~本当に必要な一言~

あの時に、もし誰かがそう言ってくれたのなら…私たちはどれだけ楽になれたのだろう?
どれだけ、その後を安心して過ごせたのだろう?でも、自分が本当に求めている言葉なんて、自分しかわからなくて…誰もそんなこと分からないから、だからきっと人は疲れてしまうのだと私は思うのです。

「もうなんだろ、イラ壁…もう嫌だ、ひきこもる…駄目だ、そしたら二度と出てこない」

なんとなく、噛み合わない自分の思い描いていた未来と今の自分の間に潰されそうになることがある。
でも、大概誰かに話したところで「ななは、ドジだから○○には向かないよ」「頑張れ、負けるな!」そんな言葉ばかりで…私は頭を抱えてしまう。今、精一杯なのにってこれ以上、どうしたらいいのかが分からなくなってしまうから。

「一体…私はなにになりたいんだろう…?なにになれるんだろう?」

誰に問うわけでもなく、重たいリュックサックを背負ったまま今日も帰り道を下っていく。

「なににでも、なれるよ。」

「うわっ、軽っ!なに!?」

「こっちは、うわっ、相変わらず重っだ。」

暗闇の中から、聞き慣れたいたずらっ子のような笑い声が聞こえてくる。
それとともに、急に持ち上げられたリュックサックの重さを失った私はバタバタとバランスをとろうと必死になる。

「…お前の仕事ぶりを見てきたのは、親でも先生でもなく俺らだから、言えることがある。確かにお前はドジだし、新しいことになれるまで時間もかかる…でも、一生懸命やりとげようとする。だから大丈夫、アルバイトからでもなんでもいい、好きなことにチャレンジして…合わないと思ったら、遠慮せずお前から違う道を選らんじまえ!」

背中が軽くて、すごく歩きやすかった。
自分が見ることのできない背後を守られている気がして暗い道でもとても安心しているのが分かった。

「…食器を落としたとしても?」

「笑顔でカバーできんだろ?」

「…お釣りの計算遅くても?」

「慣れるまではそうでもちゃんと謝れるだろ?」

「パソコンフリーズさせても?」

「お前、他人のパソコンなおすじゃん。」

リュックサックを持たれていることに感謝していた。今、顔を見られたら…多分、私はひどい顔をしているから。

「前より、すこーしだけ軽くなったな。」

何人もに言われた。
「お前が本当に楽になれるのは、その重いリュックサックをおろせたときだ」
でも、本当は他人には分からないくらいだけど…少し、本当にすこーしだけ荷物は軽くなっていて…そんな小さな小さな成長にも気がついてくれるのはやはり…悔しいけれどこの人で。
悔しいけれど、それがすごく嬉しくて…。

「…ありがとう…見ていてくれて。」

「ん?それがお兄ちゃんだろ?」

なんてことなく、言い切ってくれるお兄ちゃんはやっぱりズルくて…。

「なぁ、夕飯なに?久しぶりになんか作ってほしい。」

「何が食べたいんですか…茄子のフルコース?」

「お前、よくもそのネタを…そうじゃなくて…」

「分かってますよ、ひき肉がないので買って帰りましょう。」

「ん、さっすがだな。」

少しだけ意地悪をして、私はお兄ちゃんの本当に必要な一言を口にはしなかったけど…これから文字通り口にできる形にするのだから良いだろう。

私の肩からリュックサックを自分の肩へと移し、楽しそうに横を歩くお兄ちゃんを見ながら…私は思ったのです。

本当に必要な一言をかけてくれる人が…きっといる。
頑張って、諦めないで不貞腐れないでいれば…私らしくいれば、そんな私を見ていてくれる人がいる。

ありがとう…それと同時にあなたにとっても私がその言葉をかけられたならいいなと心から思いながら、いつもと同じで、いつもと違う帰り道を私は帰っていくのです。