これはRamとKingが付き合い始めたばかりの頃の一夜のお話・・・。
「どうした?眠れないの?」
課題を終えてベッドに入ったKingは、先に寝たはずのRamが未だ眠れていないのに気が付いた。背を向けているが何となく分かる。
「ああ・・・いえ、大丈夫です・・・」
やっぱりと思い、広い背中に手を添えて静かに問う。
「まだ、悩んでる?」
少し間をおいて、いいえ、と首を横に振る。Kingに心配を掛けまいとしているのだろう。父親の問題の解決にはまだ少し時間が掛かりそうだ。
「眠れないんなら、子守歌でも歌ってやろうか?」
Ramは体の向きを変えてKingと向き合った。背中に添えられていた手を取って、細い指を唇にあてる。
「ぜひお願いしたいです」
「え?」
子供じゃないんだから、と一蹴されるとばかり思っていたKingは慌てた。
「ごめん、まさかお願いされるとは思ってなくて・・・。子守歌なんて子供の頃に聞いたっきりで、よく覚えてないよ」
唇に当てられた指が熱い。離してくれない上に真正面から見つめられて鼓動が高鳴る。
「あなたの好きな曲でいいです」
どうやらお役御免にはならないようで、Kingは諦めのため息をついた。
「言っとくけど上手くないからね。笑うなよ」
そう言うとRamの頭をきゅっと胸元に抱え込んで静かに歌い出した。
「いい曲でしたね。何というタイトルですか?」
「え~と、何だっけ、古い映画の曲なんだけど・・・」
Kingは手をRamの頭から逞しい背中に回してゆっくりさすってやる。
「英語の曲で、歌詞の内容もうろ覚えなんだけど・・・優しくて、でも力強くて・・・とても好きだったんだ」
「はい」
美しい曲とKingの穏やかな歌声は、燻っていたRamの心を癒す。
この人と出会う前まで自分はどうやって生きてきたのだろう、とRamは思う。
Kingと出会ってから悪夢を見ることはほとんど無くなった。たまに見ることがあっても、この人は簡単にそれを掬い取ってくれる。
ずっと一緒にいたい。離れたくない。
あなたが花なら、俺はその種になっていつか同じ花を咲かせたい。そう願っていいですか?
「そうだ、思い出した。あの曲のタイトル・・・」
指を握っていたRamの手からわずかに力が抜けた。
「Ram?」
規則正しい寝息が聞こえる。
Kingは柔らかく微笑んでRamの頬を優しく撫でた。
「おやすみ、Ram。良い夢を」
しばらくRamの寝顔を見つめていたが、やがてKingも深い眠りに落ちて行った。
あとがき
曲のタイトルは「The Rose」。ベット・ミドラーさんが主演の映画のエンディングに流れる曲らしい。ストリートピアノで弾いてる方がいてたまたま見てたら、まあなんて素敵な曲!なおかつRamKingのためにあるような歌詞じゃん!著作権とやらが面倒くさそうだったので歌詞は載せませんが、ぜひ聞いて欲しいです。