「あれ、腕時計電池切れてる…まいったな、時計屋行かないと」

久方ぶりに、涼風メンバーが団欒しているときに、ふと黒崎さんが呟いた。
弁護士らしく高級そうな、それでいてお洒落な腕時計を愛用している。

「そういえば、七海の腕時計可愛いよね」

「えっへん、頑張って図書室で働いて買ったのです」

今まであまり腕時計をつける習慣のなかった七海もいっちょまえに黄色の可愛らしい時計をつけている。自分の働いたお金で買っただけあって、お気に入りのようだ。

「そういえば、腕時計って恋人との関係を表すらしいですよ…あくまで、とある研究室で聞いた話なんですが、そこで結構あてはまっていてびっくりしたんです!」

こういう話になると相も変わらず、団員達の眼が輝くあたりは変わっていない。

「へーー、じゃ亜水弥さんは特に腕時計付けない派なんだけど、どうなるの?」

「えっと…特定の相手の方に縛られない、そして結婚してない可能性や恋人なしの可能性が高いですね」

やや答えにくそうに結論を話す七海ちゃん。でもビンゴだったりする。

「うぇ、じゃー黒崎さんみたいに電池切れになかなか気がつかないタイプは…恋人放置プレイ!?」

「ちょっと待て、亜水弥さんの俺への評価がひどい件について!!」

「…あながち、恋人さんが寂しがっていても鈍感すぎて気がつかないのが黒崎さんですよね…」

渚さんがトドメを刺した瞬間だった。満場一致で黒崎さんと時計の関係もあたりとなった。

「ちなみに、私は…お風呂とか寝るとき以外はほぼつけていて、色も黄色という珍しい色なので、恋人は変わり者かつ私の依存度が高いと言われました」

伏し目がちに語る七海ちゃん。
みんなの視線が咲也君と七海ちゃんの間を行き来して「なーるほどー」と声がそろう。
ちなみに最近は鞄にキュゥべえモデルの腕時計をつけていて、落ち着いた場では白だからそちらをつけると付け加えると今度は、黒崎さんと七海ちゃんの間を視線が行き来して再び「なーるほどー」となったのは言うまでもない。

「…私も普段は鞄につけていて、必要なときのみ身につけますね」

「そういう場合は、恋人さんも必要な時に頼る距離感らしいです」

寒さに弱いため、一時沖縄に帰っている春樹さんが何か渚さんが困った時にすぐに帰ってくるのを思うと納得する。

「なんかこれ、怖いくらい当たってないっすか?」

「そういう太陽はどうなんだよ?」

「お、俺のはスポーツモデルの防水タイプでタイムとか測れるやつっすね。外出する時はたいていいつも一緒っすよ」

「まめにデートしたり、一緒にトレーニングのコーチしてもらうお姉さん的な彼女いそうだよね」

そういえば、忘れられがちだが太陽君は涼風では珍しいシスコン(姉のほう)だった。

「あーうん、なんか太陽はそうやって犬も時計も可愛がってそうなイメージだった」

女の子組は、彼氏にしたい!と言いたそうな雰囲気だった。

「…踏み込みたくないけど…咲也のは…?」

なんとなく、この流れから行くと聞いてはいけないような気がしてならない。しかし、ここまできたのに聞かないわけにもいかない。

「なんでおそるおそるなんだよ!!俺のは自動巻機械式腕時計、腕につけてないと止まっちまうから風呂でも寝るときでも常につけてるな、手がかかる分だけ可愛い奴だぜ」

張り切って腕時計を見せつけてくる咲也君を見ながら…誰かが「四六時中離さないぜ?」「お風呂もお布団も一緒だぜ?」と呟いた。

「怖い!!腕時計と恋人感怖すぎる!!」
「七海、逃げて、全速力でその男から逃げて!!」
「ちょ、なに本気で笑顔のまま後ずさって行くんだよ、ななちゃんの方が時計より可愛いぞ!?」
「やっぱり逃げて!!そいつ危ない!!」
「ちゃんと風呂のときは磨いてやってるし…」
「七海、ここはいいから逃げるっす!!!」
「俺なしじゃ生きていけないってのがまたいいよな?」
「…情状酌量の余地なしですね…」

言葉を重ねれば、重ねるほどに深みにはまっていく咲也君と乾いた微笑みを浮かべながら逃げていく七海ちゃんを見ながら、黒崎さんは呟いたのでした。

「…よくよく見たらこの時計、一週間近くとまってたのか…日付1月だ」

そんな腕時計に現れるという恋人との関係感…あなたはいかがですか?
ちなみに統計的に有意差はだしてませんので、信じる信じないはお任せします。