これは、98歳のじぃちゃんと4歳の男の子はやちゃんのお話




《じぃちゃんの強さ》
じぃちゃんは、85歳で病気で両足を切断して、10数年間『施設』で過ごした
大正初期に生まれ、20代の始めには遠く、見知らぬ外国の島に、戦争にいかなければならなかった
目の前で沢山の人が亡くなった
10代のまだ幼い隊員は『みそ汁が食べたい』と、若き日のじぃちゃんの腕の中で息絶えた
そんな中、じぃちゃんは食べ物が無くて、蛙やトカゲ、芋のつるを食べて生き延びた

だから、すごく強い人
このままでは命も危ないと、足を失う決断を迫られたときの“覚悟”
数年後、もう片方の足も失わなければならないと告げられたときの“潔さ”
家族の方が動揺した



《夢の中で》
施設にはいって10年近くなった頃、孫娘が会いに行くと『夕べは、畑を耕したわい』と、にこにこしながら言う
規律正しく、90歳を超えてもしっかりしていたじぃちゃん
『あら、ついに認知症?』と孫娘が思っていると
『足があれば、芋を植えたり、せにゃいかんことがあるっちゃけどない(しないといけないことがあるんだが)』と
現実では出来ないことを、夢の中で叶えてたんだね

《じぃちゃんとはやちゃん》
はやちゃんは、4歳の男の子で
じぃちゃんのひ孫
はやちゃんは、会うといつも名前を忘れてしまっているじぃちゃんに自己紹介を始める
でも、じぃちゃんの耳は
すごく遠い
とにかく遠い
はやちゃんは、大きな声で一生懸命伝えた
何度も何度もじぃちゃんの耳元で叫んだ
だけど、90歳以上年の離れた両者
返事は『え?(名前は)何か?』
なかなか伝わらない
お互い必死
だけど、終いには2人で首を傾げる始末 

そして、帰りに『またね』と、お決まりのハイタッチ
笑いが絶えなかった


《お別れの日に》
じぃちゃんは、夏の終わりに『この世』から、眠るようにもう一つの世界に旅立った
翌日、家族ははやちゃんを連れて、お別れの準備に出掛けた
するとはやちゃん、斎場で孫娘のおばちゃんのほうを見ながら『ねー。さっちゃんの後ろが光っちょるよ。』と言う
更に『じぃちゃん、お空にいったね。』と孫娘が言うと
はやちゃんは、『お空には行ってないよ。しんじょるもん』と自信満々に返事した
初めて体験する永遠の別れ
人っ気のない薄暗い場所、光なんてなかった・・・
じぃちゃん、家族がちゃんと送り出してくれるか、確認しに来たかな

じぃちゃんは、自分が建てた自宅で
揺すったら起きそうなほど、それはそれは穏やかな表情で眠っていた
残された家族は、夜な夜な『思い出ボード』を作り、お別れの準備をした

《かっこいい夢》
お別れから1ヶ月程過ぎたある朝のこと
はやちゃんは、寝ぼけまなこでママにお話を始めた
はやちゃん『あのね・・・ママ。
      かっこいい夢みたよ』
ママ   『何?』
はやちゃん『足の無いじぃちゃんね』
ママ   『うん』
はやちゃん『はやに「もう、足あ              るよ」って言ったよ。』
ママ   『・・・・うん。
      ・・・・うん?』
はやちゃん『ぼくね、「わぁすごいねっ」       て言ったと。じぃちゃん、            笑ってた』

2人が初めて会ったときには、じぃちゃんは両足の膝から下が無かった
ある日、はやちゃんをじぃちゃんのベッドに抱え上げたときのこと
はやちゃんは、その足元をみて『えっ!じぃちゃん足ないと??』と、目をまんまるにして飛び上がった
周りの家族は、微笑ましく笑った

じぃちゃん、ひ孫に自慢の足を見せにきたんだね
『みんなに報告してくれよ』って





《じぃちゃんの思い》
じぃちゃんは、元気な頃から、いつかくる最後にむけて準備をしていた
『じぃさんのしてきたことが、いつか分かるわい』
家族のために働いてきたじぃちゃんには、そんな口癖があった
じぃちゃんは、夏の始めに施設の人に連れられて、自宅に帰ってきたという
庭先から、我が家を・・・牛舎を・・・臨む山々を眺め、黙って頷き施設に戻ったそうだ
数十分間の外出
じぃちゃんが、施設の人に頼みこんだそうだ

遺品整理をしていると、じぃちゃんが肌身離さずもっていたバッグには、一枚の白黒写真と、一通の手紙があった
写真は、幼き日のじぃちゃんとその父

手紙は、じぃちゃんの子供達に宛てたものだった

『何もしてあげられなかった
すまない。許してくれ
姉弟、仲良く暮らせ
いつか花咲く春がくるよ
墓場の陰から祈っておるよ』

そう、手紙に記してあった

そのバックには、“じぃちゃんの生涯”が保管されていたのだ

98年の長い人生
私たちが知らない苦労が
どれだけあっただろうか
今となっては、計り知れない

生きていることは
それだけで素晴らしい
日々が穏やかであることは
決して当たり前ではない
どこかに行けるから、幸せだとは限らない
お金があるから、幸せだとも限らない

もっと身近に
もっとささやかな
幸せってある
大切な誰かがそばにいてくれる
見守ってくれている
そんな幸せに気づけたら
どんなに豊かな人生になるだろう

いつだって
愛に包まれていた
そして
これからも
きっと
ずっと
愛に包まれている