『眠り』村上春樹・・・85点
<あらすじ>
歯科医の夫と平和に暮らしていた主婦がある晩奇妙な体験をした時から眠れなくなる。奇妙な体験とは、ベッドの足下に見たこともない黒装束を着た老人が立っており、その老人が手に持った水差しで主婦の足に水をかけてきたことである。主婦が声にならない叫び声を上げると老人は消えたが、その日から主婦はいっこうに眠れなくなる。
眠れないこと以外、表面上はそれまでの生活と変わらない生活を送っていたが、主婦の内面ではかなり変化が起きている。何日も眠れない日々が続くが、肉体は若返っていること。主婦は夫と息子の寝顔を眺めて苛立たしい気持ちになったりする。成長した息子が今の夫と同じように自分の気持ちを理解してくれはしないだろうと思ったりする。
真夜中に主婦は突然、横浜に車を走らせる。横浜のある場所で車を止めていると、そこで黒い影のような男二人に車を挟まれ、揺すぶられる。車のエンジンをかけようとするが、時々そうなるように車のエンジンはなかなかかからない。
*
物語の展開のさせ方がうまいと思いました。スリリングで意表をつく展開。
例えば、悪夢を見てから眠れなくなった、というのではなく、悪夢から覚めたら、見慣れない目の充血した老人が足下に立っている。その老人が持っている物は何かというと、危害を加えることのできる鎌とかではなくて、水差し。なんか、その水差しってのがすこしおかしいんだけど、主婦はその水差しで足に何時までも水をかけられる。助けを求めても声は出ない。主婦は叫び声をあげるんだけど、その声は自分の体の中にしか響かない。老人は消えるが、その叫び声で主婦の体は変化を起こし、それ以降何十日も眠れなくなる。しかも、眠れなくなることにより、体は若返っていくようである。
最近、広告で『眠り』を『ねむり』に改題して出版されていることを知りました。読んでみようと思ったけど、図書館ではすべて貸し出し中だったので、イラストとかないけど、全集の『眠り』を読んでみました。
村上春樹を読むと、文体が伝染っちゃうので、二年くらいは遠ざかっていました。
私の文章は、二年前には、村上春樹に似たものを書いていたと思います。
でも、何だか、久し振りに読みたいような気がしました。
村上春樹にはそうした覚醒剤のような中毒性があるのかもしれません。
(村上春樹全作品8短編集Ⅲ、講談社)