梅雨はまだなのかな。夏のような強い日差しにも負けず、青々と煌めく木々を病室の窓から眺めながら、ふとそんな事を考えていた。
病院の調理室の音がガシャガシャと聞こえる度に、あの人はちゃんと元気に働いているのになぁと、不甲斐なさが悔やまれるのだ。子供達は元気にしているだろうか。また心配をかけてしまった。
いけないいけない。また自分を責めようとしている。
S子はそんなことをもうこの病院に来てからずっと繰り返して、ご老人ばかりの病院でこれからの自分はどうなっていくのだろう。そんなことばかり頭を過ぎっているのだった。
もういい加減、今までのあれこれと向き合っていかなければいかないなと思っていたのに、もう少しもう少しと無理をしてきた結果、遂には体も心も限界を迎えてしまったのである。
1週間前に急激な体調悪化により、救急搬送された。よくわからなかった。
手足が痺れ、意識混濁、ブラックアウト、胸痛、息が苦しい、頭が痛い、何これ。よくわかんない。
意識がはっきりと明瞭になる頃には、声が出なかった。右半身がまるでどこか別のところに行ってしまったかのように動かないのだ。救急のお医者さんが何度も確認する。
「触られてる感覚はある?痛いのはわかる?」
触られてるけど痛くはない。何これ。
検査しても何も見つからない。
「疲れてたかな?」
聞かれるけど、うまく伝えられない。声が出ない。
1年前にも同じようなことがあって救急搬送されたけど、その時より遥かに具合が悪い。
一体どうなってしまうんだろう。そればかり考えていた。わけもわからずにただただ涙が溢れ、付き添いで来てくれた上司が涙を拭ってくれる。
涙すら自分で拭けないんだとまた涙が溢れた。
原因のわからないまま、右半身が動かないのでそのまま入院になった。
一体どうなってしまったんだろう。
ピンクのカーテンしか見えないベッドで鉛のように重い体とどこかに行ってしまった右半身を探していた。
続く