「あの二人またやってるよ。よく飽きないよな」
 とMekがノートパソコンを見ながらあきれたように言った。隣でコーヒーを啜っていたKingは読んでいた本からゆっくり顔を上げる。
「BohnとDuen?また旦那の方の女関係か?」
 斜め向かいのテーブルに、怒れる嫁のDuenとひたすら平謝りの夫のBohnが見えて苦笑する。
「だから彼女とは何でもないって言ってるだろ!向こうが勝手にこれを置いていったんだって!」
 ラメの入った煌びやかなリボンの掛かったA4サイズの箱を、Bohnはポーンとテーブルの端へ投げた。それを指で摘まんでDuenはBohnの目の前でぶらぶらさせながら眉間にしわを寄せて言った。
「物を粗末にしない!プレゼントには罪はないし女の子に失礼だし!そもそも受け取らなければいい話でしょ!」
「だから、勝手に・・・・・・」
「言い訳しない!返してきて!それが出来ないならもう別れるから!」
 それだけは勘弁してくれ、と懇願しているMoon様はもう完全に嫁の尻に敷かれている。周りで見ている女学生たちもクスクス笑っている。
「あれはただの公開のろけじゃない?」
 ぱたんとパソコンを閉じて、食べていたお菓子の袋をKingに差し出してMekは立ち上がった。
「もう行くのか?」
「ああ、Bossが風邪ひいて寝込んでるから」
 そう言って見せられたスマホの画面には、早く帰って来てダーリン、の文字とひんやりシートを額に乗せたBossの写真が。
「ハイハイ、さっさとお帰り」
「お前は?最近忠犬の姿を見ないけど」

 誰の事を言っているのか分かってKingは不愛想な男の顔を思い浮かべた。
「忠犬て。それにそんなにいつも一緒じゃないし」
 投げやり気味に言うとMekは立ち止まってKingを見た。
「ふ~ん?何か悩み事があるなら言えよ?お前すぐ溜め込むし」
 じゃあなと、そそくさと恋人の元へ急ぎ足で向かう友の背中に、どっちが公開のろけなんだよと言葉を投げた。
 貰ったお菓子とコーヒーが空になる頃には、Bohn達もいなくなっていてKingはこれからどうしようかとぼんやり考えていた。
 帰りたくないな・・・・・・。それにしてもMekはいつも勘が良い。
 帰っても誰もいない部屋を思い浮かべてKingは深い溜息をついた。

 


 一週間前同居人だったRamが出て行った。ボランティアキャンプから半年、ようやく父親の不倫問題が解決したからとRamは言った。
「あまりP'Kingに迷惑を掛けてはいけないので」
 迷惑だなんてこれっぽっちも思っていなかったが、父親と和解できたのであればKingに引き留める理由が無かった。本音で言えば出て行って欲しくなかった。Ramとの半年の同居は何より居心地良くて楽しいものだったから。

 ずっと一緒にいて欲しい

 喉元まで出掛かった言葉をすんでの所で飲み込んだ。友人には気軽に言える我が儘も何故かRamには言うことが出来ない。何でも言い合えるBohnやMek達が羨ましいと思ってしまう。ただ彼らと自分との違いは恋人同士ではない事。けれどただの先輩と後輩の関係でもないとも思う。キャンプの夜以降、寝ている時軽いキスをRamからされることがあった。友達以上に思っているのは確かだと思うが、それ以上は何もしてこないRamの本当の気持ちは分からない。そういう自分だってRamの事が好きなくせに、今の関係が壊れるのが怖くて一歩踏み出すことが出来ない。そんな曖昧な二人の関係。今のKingの出来ることは、Ramを喜んで送り出してあげる事だけだった。
 ただ出て行った今となっては、Ramが友情以上の感情を自分に持っていたかどうかも怪しかった。




 バス停への道をぶらぶらと歩きながら、一人だった頃一体どうしていたのだろうとKingは考える。Ramと同居を始めてからはそれまでおざなりだった食事の支度や掃除をするようになった。慣れないことで戸惑いや失敗もあったけれど、二人ならそれも楽しかった。Ramとだったからなおさら・・・・。
 まっすぐ帰りたく無かったが、こんな時に限ってTeeも彼女とデートだったりする。しょうがないから一人で食事だけ済ませて帰ろうか、とぼんやり考えていて前から歩いて来る散歩中の大型ワンコに気が付くのに遅れてしまった。
 ヤバい!!
 慌ててUターンしたが運悪く相手はとても人懐っこい子だったのだ。逃げるKingを追っ駆けっこが始まったと勘違いして嬉々として追いかけて来た。
 嘘だろ!?誰か!!助けて!!
 振り向いたKingの目に映ったのは飛び掛かってくるワンコの大きな影だった。



「えっ?P'Kingの家を出て実家に帰ってるの?」
 Duenの問いかけにRamは無言で頷いた。
「え~、何で?二人は上手くいってたんじゃないの?喧嘩でもした?」
 運ばれて来たピザの皿をRamに手渡しながらTingTingが聞いて来る。父親の不倫の件は伏せていたが、Kingの家に世話になっていることはDuen達には打ち明けていた。
「あんまり長く世話になるのも申し訳ないから」
「恋人同士なら遠慮することないんじゃない?」
 Duenの言葉にピザを取ろうとした手が止まる。
「P'Kingとはそんな関係じゃないから」
 DuenとTingTingは顔を見合わせてやれやれと首を振った。
 Kingとは恋人同士ではない、と思う。自分からKingにキスをしたことは何度かあった。彼はそれを拒絶する訳では無かったが、積極的に彼からアクションを起こして来ることもキャンプの夜以降無かった。好意はあるのだと思う。それでなければキスを受け入れる事なんてない。自分の事をどう思っているのか知りたいと痛烈に思う。でも半面知るのも怖い。優しい彼は親の不倫で傷ついている自分を拒否できないだけかもしれない。好かれているなんて思い上がりだとしたら・・・。
 彼の家から出た理由は他にある。このままKingと一緒にいたら彼を傷つけることになるのが明白だったから。Kingの赤い柔らかそうな唇に激しいキスを落とし、白くて滑らかな肌に綺麗な髪に触れたい。そしてそれから・・・・・・。
 自分がこんなに独占欲の強い人間だったことをKingを好きになって初めて知った。自分だけを見つめて欲しい。誰の目にも触れさせない様に閉じ込めてしまいたい。
 あの美しい人を自分の手で汚していまいそうで怖かった。
「ねえ、Ram。P'Kingを一人にして大丈夫?あの人普段は明るくて陽気な人だけど、すごく寂しがり屋な気がするんだ。急に突き放されて一人になったら、迷子の子犬みたいに、優しくしてくれる人の所へ行っちゃうかもしれないよ?ちゃんと捕まえておきなよ」
 Duenはおっとりしているがよく人を見ている。確かにキャンプの時も一人は寂しい、と言っていた。
 見送りながら寂しそうに笑っていたKingを思い出して胸が痛んだ。だが引き留めて来るわけでも無い。彼の本心が何処にあるのかRamには分からなかった。
「そう言えばDuen、あんたまたP'Bohnと喧嘩したんだって?こんなとこに来てていいの?」
「いいの!あんな奴知らない!全然反省しないんだもん!」
「そんなこと言って、どうせ後から泣きつくんじゃないの?」
 そんなことしないもん!とTingTingに食って掛かっているDuenを尻目に、Ramは今すぐにでもKingに会いたいと思った。Duenみたいに何でも正直に言えたらいいのに・・・・・・。



 飼い主によって引き剥がされたワンコが木に括られてキュ~ンと哀しそうな声で鳴いている。
「ごめんね!君大丈夫!?怪我はない!?」
 犬に突然じゃれられてパニックになったKingは、助けてくれた飼い主さんにしがみついた。震える身体を何とか抑えようとしたがどうにもならない。
「だ、大丈夫・・・で、す・・・っ、い、犬・・・っが苦手・・・で、ご、ごめんな・・・っさい・・・」
「そうなんだ、申し訳ない。俺がリードを離したばっかりに・・・・」
 飼い主の男はたいそう申し訳なさそうに、震えながらぎゅうっとしがみついて来るKingの背中を落ち着くまでさすってくれた。しばらくして呼吸が落ち着いてきたKingは、ようやく自分が置かれている状況に気が付いた。往来のど真ん中で男性と抱きっている・・・。いや犬が怖くてしがみついていただけなのだが、傍から見たら完全に男同士のラブシーンである。
「わ、わわっ!ご、ごめんなんさい!!俺!あ、あの・・・」
 真っ赤になって慌てて離れたKingを見て背の高い飼い主さんは噴き出した。
「いいよ、悪いのはこっちだし。落ち着いたみたいで良かった」
 笑いながらTシャツとGパンのほこりを払ってくれる。よく見ると飼い主の男は思っていたより若く、笑うと目尻に皺が寄って感じのいい人だった。背はKingより高くて年の頃も二つ三つ年上だろうか。短くカットされた髪が飼い主さんをより爽やかに見せていた。
「あの、さ、そんなに見つめられると照れるんだけど。そんなにいい男だった?」
「す、すみません!」
 いけない、じっと見る癖がつい。いつもその癖はやめろとRamに怒られてたっけ。
「あれ?君って工学部一の秀才君じゃない?」
「え?」
「あっ、俺同じ大学の工学部のOB。俺が四年の時に一年にすごい頭の良い奴が入ったって有名だった。それ君だろ?N’King?」
「は、はあ・・・・・・・」
「あ、そうだ、お詫びにご飯おごるよ。この子家に帰して来るからちょっと待ってて。すぐそこだからさ」
「え、ちょ、ちょっと・・・・」
「あ、俺Chi!すぐ来るよ!」
 背の高いシルエットと名残惜しそうに振り返るワンコをKingは呆然と見送った。
 ・・・まあいいか。帰っても一人だし・・・。何かいい人そうだったし。
 それにしても、Ramと初めて出会った時と大違いだな。あいつは犬を怖がっていた俺を置いてったんだよな・・・。最初は何て薄情な奴って思ったけど・・・。
 Ramに会いたいと思っている自分に気が付いてKingは小さく息を吐いた。



「おい、King!!昨日路上で男と抱き合ってたって本当か!?」
 朝いつものメンバーが集まるいつもの場所に到着するなり、突拍子の無い事をTeeに言われてKingは飲んでいたコーヒーを吹き出してしまった。
「ゲホッ、ゲホッ!はあぁ!?何言ってんのさ、そんなことあるわけ・・・・・あっ・・・・」
 昨日の一件を思い出して、思わず手で顔を覆ってしまった。誰かに見られていたのだ。
 抱き合っていたわけでは無いのだが、かと言っていい大人が犬が怖くて知らない人にしがみついていました、なんて恥ずかしくて言い出しにくい。
「あ~~~」
「何だよ!本当だったのか!?相手はRamか?」
 からかうようにBohnに言われてムッとする。
「なんでRamなのさ。違うし」
 え~~っ!浮気かよ!と一斉に言われて辟易する。
 浮気って何だよ!そもそもRamとはそんな関係じゃないし!
 ばかばかしくて言い訳するのも面倒臭くてだんまりを決め込んだ。教室に行ってしまおうと立ち上がったところでMekに腕を掴まれた。
「違うならそう言っておかないと本当に誤解されるぞ」
「誰に?もうどうでもいいよ」
「King・・・・・」
 誰と抱き合っていようがRamは気にしないんだろう。会いにも来ないし。心配そうなMekの腕を振りほどいてKingは足早に教室に向かった。



「えっ、P'Kingが路上でキスしてたって噂は本当だったの?」
「Bohnの話だとP'Kingは否定しなかったんだって」
 マジか!と呟くTingTingにうんうんと頷くDuen。噂に尾ひれが付くのはしごく当たり前のことである。
 昼食を取るために食堂に来ていたDuenとTingTingは、顔を寄せ合ってひそひそと話をしていた。
「私が聞いた話では、そのあと二人で手をつないでどこかへ消えたって」
「ええ~!?もう、だからP'Kingを一人にしちゃダメって言ったのに!」
「Ramはこのこと知ってるのかしら」

「RamとP'Kingって本人達は自覚が無さそうだけど、両想いなのは誰が見たって分かるよね。なのに浮気って本当かな。全然イメージに無い」

「そうよね、恋愛ごとに鈍そうなP'Kingがまさか・・・」
「P'Kingがどうしたって?」
 きゃ~~っ!と声にならない悲鳴を上げて、DuenとTingTingは恐る恐る振り返った。
「R、Ram!?な、何でもないよ!P'Kingの浮気の話なんかしてないよ!」
「Duen!あんた、バカ!!」

「わあ、違う違う!P'Kingが路上でキスしてたって話だよ!」

 あちゃ~、とTingTingはテーブルに突っ伏した。
 Ramの目がギラリと光る。
「ああ、私たち課題をやらなきゃ、ね?Duen?」
「う、うん、そろそろ行こうかぁ?TingTing?」
 立ち上がりかけた二人の肩を掴んで再び着席させてRamが言った。
「聞かせてもらおうか」
 ハイ・・・、と蚊の鳴くような二人の声が聞こえた。



 食事が面倒臭いなんてRamがいた頃は思ったことが無かった。一人でとる食事はとてつもなくつまらない、とKingはつくづく思う。ここ最近は適当に済ませるか、食事を取らないで寝てしまう事もしばしばだった。
 講義が早く終わって帰宅したが、食材が底を尽きていたのに気が付いた。また食事に出るのも買い出しに行くのも億劫だ。ソファにどさりと身を投げるともう動く気が無くなってしまった。
 何か買って来ればよかったかな・・・。ああ、でも昨日は久しぶりに楽しかったな・・・。
 昨日はたまたま仕事が休みだったと言っていた年上の先輩。Chiが連れて行ってくれたレストランはどれも美味しくて、そして何より彼はとても博識で話し上手だった。彼と話しているとRamの事を考えないでいられて心が落ち着いた。
 うとうとしかかった時、スマホが着信を知らせた。
「・・・・・・誰だよ・・・・・はい、もしもし・・・・・え?・・・・あ・・・」




「今日は誘っていただいてありがとうございました、P'Chi」
 車を降りて手を合わせたKingにChiは笑って言った。
「いやいや、こちらこそ付き合ってもらってありがとう。なかなか一緒に行ってくれる人いなくってさ」
「びっくりしましたよ、いきなり一緒にパフェ食べに行ってくれって言われた時は」
 笑いを堪えるKingにChiは苦虫を嚙み潰したような顔をした。それがさらにKingの笑いを誘う。
「しょうがないだろ、期間限定なんだよ。女の子は太るからって付き合ってくれないし、友達は恥ずかしがって嫌がるし」

 確かに店の内装はかなり少女趣味だったな。なかなか興味深くて楽しかったけど。
「でもまた食事まで奢ってもらってしまって」
「いいのいいの、俺一応社会人だし。それにまた付き合ってくれるだろう?毎週新商品が出るんだ」
「俺も太るの嫌なんだけどなぁ」
「え~~、Kingさまぁ~、お願いします~」
 あははと二人は声を出して笑った。

 Chiといると楽しい。半面Ramを忘れていられた時間は、何故だかKingの中に僅かな罪悪感を残す。けれどRamが出て行ってぽっかり空いた穴を埋める何かが、Kingには必要だった。




 Chiと別れて自分の家にたどり着いた時、玄関の扉の前に立つ人影に驚いて声をあげそうになった。
「誰!?・・・えっ!?Ai’Ning!?」
 離れてたった一週間ちょっとなのに、間近に見るRamにドキリとする。西洋の血をひく美しく整った顔と鍛え上げられた体躯に目を奪われてしまう。ゆっくり立ち上がるRamに、見入っていたことに気が付いてKingは視線を逸らした。
「ど、どうしたの?来るなら連絡くれれば早く帰って来たのに」
「いえ・・・今来たばかりです。・・・・残っていた荷物を取りに来ました」
 もしかして会いに来てくれたのかと高揚した気持ちが一気に下がる。
「そ、そう・・・。取り敢えず入って」
「・・・遅くにすみません。P'Kingはどこかへお出かけでしたか・・・・?」
 コーヒーでも入れようとキッチンに立ったKingはまだ残っていたRamのカップを棚から取り出した。
 これも持って帰るのかな・・・。 
 だんだん無くなっていくRamの私物に寂しさを隠しきれない。
「え?ああ、うん、先輩とご飯行ってた」
「・・・・それは俺が知ってる人ですか?」
 最近キッチンに立つことが少なくなっていて、コーヒーの袋が見当たらない。
「う~ん?いや、君の知らない人だよ。昨日知り合ったばかりの人」
「知り合ったばかりの人と食事へ行くんですか?」
 やっと見つかったコーヒーの袋を開けながら、ふとRamの言葉尻に棘のようなものを感じて振り返った。
「・・・・犬にじゃれられてパニックになった俺を助けてくれた人だよ。お詫びにって食事を奢ってくれた。今日はパフェ食べようって誘われたんだ。なかなか面白かったよ」
「そうですか・・・・。知り合ったばかりに人なのに随分楽しそうにしてましたね・・・」

 やはり何だか引っかかる言い方をしてくるRamにイラっとしてしまった。
「・・・いい人だよ。犬に怯えてる俺を知らん顔で置いてった誰かと違って助けてくれたし、話も上手で面白いし」
 言ってからしまった、とKingは思った。つい言わなくてもいい嫌味を言ってしまった。
 ごめん、と言おうとして顔を向けると、Ramがじりじりと近寄ってくるのが見えた。異様な雰囲気を感じ取ってKingはつい一歩下がってしまった。
「・・・その人と付き合っているのですか?」
 一瞬何を言われたのか分からなくて、返事をするまでに間が空く。Ramは後ろに引かれたことも返事に間が空いたのも気に入らない。
「何言ってるの?そんなことあるわけないじゃん!」
「噂を・・・聞きました」
「噂って何・・・・・・」
 あれか!うわ、Ramにまで伝わってるのかよ!
「あ、あれは犬に飛び掛かられて、怖くてついしがみ付いちゃっただけで!」
「しがみついた相手とキスまでしたんですか?」
「はあ?何それ。そんな噂になってるの?ばかばかしい」
 そう言えばMekが噂を否定しとけって言ってたっけ・・・。あ~もう・・・何でそんなことになってるんだよ。
 頭を抱えているとふいに目の前に影が落ちた。視線を上げるとRamが目の前に立っていてKingの心臓が跳ねた。彼を怖いと感じたのは初めてだった。

「じゃあ、その人はあなたに気があるんじゃないですか?」

 さすがにその発言にはカチンときた。冗談じゃない!親切な先輩にあまりに失礼だ!
「何?そんなくだらない事を言うためにうちに来たの?だったら話すことなんて無いから!そもそも何で俺の友人関係まで君にとやかく言われなきゃいけないのさ!さっさと荷物を持って帰れよ!」

 言い方がきついと思ったが、ありもしない事を勘ぐられて腹が立った。
 Ramを押し退けてキッチンから出ようとすると腕を掴まれた。コーヒーの袋が手から落ちる。

「P'King!!」
 離せ!と言おうとしたがRamに唇を塞がれて声にはならなかった。いきなりの強引な激しいキスに息が出来ない。
「ん、んっ!はっ!やめっ・・・!?」 
 Tシャツの裾からRamの大きな手が入り込んで来てKingは震えた。
 嫌だ!!
 身体を這い回る手の嫌悪感からRamの身体を渾身の力を込めて突き飛ばした。その拍子にRamは壁に背中を打ち付け、Kingは床に倒れ込んだ。
「っ!・・・・P'King!?大丈夫・・・・」
「・・・ふっ・・・っ・・・あっ・・・うっ・・・」
 床にうずくまっていたKingから嗚咽が漏れ始めて、Ramはようやく自分のしたことの愚かさを知る。
「あっ・・・俺・・・・」
「な、何でこんなことっ、するんだよ・・・!俺の言葉っ・・・より・・・あ、あんな噂を、信じるのかよ!」
「・・・・・っ、俺は」
「君が出て行って・・・寂しくって、家に一人じゃ居たくなくって・・・友達と食事に行ったら・・・いけないの?君は俺の何・・・?こんなことするんなら、何で出て行ったんだよ・・・!何で一人にしたんだよ・・・・!出てけよ!出てけ!」
「P'King・・・、すみません、俺・・・」
 Kingはよろよろと立ち上がって、Ramを押し退けてふらふらと玄関に向かった。
「P'King!どこへ行くんですか!」
「・・・君が出て行かないなら俺が出てく。・・・君といたくない・・・」
 玄関を開けて出て走り出したKingをRamは必死で追いかける。
「ま、待ってください!」
 エントランスを抜けたところで肘を掴まれて思わず振り払おうとした。
「っ!!離せ!」
「King?」
 Ramのものではない聞き覚えのある声。背の高いシルエットがKingを心配そうに覗き込んだ。
「P’Chi・・・・・・?」
「車に鞄忘れてたから届けに・・・・どうかしたのか?」
「あ・・・・な、何でも・・・・無い、です・・・」 
 泣き顔を見られないように顔を伏せて視線を外そうとしたがChiの両手がそれを阻止した。
「何でもない事ないだろう!泣いてるじゃないか!」
 それだけじゃない、服だって・・・。
「P'King!!」
 追いかけて来たRamの声にKingはびくっと反応する。そんなKingの様子を見てこちらを睨みつけている男こそが、この状況を作った犯人なのだとChiは一瞬で確信する。
「君、Kingに何をした?」
「あなたこそ誰ですか?」

 こいつが噂の相手か・・・・。

「これは二人の問題で、あなたには関係の無い事です」
「関係あるね。俺はKingの友人だ。どう見たって見過ごせる案件じゃない」

 Kingを後ろ手に庇って立つ背の高い男に黒い感情があふれ出てRamは苛立った。
「P'King、こちらに来てください」
 Ramが手を差し伸べる。
 この手を取って元に戻りたい気持ちと、さっき自分の身体に強引に触れて来た手に感じる嫌悪感とがごちゃ混ぜになってKingはどうしていいのか分からない。動く事が出来ない。
「P'King、お願いです・・・・」

 懇願するRamにChiはピシャリと言った。
「King、今日は俺の所へおいで。少し彼と距離を置いた方がいい」
 そっと髪を撫でたChiの手は優しくて暖かかった。Kingはきゅっと親切な先輩の袖を掴んでいた。
「・・・・ごめん、Ai’Ning・・・・。今は・・・・君の所へ行けない・・・・」
「P’っ・・・!」
 知らない男に肩を抱かれて車に乗り込むKingをRamは黙って見送るしかなかった。
「くそっ!!」
 取られなかった差し出した右手を、Ramは血がにじむほど壁に打ち付けた。



「引っ越したばっかりで片付いてないんだ。適当に座ってて」
 Chiの言う通り部屋の隅には開封されていない段ボールがいくつかあった。モノトーンでまとめられたインテリアは大人の雰囲気で彼らしいとKingは思った。
 キョロキョロとあたりを不安気に見回しているKingにChiは笑って言った。
「犬はいないから安心して。あの子は近所に住む親せきの家の子なんだ」
 ほっとすると同時にのこのこと付いて来てしまったことを今更ながら後悔した。知り合ったばかりの人に醜態をさらした挙句、自宅まで押し掛けるなんて普段の自分だったら絶対やらないだろう。
「あの、P’Chi・・・・。ごめんなさい・・・迷惑を掛けてしまって・・・・やっぱり俺、帰ります・・・」
「遠慮しないで。俺はKingが悲しそうな顔をしてるのを見る方が辛いから。落ち着くまでいたらいいよ」

 ぽんぽんと頭を撫でるChiは優しくてつい甘えてしまう・・・。
 Ramは帰っただろうけど、誰もいないあの部屋に帰るのも何だか憚られた。
「彼はKingの彼氏?」
「・・・・彼氏、と言う訳では・・・・」
「いいよ、無理に話さなくて。もう遅いし寝ようか」
 詮索してこないChiの気遣いはありがたかった。
「俺ソファで寝るからKingはベッドで寝て」
「えっ、いやいや俺がソファで寝ます!あなたじゃソファは小さすぎます!」
「客にソファを使わせるのは俺のポリシーに反するなぁ。・・・・・一緒に寝る?狭いよ?」

 にっこり笑うChiにKingは即答した。
「あなたがソファに寝なくていいなら、その方がいいです!」
「・・・・・・・・じゃ、そうしよう、か」
 はい、とKingはほっとして微笑んだ。



 
 眠れなくてChiを起こさないように静かに寝返りを打った。時計は深夜二時を指している。
「眠れないの?」
 突然問いかけられて寝返りを打つとChiと目が合った。彼が起きていたことにKingは少し驚いた。
「ごめんなさい!起こしましたか?」



「はいどうぞ、落ち着くよ」
 Chiが入れてくれたシナモン入りのホットミルクを受け取ってKingは申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません・・・・。迷惑ばかり掛けて・・・」
「俺も喉が渇いてたからちょうどよかったよ。だから謝るの無しね」
 ミネラルウォーターのふたを開けながらKingの隣にChiは腰を下ろした。

 一口飲んだミルクはほんのり甘くて喉に染みた。こんな優しい先輩に気を使わせている自分が情けなくてKingは唇を噛んだ。
「気になるの?」
「え?」
「彼がまだあの場所にいるんじゃないかって思ってるんじゃない?」
「・・・・・!」

 虚を突かれて思わずChiの顔を見上げた。

 指の震えが伝わってカップのミルクがゆらゆらと揺れた。
 何でこの人には分かってしまうのだろう・・・・。もう帰ったとは思うのだが、もしも万が一まだあそこにいるとしたら・・・・。そう思うと眠れなかったのだ・・・。
「・・・・それ飲んだら送ってくよ」
「そんなこと!そこまで迷惑掛けられないです!それに俺帰りませんから!絶対待ってないし!」
 頬にChiの手が触れて、思いのほかの冷たさにKingは首をすくめた。
「King、そんな鳴きそうな顔で言っても説得力ないよ・・・」
 言われた途端涙がにじんで思わず顔を伏せた。
「大丈夫、彼待ってるよ」
「・・・・・っ」
 Kingの頭を抱き寄せて背中をさすりながらChiは思い出していた。

 大学の噂の秀才を見に行ったことがあった。Kingはまだ少し幼さが残って可愛らしくて、これが学年一の秀才なのかと驚いたものだった。偶然出会った時、一目で彼だと分かった。Kingは想像していたお堅い秀才のイメージとはかなり違っていて、人懐っこくて面白い男だった。犬に怯える顔も、怖いのに我慢する顔も、嬉しそうにパフェを楽しむ顔も、申し訳なさそうに笑う顔も、ころころ変わる表情がどれもお気に入りだった。きっと最初に見た時から彼が好きだったのだ。
 ここに連れて来たのも彼氏と喧嘩中ならチャンスあり、と下心があったのだが、Kingときたら疑うどころか完全に信頼しきっていて手なんて出せやしない。
「・・・P’Chi・・・あなたが優しいから・・・甘えてしまって・・・・」
 ごめんなさい、と謝るKingの頭を抱いて密かに長い息を吐いた。まったく損な役回りだ。でもKingの泣き顔を見るのは何より切ない。
「・・・ほら、笑って、君は笑った顔が似合うよ」



 俺の言葉よりあんな噂を信じるのかよ!

 君の所へ行けない・・・

 そう言って泣いていたKingの顔が頭から離れない。最初から隠すことなく正直に話をしてくれていたのに・・・。あんな噂を真に受けるなんてどうかしていた・・・・。もう戻って来てはくれないかも知れない。Kingの家の前に座り込んでどれだけ経っただろう。
「何でこんなとこに座ってるの」
 聞き慣れた声が上から聞こえてRamははっと顔を上げた。
「不審者だって通報されたらどうするのさ」
 玄関のドアを背に座り込んでいるRamの前にKingはしゃがんだ。 
「手、どうしたの?血が出てる。手当しないと。風邪を引くから中に入ろ・・・・うわっ!!」
 Ramの腕が伸びて来たと思ったら、身体ごと引き寄せられてぎゅうぎゅうと抱き締められた。
「ちょ、ちょっと!Ai’Ning!?」
 Ramの足の間に膝をつく形で力いっぱい抱き寄せられて苦しい。
「もう帰って来ないのかと思いました・・・・っ!」
 Kingの胸に顔を埋めているRamの少し乱れた髪が頬に触れる。
「ごめん・・・・悪かったよ。俺も嫌な言い方しちゃって・・・・でも・・・・・・」
「俺が悪いです・・・・。あんなことして・・・・ごめんなさい・・・・。あなたを壊してしまいそうだったから・・・家を、出たのに・・・・結局あなたを傷付けてしまった・・・」

 Ramの見た目より柔らかな髪を指で梳いて頭をそっと引き寄せた。
「・・・・・ねえ、もしかして家を出た理由って・・・・その・・・・」
 聞きにくくて言葉を探していると、RamのKingを抱きしめる腕に力が入った。
「・・・・・あなたを無理やり抱いてしまいそうだったから・・・・」

「そ、そうなんだ・・・・・」

 大胆な告白に頭に血が上ってしまった。

 全然気が付かなかった・・・・・。バカだ俺・・・・。自分のことばっかりで、Ramの気持ち全然考えてなかった・・・。

「俺の事・・・・好き?」

「・・・・・・はい」

 Kingはふうっと一つ息を吐いた。それからRamの頭を強く抱き締めた。

「じゃあさ、俺の事一人にするなよ・・・・。君が手放さない限り俺はずっとそばにいるよ・・・?いらないって言われるまでずっと・・・君のそばにいるから・・・・・」
 もっと早く言葉にして伝えれば良かった。いつもRamの前では臆病で勇気が無かった。

「俺も君が好きだよ・・・・」

 Ramは顔を上げてKingを見つめて言った。
「そんなこと言って後悔しませんか?あなたは俺と一生離れられなくなりますよ」
 Kingは一瞬ポカンとして、すぐに泣きそうな顔で微笑んだ。

 後悔なんてするわけない。
「P'King・・・・キスしていいですか?」
「・・・・う、うん・・・・・ん?いや!ダメでしょ!!」
 近づけた顔を押しやられてRamは不服そうだ。

「こんな夜中に誰も通りません」

 開き直ったな!いやここは一応外だから!
「な、中に入ろう!・・・・・・・・・・そしたら・・・・キスして・・・いいから・・・・・わあっ!?」
 RamがKingを抱き上げて部屋に入るまで二秒と掛からなかった。



「飲み物を買ってきますが何がいいですか?」
「えっと、じゃあコーヒーを頼んでいい?」
 席を離れたRamを見送りながらKingはテーブルに肘をついて小さく溜息をついた。
「どした?最近随分べったりだな、お前の忠犬。ちょっと前までよそよそしかったのに」
「Mek・・・・忠犬はやめて」
 Kingの肩に腕を回して、何かいい事あった?とからかい半分聞いて来た。
 一人にするな、とは言ったけどまさかこんなに四六時中そばにいるとは思わなかった。怪我をした時もそうだったけどRamは案外世話好きなのだ。
「まあ・・・・色々あって・・・何だかあんなふうに・・・」
 あのすったもんだをどう説明していいか分からず言葉を濁す。
「例の噂に絡むこと?何があったか知らないけど、お前が嬉しそうにしてるんだから結果オーライなんじゃない?」
 俺嬉しそうなのか・・・。束縛が嬉しいなんて・・・ちょっとどうなんだろう・・・。
 赤くなって渋い顔をしているKingの肩をぽんぽんと叩いてMekが笑う。
「彼氏が帰って来たからお邪魔虫は退散するよ。何だか睨まれてるし。じゃあな」
 ん?睨まれてる?
「P’Mekと何を話していたのですか?」
 コーヒーをKingに手渡しながらRamが言った。
「え?別に、世間話だけど・・・・・・・何か怒ってる?」
「恋人がいるくせにあなたに気安く触ってました」
 ええぇぇ~~~?それって・・・・・・。
「あのさ、いくら何でもMekとなんて、絶対無いから・・・さ・・・。もうちょっと信頼してくれても良いと思うん・・・・だけど・・・」
「あなたの事は信頼していますが、周りの人間は信用できません」
 う~~ん、これは喜んでいいのかな?いやいや、待て待て・・・、確かにお互い言いたいことは我慢しないで言い合おうって、この間約束はしたけど・・・・。

「Ai’Ning、君って意外と焼きもち焼き・・・・?」

「今更ですか?」
 Ramはコーヒーを持つ反対のKingの手を取って、細くて長い指にそっと口付ける。
「あなたに触れていいのは俺だけにしてください」

 あれ以来何も隠さなくなったRamが情熱的でロマンチストなのだと分かってKingは慣れずに戸惑い気味だ。
 綺麗なヘーゼルアイに見つめられたら頷く以外できなくなってしまう・・・・。
「キャンパスで公開プロポーズか?なかなか大胆だな」
 ひゃあ!ここは学校だった!!
 慌ててRamの手を振りほどいて、振り向いたそこには長身のスーツ姿の男性、Chigが立っていた。
「P’Chi!?どうしてここに?」
「仕事だよ。システムのメンテナンス。大学はお得意様」
 大きめのアタッシュケースを掲げて笑うChiの白い歯が眩しい。対照的にRamの顔が段々と険しくなってきてKingは肝が冷えた。そんなKingをよそにChiがさらに満面の笑みでこう言った。
「今度の日曜に新作のパフェが出るんだよ。また付き合ってくれない?誰も行ってくれないんだよね」
「えっと、行きたいのはやまやまなんですけど・・・・・」
 ちらと見たRamの顔が怖い・・・・。

 Chiが満面の笑みを崩さぬまま、横目でRamを見て恐ろしいセリフを続けた。
「え~、まさか君の彼氏って、友達と遊びに行くのも禁止するほど心根が狭いのかなぁ?」
 わぁ、P’Chi!煽らないでください!絶対面白がってるでしょ!
「日本のイチゴを使ったスペシャルパフェだよ、King」
 ・・・・・イチゴ・・・・・・・・・。
「・・・ねえ、Ai’Ning・・・・。行ったらダメかな・・・・」
 振り向いて上目遣いでお願いして来るKingに、Ramは深々と溜息を付いた。
 ほんとにこの人ときたら危機感が無さすぎる。自分に向けられる好意にあまりに鈍いし無防備だ。
 ニヤニヤとこちらを見ている背の高い男を睨みつけて、この疑う事を知らない厄介な恋人をどうやって守ろうかと頭を抱えた。
「俺も行きます」
「えっ!?君甘い物得意じゃないだろ?」
「はっ!?君みたいないかつい男が来たら他のお客さんが怖がるだろうが!」

 同時に言われてRamは益々頭が痛い。

「Kingみたいに可愛い子だからファンシーな店にも馴染めるのに!」

 その発言はいただけない!
「人の恋人を可愛いとかあなたが言わないでください!」
「King!こんな俺様な恋人なんかとさっさと別れたら?そしたらいつでも美味しいパフェ食べに行けるのに」
 不敵な笑みを浮かべると渋面のRam。
「分かったよ・・・。君が嫌なら行かないよ・・・。ごめんなさい、P’Chi・・・・せっかく誘っていただいたのに・・・・。とっても行きたいけど・・・・」
 心から申し訳なさそうなKingに良心がズキズキ痛む男二人。
「なあ、Kingにあんな顔させていいのか?仲がいいお前らをちょっとからかっただけだし、下心なんてもう無いからさ。そんなに束縛がきついと将来離婚だぞ?」
「・・・・・分かりました」
 さすがにあんな顔をされては・・・・。ん?ちょっと待て・・・・。
「King!旦那が行っていいって!」
「ほんと!?Ai’Ning!!」

 嬉しそうに喜ぶKingの顔を見て今更却下は不可能だと悟る。
「今下心なんてもう無い、って言いましたか?もうって!という事はやはり下心があったと!?」

 Kingに聞こえないようにこそこそ話しかけるRamにChiはしれっとしらを切る。
「え~~、俺そんなこと言ったっけ?」
 この野郎~~!!

 今にも爆発しそうなRamを制してChiは少し寂しそうに笑った。
「・・・・嘘だよ、そんなに怒るなって。Kingの悲しむ顔は見たくないから裏切るようなことはしないよ。俺はKingにとってただの良い先輩。それだけ」
「・・・・・・・・・」
 いい人だとKingは言っていた。相手を思って自分の気持ちを抑えることが出来るこの人は、自分よりはるかに大人だ。自分はただ先にKingと出会っていた、というだけなのかもしれない。



「どうかした?」
 Chiを見送って振り返るとRamがこちらをじっと見つめているのに気が付いた。
「・・・・いえ・・・・・・もし・・・あなたがP’Chiと先に出会っていたら・・・あなたは彼を好きになっていたのだろうか・・・と思って・・・」
 Kingは少し驚いたような顔をして、それからのRamの目を見てふっと笑った。
「そうかもしれないけど、先に出会ったのは君で、好きになったのは君で、ずっと一緒にいたいと思うのは君で・・・・・それで良くない?」
「・・・・・・・・・」
「君と出会えたことって俺にとって奇跡みたいなことなのかもね」
 何でもない事のようにさらっと言ってのけるKingに、どうしてこの人は一番欲しい言葉をくれるのだろうとRamは思う。

 同じ言葉をKingに返したい。
「ん~、お腹空いた~。ねえ、Ai’Ning、何か食べて帰ろう」
 何か言いたそうにこちらを見ているRamにKingは首を傾げた。
「何?外で食べるの嫌?」
「・・・・すぐに家に帰りたいなと・・・・」
「じゃあ買って帰ろうか。何か食べたい物ある?」
「俺が食べたいのは・・・・」
 RamはひそひそとKingに耳打ちした。それを聞いたKingは見る見るうちに真っ赤になった。
「バ、バカじゃないの!何でも言いたいことは言おうとは確かに言ったけどさ!」
「駄目ですか?」
 しばしの沈黙の後、手をRamの方に差し出して、帰ろう、と小さな声で呟いた。
「・・・・・・・・何そのにやけた顔は・・・・・・・」
 赤い顔で睨まれても可愛いだけなのでRamはさらににやけてしまう。
「いえ・・・・・ありがとうございます」
「ふっ、ありがとうって」
 変なの、と笑うKingの手を取ってRamも笑った。

 

 

 

 King、こっちにしとけば何の不安も無く愛してくれるぞ~、っていう人の良い先輩をまたしても書いてしまいました。速水真澄より桜小路君にしとけよマヤ、ってとこかしらん(笑)犯罪級に鈍いKingも個人的に大好きです。