こちらもpixivからお引越ししました。一回も文章なんて書いたこと無いのに頑張った作品。今読み返すと拙くて恥ずかしい・・・。いまでもだけどさ。RamファンにはこんなのRamじゃない!って怒られそうだ・・・。ごめんなさいね・・・。おしゃべりなKingに、ほとんどしゃべらせてあげなかったしwww。しかし最近書いたものに比べて一番スケベな感じがするなぁ・・・。「tenptation」は「誘惑」という意味です。

 

 

 

「Ram、何か嬉しそうだね。良い事でもあった?」
 大学へ着くなりそうDuenに聞かれて、うっかり顔に出ていたことに気付く。ただ自分の微妙な表情の変化に気が付くのは、親友のDuenとP’Kingくらいだが。そのKingと交際を始めて2か月。父親の不倫事件以降、転がり込んだKingのコンドに今も居候している。いや、同棲と言うべきか。今朝の出来事を思い出して、俺はにやけてしまっていたのだ。
 

「今日は講義が午後からでしたよね。俺は午前からなのでランニングしてそのまま大学に行きます」
 夜遅くまで課題のレポートをこなしていたらしい愛しい恋人は、起きたばかりでまだ眠そうだ。目を擦りながらこくこくと頷くKingに、冷えたミネラルウォーターを渡す。寝ぼけていてペットボトルのキャップがなかなか開けられない様子が何とも可愛らしい。
「大丈夫ですか?まだ 寝ていてください」
 朝食はちゃんと食べてください、そう言いながらそっと頬に触れてみる。思った通りKingはさっと頬をピンク色に染めて俯いてしまう。大学での飄々として明るい彼からは想像もつかない、この初々しさと言ったら。

 友人達には俺が嫉妬してしまうほどスキンシップが過剰なくせに、俺からのそれは初心でシャイな反応をする。自分だけに見せる顔が可愛くて仕方ない俺は、思わずぎゅっとハグしたくなるのを我慢する。奥手の恋人に朝っぱらからそんなことをしたら、このセクハラ野郎!と罵られること必至である。未練を強引にひっぺがして大学に向かおうとした俺は、ふいにいたずら心がむくむくと顔を覗かせた。普段は絶対にやらないことをやってみたくなってくるりと踵を返した。
「P’King」
 名前を呼んで俺は自分の頬をポンポンと指で叩く。
「?」
 初心な恋人は首を傾げて眉根を寄せる。俺の仕草の意味に気付いてくれない。もう一度ポンポンと頬を指差して催促する。唇を突き出して見せれば完璧だろう。
「!!!」
 俺の意図にようやく気が付いたKingは、目を大きく見開いて一瞬固まった。きゅっと真一文字に結ばれていく唇と、みるみる上がっていく眉。真っ赤になってきっ、と上目遣いで睨みつけられる。
 ありゃりゃ、失敗だった。怒らせたかな、と思ったその時、いきなり胸ぐらを掴まれて引き寄せられた。ダメもとでねだった行ってらっしゃいのキスは、気を抜いていた俺と、加減の分からないKingの力が見事に融合して、お互いの歯と歯ががぶつかる大事故となった。
「~~~~!」
 痛みで顔をしかめた瞬間、胸をどんと思いっきり押されて、バタン!と勢いよく目の前で扉を閉められた。一瞬何が起こったか分からず呆然としたが、次第に俺はにやにや顔を止められなくなっていた。痛みと羞恥で真っ赤になってうずくまるKingの姿が想像出来て、痛みも忘れて一人やに下がるのだった。


「P‘Kingは今日は一緒じゃないの?」
 頬ではなく唇に落とされたキスを思い出して、幸せを噛みしめていた俺は、我に返って首を振って答える。
「ああ、今日はP’Kingは午後からなんだね。ちょっと寂しいね。ふふっ」
 Duenは俺がP’Kingと同居していること、俺が彼に好意を抱いている事は知っているが、恋人に昇格しことまでは知らない。と言うか知らせていない。恋人になったなんてことを他人に知られようものなら、あの恥ずかしがり屋さんは憤死しかねないからだ。
「でもほんとに嬉しそうだねぇ。P’Kingと何か良い事あったんでしょう」
 そんなに顔に出ていたか。いかん、いかん。Duenはおっとりしているがなかなかに感が良い。俺としては全て口外して恋人を自慢したいところではあるが、ここは我慢である。
「別に何も」
「えーっ、ほんと?絶対嘘。何があったか教えてよー」
 ちょっと拗ねてみせて腕に絡みついてくるDuenを引きはがして、さっさと自分の学部へ退散することにする。こんなところをあの嫉妬深いDuenの恋人に見られでもしたら厄介だ。あのmoon様はKingにも気安く触るし、いけ好かない奴なのだ。


 しかし浮かれてばかりはいられないのも事実である。Kingと恋人になったのはいいが、恋人なら自然といたすであろう行為に、未だに及ぶことが出来ずにいるからだ。キスまではする。だがその先に行こうとすると、恋人は急に消極的になってしまうのだ。男に抱かれるなんて、未経験なら恐怖を抱いてもしょうがないことだと思う。だから俺はあなたがその気になるまで待ちます、と言った。

 だが彼は怖いのは違わないけど、そういう怖さとは少し違う、と言う。一線を越えてしまった後の自分がどうなってしまうのか分からなくて怖い、と。それ以上は語ってはくれなかったが、自分の気持ちより他人の気持ちを優先させてしまう彼は、一線を越えることで俺を束縛し、いくつかある将来の道を潰してしまうのではないかと考えているようだ。
 あなたに束縛されるなら望むところだし、俺があなたを手放すことなどありえない。こんなにも欲しいと思ったのはあなただけなのだ、と何度言っても恋人はどこか信じきれないところがあるのか、それ以上は踏み込むことを許してはくれないのだった。
 講義の間ノートも取らず考え込む。どうしたら信じてくれるのだろう。俺にはあなたしかいないのに。あなたでなければ駄目なのに。あなたしか見えないのに。

 むしろ束縛してがんじがらめにしてしまうのは俺の方だと思う。いっその事プロポーズして結婚をするか。ダメだ、まだ学生同士だし、意外と保守的なKingはそれを良しとしないだろう。

 
 昼食を取りに食堂へ行くと、Kingとその友人達が先に来ていた。Duen達を待つ間、そっとそちらの方を見やる。他の女子学生達もきゃあきゃあ言いながらイケメン揃いの一団に熱視線を送っている。
 恋人の連れ達はDuenの恋人のBohnをはじめ、Mek、Boss、Teeと5人一緒にいると目立つこと極まりない。

 KingはMekの肩に腕を回して何か話しかけている。・・・顔が近い。イライラしながらBossを見るが、彼は食事とTeeとのおしゃべりに夢中だ。彼氏が他の男に触られていても気にならないのか。・・・注意してくれ。Bohnもスマホから顔を上げて、King達の会話に加わって来た。・・・またしても顔が近い。

 まったく、仲の良い友人達に嫉妬しても虚しいだけなのは分かってはいる。Kingのパーソナルスペースが狭いのは今に始まったことではない。照れて俺には触らせてくれないのは、自分が彼にとって特別なのだ、と分かってはいるのだが・・・。
 ふいにKingがこちらを振り返った。視線が合うと彼はぎゅっと眉間にしわを寄せて、そっぽを向いてしまったた。今朝の事をまだ怒っているようだ。心の中で盛大にため息をついて、帰ったらどうやって謝ろうかと思案していると、Kingはまたゆっくり振り返った。
 そして今度はにこりと微笑んで見せたのだ。もういいよ、と言うように。ふわりと。風に舞う花びらのように。
 そしてさり気無くMekとの会話へと戻っていく。俺はもう彼から視線を外せなくなっていた。


「ごめん、お待たせ」
 Duenに声を掛けられるまで俺はぼうっとしていたらしい。TingTingが何か話しかけて来たが、全く耳に入って来なかった。
 朝からの出来事を反芻する。あんな人他に知らない。俺の心を揺さぶって、俺の全てをかっさらって行く人。あの人でなければ俺の全てが満たされない。欲しい。彼が、どうしても。でもその術が俺には分からない。
 色々考えすぎて頭が沸点に達した俺は、考えることを放棄した。そうしてゆっくりと冷めていく頭で再び考える。そして閃いた。そうだ、自分は口下手で単純な男なのだ。
 だったら原点に戻ろうではないか。


「あなたに100万回、愛しています、と言ったら未来永劫一緒にいてくれると約束してくれますか?」
 ソファーに座って図書館で借りて来た本に目を落としていたKingは顔を上げる。隣に腰を下ろした俺を、少し驚いた顔をしてじっと見つめてくる。それから眉を八の字にして、はあっ?と言う顔をした。そして本に視線を戻しながら、ふふんと言う顔をした。その後何事もなかったかのように本に集中し始めた。
 むう、全く信じていないな。そりゃあそうだろう、普段から寡黙な男が甘い愛の言葉なんて毎日、しかも100万回だなんて言えるわけがない、と思っているのだろう。Kingに告白したときだって「俺と付き合ってください」と言っただけだ。それもかなりの勇気を必要とした。だが今はそんなプライドなんかかなぐり捨ててあなたを取りに行く。
 しかしよく考えたら1日100回言ったとして何日かかるんだ?1万日?…まあいい、深く考えるのは止めにして、夕食の準備に取り掛かかろうとキッチンに向かった。


 その日から俺はKingと顔を合わせるたびに「愛しています」と言うようになった。食事の時も、TVを観る時も、散歩へ行く時も、寝る時も、朝も、昼も、夜も。恋人は最初は困ったような顔をしてハイハイ、と笑って聞いていた。さすがにキャンパス内で言おうとした時は思い切り足を踏まれたが。学校で言えないと数を稼ぐのは難しいが、恋人の怒りを買っては何の意味も無いので、キャンパス内での告白は自主規制した。もちろん心を込めて言葉を捧げるのは言うまでもないが。
 それが1週間も続いた頃、少しKingの様子が変わってきた。「愛しています」と言うと、笑うことは無くなって、じっとこちらを見るようになった。そして目が合うとすぐに視線を逸らす。さらに1か月たつ頃には何も言っていないにも関わらず、じっと見つめて来るようになった。DVDを観ているとき、課題に四苦八苦しているとき、食事の支度をしているとき、ふと気づくとこちらを見ているのだ。ただそれ以外のKingは普段と変わらない陽気な可愛い恋人だった。


「おやすみなさい」
 俺は恋人を引き寄せて触れるだけのキスをする。疲れていたのかKingはすぐに眠りの淵に落ちていった。
 すやすやと寝息を立てて眠っている恋人を見つめながら、俺はため息をつく。

 ねえ、あなたは俺がおやすみのキスだけで終わらせるのに、どれだけの理性と忍耐を必要としているか知っていますか?あなたは違うのですか?あなたはその先を望まないのですか?

 陶器のような肌も、絹のような髪も、華奢な肩も、細い腰も、赤い艶やかな唇に深く口づけて全部自分のものにしたい。細くて綺麗な指で触れられたい。
 愛しています。心から。早く伝わればいい。この思いが全部あなたに。


 その夜は夢を見ていた。Kingが俺に触れて来る。髪に、頬に、タトゥーに、唇にその細くて美しい指でそっと。夢に描いた光景を夢で見ているなんて、そうとう俺も切羽詰まっているな、と苦笑する。
 ああ、でも夢なら何をしてもいいかな。引き寄せてキスをしてそれから・・・。俺に触れていた手を掴んで引き寄せようとした。ああっ、やっぱり長くて綺麗な指だ。細いな。細い…。あれ・・・?何だかリアルだな。温かい・・・。
 はっと、目を開ける。暗闇に慣れない目に、窓から漏れる月明かりに縁どられた華奢なシルエットがぼんやりと見える。夢じゃない?枕元に誰かが座って俺を見下ろしている。
「P’King?」
 影の主は何も答えない。そしてまた掴んだ反対の手でそっと触れて来る。髪を、頬を、タトゥーを、唇を。つうう、と細い指先で何度も。ああ、これは・・・もしかして・・・。誘っている?
「P‘King」
 少し期待を込めてもう一度呼んでみるが、なおも影は返事を返さない。暗闇に少し慣れた目に映るのは、長い前髪から僅かに覗く情欲に潤んだ瞳と濡れた赤い唇。その唇がそっと口づけを落として来た。
 これは。こんな誘い方はずるい。こんな誘惑誰も抗えない。神様だって無理だ。俺は彼の両の腕を掴んで強く引き寄せる。お互いの体温が重なり合う。
「俺、もう止まれませんよ」
 俺の言葉にKingはぴくりと一瞬体を固くしたが、逃げはしない。そしておずおずと背中に腕を回して遠慮がちに抱きついて来る。
 ああ、もう我慢しなくていいんですね。100万回愛してるって言っていないけれど。一生ずっと言い続けると誓うから。今は許して欲しい。
 俺は愛しい恋人をベッドにそっと押し倒して、薔薇のような赤い唇に深く口づけた。


 絹のような髪を指ですきながら俺は幸せに浸っていた。夢中になり過ぎて無理をさせてしまって、Kingもさすがに動くのもままならない様子だ。

 だって仕方ない。あんな誘われ方をされて必要以上に発情した上、我慢も限界だったのだ。こんな普段とのギャップが大きすぎる、危険でエロティックな生き物を恋人にした俺が、浮かれて羽目を外したってしょうがないじゃないか。俺の腕枕でうとうとしかかっていたKingに、調子に乗った俺はそっとお願いをしてみた。
「ねえ、P’King?」
 何?というように眠そうに顔を上げる。そんな顔も可愛い。
「夕べみたいな誘い方、またしてくれませんか?凄く興奮して・・・」
 言い終わる前に俺はベッドの下に思いっきり蹴り落されていた。顔面から床に落ちた俺は痛みに悶絶する。
「P‘King、何を・・・」
 ぐるんとそっぽを向いてしまった恋人は、耳まで真っ赤になっていた。ああ、そうか。何だ、喋らなかったのではなくて、喋れなかったのか。恥ずかしすぎて。彼らしくて合点がいくが、もうあんな妖艶な姿を見られないかと思うと、少し残念だ。
「ごめんなさい、もう言いませんからこちらを向いてください」
 頑なに振り向く気配を見せない背中をそっと抱きしめて耳元に囁く。祈りを言葉に乗せて。
「愛しています。あなただけを永遠に。だから…ずっとそばにいさせてください」
 肩を抱いていた俺の手をきゅうと握り返したと思ったら、Kingはおもむろに身体を反転させた。また蹴り出されるのかと思ったが、俺の胸に顔を埋めて何かぼそぼそと呟いた。
「え?」
 聞き返そうと顔を見ようとしたが、俺の背に手を回してぎゅうぎゅう抱きついて、Kingはもう顔を上げてはくれなかった。だが俺の耳には確かに聞こえた。

・・・うん。と。