~晴れ×晴れコンビ~

太陽がやけに眩しい、夏のある日のことだった。
うちのクラスはやけにざわついていた。みんな口々に噂を交わしている。

「可愛い女の子がいいよなぁ~、どうせなら!」

「ね、イケメンだったらどうする?」

「さっき、職員室の前でね!!」

もうすぐ夏休みが始まると言うこんな微妙な時期に、どうやら転校生がやって来ると言うのだ。様々な期待が渦巻き…異常な熱気と化している。

「…これは、転校生はいずれにしても大変だな。」

俺は小さく、お気の毒なことだとつぶやかずにはいられなかった。
しばらくすると始業を伝えるチャイムとともに、先生が入ってきた。
そしてお決まりのあの台詞。

「えー、今日は新しい友達がきてる。そこ、騒ぐな!ほら入ってきなさい。」

「はい!」

最初に聞いたその声は忘れられないくらいにスッキリと晴れ渡るような声だった。

「はじめまして、青木太一です。前の学校では太陽って呼ばれてたっすからそう呼んでもらえたら嬉しいっす!!」

明るいオレンジに近い色の髪の毛に日に焼けた健康的な小麦色の肌。一見するとギャル男に見える風貌だが、がっちりとした体格といい口調からいっても体育会系なのだろう。

「好きなスポーツはサッカーに水泳っす!!」

太陽。
そのあだ名がぴったりだと思った。明るく、ハキハキとしていてされでいてどこか抜けている転校生は、あっという間にクラスの一員となっていた。
俺は…と言えば彼が動ならば正反対の静のタイプなこともあり、積極的に関わることはなかった。

「課題のプリント…机に忘れるなんて…気がついてよかった。」

下校時刻を過ぎた校舎の廊下を俺はバスケ部の練習の帰りに焦って逆走していた。誰もいるはずのないくらい教室のドアを開けると、『太陽』が泣いていた。
まるで…真っ暗な外を反映しているみたいに、明るさを絶やさなかった青年が膝を抱えて、椅子に座っていた。

「…姉ちゃん…俺、姉ちゃんの高校にはいったっすよ…姉ちゃんもここに座っていたんすかね…」

小さな呟き。
俺の気配に気がつくと、太陽は慌てて椅子から転がり落ちた。
俺も慌てて、駆け寄って、助け起こそうと手を差し出した。

彼は、いつもの人なつこい彼らしくもなくその手を掴むことをためらっていた。
「今の…聞いていたっすか…?」

「あ、あぁ…ごめん。たまたま通りかかって…あ…」

ふと、視線の先に…太陽とはあまり似ていない女性の写真が落ちていた。急いで、拾い上げてほこりをはらって渡してやる。

「紅陽姉ちゃん!!…ありがとうっす…………なんにも聞かないんすか?」

くよう…
たいいち…
たいよう…
なんとなくだけど…彼がなにか重たいものを抱えていることだけは、わかった。

「ん?…聞かないよ。だって、聞かれたくないことなんてみんなあるもんだろ?俺だってたくさんあるし…。」

座ったままの太陽は、まるで捨てられた子犬みたいに不安げな顔をしながら俺を見上げていた。
俺は、あえて深く聞くことをせずに自分の課題のプリントを探しにすることにした。

「あ、あったあった。ほいっと~」

「わ、なんすか!?」

「俺の妹…に近い子が作った笑顔になれる薬。甘いの嫌いじゃなかったら。」

真っ暗な中を放物線を描きながら、俺が投げたクッキーが飛んでいった。
さすがは体育会系だけあってなんなくキャッチする。不思議そうに見つめているので、自分が先に口にしてみせる。

「うん、美味しい。」

「…本当っす…なんだか心が暖かくて…ほんわりするっす。」

静かに涙を流しながら、太陽が日溜まりみたいに微笑んで見せた。
その時、やっと…やっと気がつくことができたんだ。
「おまえ…さ、無理してたんじゃないのか?こんなの言うのなんだけど…今のおまえの笑顔、今までのなかで一番自然に見える。」

真実を見抜かれたことに動揺するように…いや、自分でも気がつかなかった真実に気がついたように…太陽はもう一度、優しい日溜まりの『太陽』のように微笑んでみせた。

「俺、青木太一…太陽って呼んでほしい。」

今度は、逆に俺へと手をさしだしてくる。

「知ってるよ。…俺は、瀬野晴一。晴一でいいよ。」
「俺も、知ってたっすよ。」

ガシッとその手をつかみかえすと、俺たちは大きな声を出して笑いあった。

「俺が太陽、晴一も晴れ…俺たち晴れ×晴れコンビになれるっすね!!」

「晴れ×晴れコンビ…いいなそれ!!」

あまりにもくだらない提案にさらに笑ってしまった。でも、そのコンビはすごく嬉しかった。

「うん、二人でいればずっと笑顔、雨だってぶっ飛ばす…正義の晴れ×晴れコンビっす!!」

知っていけばいいんだ…これからもずっと晴れ×晴れコンビなら。
俺たちはゆっくりとだけど、これから最高の友達になれそうな気がしていた。


「おぃ、なんだまだいたのか!!下校時間過ぎてるぞ!!早く帰れ!!」

いきなり、警備員のおじさんが入ってきて俺たちはそれぞれに鞄を持って

「「すいません!!今帰ります!」」

「晴一、コンビ結成記念になんか食って帰ろうっす!!」

「んー、たまにはいいな。部活やって腹減ってたんだ。」

「じゃ、ガッツリ食べれるとこに行こうっす!!」

「じゃ、歓迎会もかねて、おごってやるよ!」

「やりぃ晴一、太っ腹~っす!!」

怒られるのを気にもせず、廊下を走り抜ける。



これが…これから、俺に待ち受ける過酷な運命を…一緒に戦い抜けて、すぐそばで支えていてくれる太陽との出会いだった。

一生忘れることはない、大切な大切な夏のある日の出来事だった。