「カウントダウンパーティー、ですか?」
大量のDVDと共にテーブルの上に置いてあったカラフルなチラシを見ながらRamが言った。
「うん、急なんだけどさ。Bohnに誘われたんだ。彼もDuenが年越しは家族と過ごすから暇なんだって。それうちの大学が主催みたい。あ、Ai’Ning、コーヒーでいい?」
行ってもいいよね、とキッチンからKingがひょっこり顔を覗かせた。
確かに大学の有志が主催のようだが・・・・。参加費を払えば誰でも参加出来るようだ。しかしこのカウントダウンパーティー、噂で聞いたことがある気が・・・・。
「DuenはP'Bohnが参加することを知っているんですか?」
コーヒー二つとお菓子の袋を手にリビングに戻って来たKingから、Ramは慌ててカップを受け取った。
「ありがとう、えっと何だっけ?Duenが知ってるかって?さあ、知ってるんじゃないの?恋人同士でしょ?何で?」
KingはRamの隣に腰を下ろすしながら、パリパリとお菓子の袋を開けて一口頬張った。コーヒーを啜りながらRamにもハイっと袋を向ける。
「P'Kingはこのパーティーに参加したことはありますか?」
今日は何を観ようかとDVDを漁っていたKingは、首を傾げてRamの方を見やった。
「無いよ?毎年年末は家族と過ごしてたし。Ai’Ningはあるの?」
「いえ、でも噂は聞いたことはあります・・・」
さっきから何か引っ掛かった言い方をするRamを訝しみながら、Kingはカップをことりとテーブルに置いた。
「何?行かない方がいい?」
「いえ、そういう訳では・・・・誰かと新年を過ごせるのならそれに越したことは無いのですが・・・クリスマスも独りにさせてしまったし・・・」
「ああ、両親達が年末年始に旅行で不在なのを黙っていたことまだ怒ってる・・・?」
Ramの父親が不倫を清算して和解したのがクリスマスの二週間前のこと。仲直りして初めて迎えるクリスマスと新年だから、家族と過ごせとKingに言われた。その言葉に甘えて家族と過ごすことにしたRamだったが、その時はまさかKingが年末年始を独りでこのコンドで過ごすことになっていたなんて知る由も無かった。
そのことを知ったのは偶然だった。早めのクリスマスプレゼントを持って遊びに来ていたKingの甥っ子達が口を滑らせたのだ。Kingの両親と姉の家族がクリスマスから年始にかけて旅行に行くと言う。友人達がクリスマスも大晦日も恋人と過ごすから、親の所に行くとKingから聞かされていたRamは驚いた。
問いただすと初めは誤魔化していたKingだったが、Ramの迫力に負けてしぶしぶ白状した。気を使わせまいと黙っていてくれたのだろうが、大切な恋人がクリスマスも新年も独りだと知ってRamの心は痛んだ。帰れ帰らないの押し問答の末、結局Kingに押し切られて家族と過ごすことになったのだが・・・。
「黙ってたのは悪かったって思うけど、いい大人なんだし独りだって平気だって。それに新年はBohnがいてくれるから配いらないよ」
それが一番心配なのだが・・・。
「ねえ、P'King。一つ確認していいですか?」
「え~?何?今日はホラーにしない?」
「あなたにとって俺って何ですか?」
Kingは持っていたDVDと口に入れようとしていたお菓子を床にばらばらと落とした。
「えっ!?な、何!?どういう話の流れ!?」
「だからあなたにとって俺って何なのか改めて聞いておきたいと思って」
みるみる真っ赤になってしまったKingをかわいい、と思いながらRamは彼の手を取って細い指に口付ける。きゅ~と唇を結んで増々赤くなっていくKingを見つめながら、
「あなたの口から聞きたい」
と意地悪くダメ押しをする。
「・・・・・・・・・・・・こ、こ、恋・・・人・・・・・・・?」
恥ずかしがって言葉にするのを嫌がるKingに無理やり言わせることはなかなかの快感である。
「何で疑問形なんですか?」
「・・・・・・・・・・ダメ?」
「駄目です。目を見て言って」
「ぇぇぇ~~~~」
小さい抗議の声は無視をする。
「・・・・・・・・・恋人で・・・す・・・・・・・・」
「良くできました」
そう言ってもらわないと困る。たまに確認しないとそのことを忘れているのではないかと思うほど、Kingは素っ気ないのだ。律儀におずおずと視線を向けて来てくれた恋人の顎を引き寄せて唇にキスを落とした。
ボランティアキャンプの夜二人はキスをした。だがKingはあの情熱的なキスを翌朝酔っぱらいの戯言として無かったことにしようとした。寝起きの悪さに危うく誤魔化されそうになったが、そうはさせてなるものかと、苦労の末口説き落としたのである。恋人になってからも、ともすれば恋愛ごとに逃げ腰なKingを捕まえておくのは大変だ。やっと手に入れたこの可愛くて臆病で危なっかしい恋人を絶対離さない。Kingが嫌だと言っても手放す気なんて微塵も無いのだ。
「・・・・あの・・・Ai’Ning?・・・・えと・・・DVD・・・・・・何観る・・?」
キスの後でDVD・・・・。照れ隠しで言っているのは分かるのだが・・・・。恋人同士になって数か月。この恐ろしく奥手な恋人をなかなかいい雰囲気に持って行けないのがRamの悩みの種でもある。
「俺も行きます」
「え?何処に?」
RamはチラシをKingの目の前でゆらゆら揺らしながら、にこりと笑って言った。
「カウントダウンパーティーです」
「ほんとに良かったの?俺に付きってカウントダウンパーティーに参加して」
「大丈夫ですよ。クリスマスは帰ってますし、それに後で実家には顔を出します」
ほっと微笑んだKingには申し訳ないが、家族との年越しを蹴ってまでここに来たのには訳がある。
「P'Kingはアイビーでまとめていてお洒落ですね」
Ramは年上の恋人を目を細めて満足そうに見つめた。
「そう?ありがとう。このグレーのチェックのパンツ、気に入ってるんだよね」
淡いピンクのシャツにベスト、チェックのパンツの組み合わせは、Kingを爽やかに見せてとても似合っている。
学生主催のパーティーなのでドレスコードは無いものの、皆そこそこお洒落に着飾ってきていた。
Kingは一つ年下の恋人をこっそり盗み見た。
白シャツに黒のジャケットと黒いパンツ。シンプルながらもRamの鍛え上げた体を引き立てていた。
すごくかっこいいな・・・・。
「見惚れるくらいカッコいいですか?」
「うっ・・・!」
言われて見惚れていたことに気が付いて、Kingは思わず視線を逸らした。
「何か君ってさぁ・・・・・最近・・・・・」
「最近俺が何ですか?」
ニヤニヤ笑っているRamをむうっと上目遣いに睨む。
「何でもない!もう行くよ!」
何だか最近Ramは自分に対して遠慮が無くなったのではないか?恋人なんだから別に悪いことでは無いのだが、知り合った頃は口をきいてもくれなかったのに変わり過ぎでは?それに最近増々カッコ良くなって来て困る。見つめられたらドキドキしてどうしていいのか分からなくなる。キスなんかされようものなら完全にキャパ超えである。キャンプの夜、酔っていたとはいえよく自分からキスできたものだと思い出しただけでも恥ずかしい。Ramの恋人をこのまま続けていたら早死にしそうな気がする・・・・。心臓が持たない・・・・・。
「わあっ、結構人がいっぱいだね!」
カウントダウン仕様に綺麗に飾り付けられた会場には思ったよりたくさんの人が集まっていた。学生だけでなく一般の人もいるようで賑やかだ。酒を飲んで談笑したり、食事を楽しんだり、ダンスをしたりと思い思いに過ごしている。その中に見慣れた長身の人物を見つけてKingは手を振った。
「ようKing、遅かったな」
ドレスコード無しなのにばっちりタキシードで決めた立ち姿は、周りの熱い視線を一身に集めている。さすが現役Moon様である。
「芸能人並みに目立ってるよ、Bohn」
「そうか?普通だろ?」
カッコつけてる訳でもなく本心で言っているので根っからの自信家なのだろう。少し羨ましくもある。
BohnはKingの隣で無表情で立っている天敵を見つけて渋面を作った。
「何だ?彼氏も一緒か?大晦日は一人って言ってなかったか?」
Kingが口を開く前にRamが口を挟んだ。
「俺はこのパーティーの内容をこの人と違って知っているので。あなたもご存じなのでは?」
「・・・Ai’Ning?」
さらに渋い顔になったBohnにどういうことかと聞こうとした時、
「それにしてもお前ら、世間知らずなお坊ちゃまとそのボディーガードみたいだな。受けるし」
と言われてKingは頭をはたかれたようなショックを受けた。
「な、何それ!失礼だな!言うに事欠いて、せ、世間知らずなお坊ちゃまって!」
言い得て妙過ぎて苦笑いのRam。
じゃあなお坊ちゃま、と頭を撫でられて半泣きのKingを残してイケメンMoon様は颯爽と立ち去った。
「まだ気にしてるんですか?」
「気になんてしてないよ。そんな事より警備を怠るなよ」
しっかり気にしていじけた様子のKingが可愛すぎてぎゅっと抱きしめたくなるRamである。そこをぐっとこらえてサンドイッチの乗った皿をKingに差し出して、さっきからフォークでつつきまくって穴だらけになったチキンの皿と交換する。
「俺と並んだら誰でも身辺警護されてる要人みたいになりますよ。P’Bohnはお洒落で人目を引いていたあなたに嫉妬してあんな意地悪を言っただけです」
「・・・・そんな事は無いと思うけど・・・・・・。君がそう言うならそうしとく・・・・。ありがとう・・・」
こういうところはBohnとはまったく真逆だな、とRamは思う。自信満々のBohnと違ってKingは自分の容姿に無頓着で自己肯定感が低い。Bohnのような華やかさは無いが、ふんわりとした優しい空気を纏いながら知的な印象も与えるKingは、誰からも好感を持たれた。大学でも隠れファンが多いのだが、知らないのは本人だけである。無自覚な人たらしはとても厄介で目が離せないのだ。
「飲み物を取って来ますが何がいいですか?」
「ああ、じゃあシャンパンを」
Ramの後姿を見ながらKingは小さく溜息をついた。
何だかずっとRamに世話を焼かれてないか?心配されるのは俺ばかり・・・。そんなに頼りないかなぁ・・・。俺の方が年上なのに・・・。これじゃあ恋人じゃなくて本当にボディーガード・・・あ・・・・。
ドリンクを注文しているRamに女の子が声を掛けているのが見えた。西洋の血が入ったRamの整った美しい容姿は女の子達を魅了するのだろう。焼きもちを焼くより映画のワンシーンを観ているようで見入ってしまう。
「ねえ、君一人?一緒に飲まない?」
ぼんやりしていて自分に言われたことにしばらくKingは気付かなかった。声の方へ振り向くと自分より少し年上の男性がにこやかに立っていた。
「え、俺ですか?」
「そう、良かったらあっちで飲まない?すごくお洒落だから気になってたんだよね。君に壁の花は似合わないよ」
壁の花って男にも使うのか?まあ確かに一人で壁にもたれてサンドイッチを頬張る姿は寂しそうではあるか。
「ああ、でも俺、友達・・・と来てるから」
「いいじゃん、その子も誘って来れば。人が多い方が楽しいし、ね?」
Ramが一緒ならいいか、と考えていたら、
「坊ちゃん、シャンパンをお持ちしました」
と声がしてシャンパンのグラスがKingと男の間にずいっと差し出された。
「!!??」
「この方に何か用ですか?」
振り返ったそこには、ご丁寧にサングラスまで着用したRamがグラスを片手に立っていた。
「え?いや、一緒に飲もうかと・・・思って・・・・・」
驚きすぎて口をパクパクさせているKingを尻目に、Ramはサングラスに指を添えながら男に向かってさらに追い打ちを掛けるように言った。
「連れて行くのは構いませんが、この方に何かったらそれなりの対価を払ってもらうことになりますがよろしいですか?」
対価って何!?
「あ、いえ、そ、その・・・・・・し、失礼しました!!」
ダッシュで逃げ出した男の背中に、ふんっと息を吐きかけてからボディーガード君はKingに向き直った。
「まったく、油断も隙もありませんね。どうかしましたか?」
「ど、ど、どうしたもこうしたも!!何なのそれ!!サングラスなんてどこから持ってきたの!?そ、それに!!ぼ、ぼ、坊ちゃんってっ!!」
これではマフィアの跡取り息子とその用心棒じゃないか!?
「でも、ナンパ野郎を一発で追い払うことが出来たでしょう?」
「ナ、ナンパって・・・・。友達も一緒に飲もうって言ってたんだよ?」
恨めし気な視線を向けているKingにやれやれとため息をつく。
「俺はあなたの友達?」
あっ、と言って唇を噛んで下向いたKingにRamは優しく微笑んでグラスを手渡した。
「今度はちゃんと恋人と来てるって言って下さいね」
「・・・・・うん・・・・ごめん」
顔を上げるとRamがじっと愛しそうに見つめて来てドキッとする。あんまり見つめないで欲しい。
「・・・・・何?」
「いえ・・・・あんまり可愛いから今すぐあなたにキスしたいな、と思って」
ひえぇ~~、と声にならない声を上げて後ずさるKingにRamは噴き出してしまった。
「冗談ですよ。そんなこと恥ずかしがり屋のあなたにする訳無いじゃないですか」
「・・・・・絶対俺で遊んでるでしょ」
この様子では、やはりこのカウントダウンパーティーのは趣旨を知らなくて来ているのだろう。年明けまであと30分。
さて、どうしたものかとRamは考えた。
「何だか人が増えて来たね」
「そうですね、もうすぐカウントダウンが始まる時間ですから。俺から離れないでくださいね。手をつなぎましょうか」
「もう、子供じゃないんだから。Ai’Ning、心配し過ぎ」
手をつないで守ってもらうなんて恥ずかし過ぎる。
KingはBohnは何処かと探してみたが見当たらない。きょろきょろとあたりを見渡していると見覚えのある人影が目に入った。ん?あれ?
「ねえAi’Ning、あそこにいるのって」
Duenじゃない?と言おうとした時、突然後ろから押された。
「うわっ!?」
「P'King!?」
大勢の人が会場の前でカウントダウンに参加しようとして、一斉に雪崩れ込んでで来たのだ。Ramに手を伸ばしたがわずかに届かず、Kingだけが前に押し出されてしまった。人の波に押されて身動きが取れない。
カウントダウンまであと5分くらいなのに・・・・。せっかくRamが時間を空けてくれたのに・・・・。一緒に新年を迎えたい。
人の流れが止まってようやく動けるようになったKingだったが、Ramの姿がどこにも見えなくて焦る。
「ねえあなた一人よね?あたしと新年迎えない?」
え?何?
突然巻髪の綺麗な女性に腕を絡められて驚いていると、
「ちょっと待った!俺とカウントダウンしようよ」
と別の若い男性からも声を掛けられた。肩に腕を回されてKingははっと気づく。
これは・・・ナンパだよな。だったらここは恋人がいる事をアピールしなれば。
「あの、俺には恋人が・・・」
言ったと同時の大音量の音楽とMCの声でKingの告白はかき消されてしまった。
「さあ、いよいよカウントダウンが始まるよ!今夜は無礼講!もうお目当ての彼氏、彼女は捕まえたかい!どんどんキスして気に入った子とカップルになっちゃおう!」
え!?
「無礼講って!?キスって!?」
肩に腕を回していた男にKingは思わず聞いていた。
「えっ、君知らなかったの?このパーティーの裏イベント。恋人のいない子達が集まって、気に入った子がいたら新年を迎えると同時にキス!お互い気に入ったらカップルになるんだよ。俺君のこと気に入っちゃった!」
嘘だろ!?恋人探しの裏イベント!?Bohnの奴知って誘って来たのか!?
「さあ!30秒前だ!!準備はいいかい!!」
司会者の言葉にKingはパニック寸前である。恋人がいるからとこの場を離れようとしたが、更なる周りの大音響で声が届かない。おまけにがっちり手を掴まれていて逃げるに逃げられない。
いざとなったら殴って逃げる!
と思ったのも束の間、もう片方の手も他の誰かに握られてしまった。見るとショートカットの可愛らしい女の子で、これでは手荒なことも出来ない。
「20秒前!!」
盛り上がる周囲の声とは裏腹にKingは焦燥感ではち切れそうである。と、後ろから突然肩を掴まれた。
わあ、離してくれ!
「さあ、行くよカウントダウン!!テン!!」
テン!!
じたばた暴れるがビクともしない。すると後ろの大きな影が言った。
「P'King、落ち着いて。俺です」
「!!」
ナイン!!
「外へ出ますよ」
「え!?ちょっと横取りずるいぞ!!」
「すみません、この人俺のなので」
ブーイングを背中で聞きながら、Ramは風のようにKingを連れ去った。
二人は人の波をかき分けて何とか外に出た。
「P'King」
呼ばれて振り返る。Ramの深いアーバンの瞳に驚いた自分の顔が映った。
RamがKingを引き寄せる。
・・・・・スリー!、ツー!、ワン!
Happy new year~!!
そっと重ねられた唇にKingは静かに目を閉じた。
その頃のMoon様。
「痛たた、耳引っ張るなよ、Duen!」
「Bohnが悪いんでしょ!このパーティーの趣旨を知ってて来たんだよね!」
RamからBohnがカウントダウンパーティーに参加する事を聞き、年が明ける寸前、女性に囲まれて鼻の下を伸ばしまくっている彼氏を捕獲してきたDuenだった。
「僕と言う恋人がありながら!浮気したら別れるって言ってあるよね!」
「落ち着けって!浮気じゃないって!お前がいなくて寂しかっただけなんだって!その証拠にKingも誘っただろう!」
「P'Kingまで巻き添えにして!Ramっていう恋人がいるのに!」
「恋人を新年にほったらかしにする方が悪いんだろ!」
「あ、開き直ったね!それにしても随分めかし込んでるよね!女の子に囲まれてすごく嬉しそうだったしねぇ!」
Bohnとしては本当に暇つぶしに、同じく年末一人ぼっちだったKingと遊ぼうと思っっただけだった。パーティーの裏の内容は知ってはいたがキスなんてしなけりゃいいし、恋人がいるからと断ればいいだけだと思っていた。Kingに教えなかったのはパーティーの趣旨を知った彼が慌てる様子をからかってやる予定だったのだ。
ただRamが来たことでKingとは別行動になってしまったのは想定外だった。そしてBohnにも想定外の事が起こった。そうBohnはもてたのである。Duenと知り合う前みたいにもてる自分がそこにいて、つい調子に乗ってしまったのは否めない。
「悪かったよ、キスだってお前っていう恋人がいるんだからするつもりは無かったんだって。愛してるのはお前だけだ。だから別れるなんて言わないでくれよ」
真剣な表情で見つめて来られるとDuenは何も言えなくなってしまう。Bohnの押しの強さとその真っすぐな瞳にDuenは弱いのだ。
「・・・・・・分かったよ。今回は許すけど、またやったら別れるからね!」
「やった!愛してるぜDuen!!happy new year!!」
キスしようと顔を近づけたBohnの鼻をDuenはぎゅううっとつまんで押し返した。
「キスは今度会う時までお預けだから。僕はもううちに帰るからね」
じゃあね、と手を振ってDuenはさっさとタクシーに乗り込んだ。呆然と佇むBohnを一人残してタクシーは走り去って行った。
「嘘だろ・・・・・・」
「Ai’Ning、このパーティーのこと初めから知ってたんでしょ。何で教えてくれなかったのさ。恋人探しが裏イベントなんて知ってたら行かなかったのに」
会場の外のベンチに腰掛けて、カウントダウンカップル達がいちゃいちゃしながら夜の街へ消えて行くのを眺めながら、不機嫌そうにKingが言った。Ramはペットボトルの水をKingに渡しながら隣に腰を下ろした。
「俺も新年をあなたとキスをして迎えたくなっただけですよ」
・・・何でこういう歯の浮くようなセリフを恥ずかしげも無く言うかな。キャラ変すごくないか・・・?
「・・・・・・公衆の面前ではNGなんですけど」
「教えたらそういうことを言って行くのを止めたでしょう?」
まあ、そうだけど・・・。
「嫌でしたか?」
綺麗な顔で覗き込まれて、Kingは顔が熱くなるのが分かった。
「い、嫌では・・・・・」
嫌なんかじゃない。むしろ年越しを一緒に過ごしてくれてどんなに嬉しかったか。本音で言えば独りで過ごす新年は寂しかったのだ。でも正直に言葉に出来なくてつい話を逸らしてしまう。
「それにしてもBohnの奴どういうつもりで俺の事誘ったんだ?まさか知らなかったってことは無いよね?」
「それは無いですね。あなたを連れて来たのも、おおかたバレた時の保険にしたかったのでしょう」
「?保険って?」
「まあ良からぬ事を考えると天罰が下ると言う事です」
ますます分からないけど・・・・。
「それにしてもあなたがあんなにもてるとは想像以上でした」
急に話がおかしな方に飛んで、思わずはぁ?と変な声が出てしまった。
「君とはぐれちゃったからだろ。可哀そうなぼっちに声掛けてくれただけだよ」
まだ何人か狙っていた男女が周りにいたことに気付いてもいなかったらしいKingに、あの時本当に間に合って良かったとRamはつくづく思った。
「そう言う君の方こそ女の子にキスをねだられたんじゃないの?」
「まさか。強面のボディーガードに声を掛ける度胸のある女性はいませんよ」
ぶっ、と飲んでいた水をKingは吹き出してしまった。Ramもしっかり根に持っているんじゃないかと、むせながら密かに思った。
「そろそろ帰ろうか」
「疲れましたか?タクシーを呼びましょう」
立ち上がったRamを止めて、Kingは少し照れ臭そうにぼそぼそと言った。
「少し歩いて帰らない?ちょっと話・・・したいし・・・・。夜中ならその、手も繋げるかなって・・・思ったりして・・・ダメかな・・・・」
ああもう、恥ずかしそうな顔でこんな可愛い事を言われたら誰も逆らえやしない。やっぱり彼を一人にするのは絶対やめよう、とRamは新年に誓った。
「はい、帰りましょう」
差し出されたRamの手を遠慮がちに握ってKingは嬉しそうに笑った。
「あ、そう言えばごたごたしてて言うのを忘れてた」
happy new year Ram、今年もよろしく
happy new year P'King、こちらこそ
来年も、再来年も、ずっと一緒に・・・・
I will always love you・・・・
残暑厳しいこの季節になんでカウントダウンやねん!!と突っ込まれても致し方無いんですけど、何だか書いてみたくなったんです・・・。他に書いてた話があったんだけど暗くなり過ぎて頓挫中・・・・。この話も何度も書き直して結局どこがおかしいのか分からんくなってしまった・・・・。
ちなみに壁の花は女性に、男性は壁のシミって言うらしい(笑)
毎度のことながらタイトルが思いつかんくて映画からパクりました。何の映画か即バレ。