指導を受けてくれるのかという疑問が拭えず、お受けするのは難しい旨の返答をしました。
ありがたいことに主任からは、立場とかキャリアとかは関係なく、現時点でのワタシの仕事ぶり、介護という仕事への理解を十二分に評価してのもので、新人3名にもそのあたりは自分が納得させたうえで研修に入ることを約束すると言ってくれたのですが、やはりどうしても自信が持てず、やるともやらないとも言い切れないどっちつかずの態度になってしまい、後日改めて返事を聞かせてほしいということになったのです。
ひとつ、この提案を受けるとして、正職員へ登用していただけるならという条件を出してみたのですが、下田主任からはそれについては今はできない、逆に新人をうまく育成出来たら、その暁には晴れて正社員となれるよう本部長に掛け合うとの返事。結局話し合いは平行線をたどり、最終的にやはりワタシとしては”身分”の問題がどうしても引っかかってしまい、指導員の話は辞退させていただくことにしました。
日頃、ワタシが職場の飲み会を積極的に仕切っていたりしたので、先頭に立って人前に出ることを好むと思われていたフシもあって、下田主任はワタシがこの提案にスンナリ同意すると思っていたようで、最終的に辞退の意向を伝えると明らかに不快の表情を浮かべました。そして、この一件をきっかけにして、このあとワタシの身の回りはもちろんのこと、幸福苑にとっても大激震となる事態が訪れることになるのです。