~まとめれば、いいと思うよ?~


「年末だなぁ~」
「年末だね~」
「年末かぁ…」


「そこの三つ子漫才~いい加減、こたつから出て作業するっす!!締め切り間近なんすよ!!」

こたつの魔力にとりつかれている黒崎、咲也、七海の三人に、ガムテープを握りしめた太陽君が悲鳴をあげて語りかける。

「太陽…涼風団長の歴代マニフェストとかけてこたつに寝ている七海を率先して起こしに来た俺と解く、その心は!?」

首から上だけ気合いを入れた様子で咲也君が目を見開く。目力に負けて、一瞬下がってしまう太陽君。

「は…え……もしかして言ってみただけっすか!?」
「正解。」
「おー、さすが咲也、漫才だけに…」
「いや、別にうまくないっすよね!!…と言うより珍しく自虐的っすね…じゃなくて、締め切りっす、締め切り!!」

どちらかというと、黒崎、咲也、太陽の三人の方が三つ子漫才になっている件についてはふれてはいけない。
ちなみに漫才から離脱した七海ちゃんはなぜか耳を塞いで震え出している。

「太陽…おまえ、この時期の大学院生にとって、締め切りって言葉がどんなにキツいのか忘れたのか!?」

「あぁ!!悪かったっす…配慮が…って咲也こそ論文締め切りいいんすか?」

サザエさん空間的な涼風ではあるが、妹が大学院生になったら二つ違いの兄はちゃんと大学院の博士課程に進んでいる。
どこも追い込みの時期だ。

「ふ、俺がここにいる意味がわかってないみたいだな…」
「そうっすよね…咲也には余計なお世話だ」
「…もう数字を見つめるだけの生活は嫌だ…見つめるなら七海がいい!!」
「逃げてきたんすか!?」

今日の太陽君の忙しさが尋常じゃないのもきっと年末だからだと思う…きっと、たぶん…おそらく。

「俺は、コンピューターに使われるために人間をしている訳じゃない!!」
「同じく~!!」
「同じく!!」

「名言ぽく、逃げてきた理由言うのやめるっす…と言うか後半の便乗した文系二人はWordしか使ってないっすよね!?」

忘れがちだが、太陽君は大学自体は咲也君の先輩である。
つまり、今の構成メンバーは工学部二名、法学部一名、心理学部?一名。
涼風が誇る…様々な分野の精鋭たち?のはず。

「失礼なー、Excel、えすぴーえすえす、ボーカロイド、ツクールとかとか…色々使ってるのにゃー」

「うん…論文にいらなソフトの使い方ばっかり詳しくなったっすよね…七海は…」

授業中に、学校の無線LANにのっかってまどマ○オンラインやらをここぞとばかりにやるような能力だけは教えなくても身に付くらしい。

「えっへん!!」
「だから、誉めてないっす…」
「なー、咲也…えすぴーえすえすってなんだ?」
「SPSS、統計処理ソフト。心理学部や社会調査やる人たちの頼もしいお友だち。」
「あー、夏休みの友的な?」
「や、統計は敵だよ…数字のマジック怖いのです…」「七海、お兄ちゃんが手取り足取り教えてやるから、統計さんとお友だちになろう、な?」
「…数字が嫌だと逃げてきた人間がなんか言ってるっす…」
「えっと…とりあえずすいません!!」
「なんか…えすぴーえすえすとおうむ返しするくらいの違う人が謝り出したっす…」

今に始まったことじゃないが収拾がつかなくなっている。
だんだん、寒くなってきたのかこたつに潜り込みながらとりとめのない会話が続いていく。

「あんたら、四人揃ってこたつに入ってなにやってんの!?ただでさえ作業たまってんのにー!!」

ミイラとりがミイラ現象が四回続いて、おまけに終わりが見えない。ここにきて救世主の亜水弥お姉さんが来てくれたことに内心、安心している四人だった。

「に…日本の未来について考えておりましたです。」
「七海、それは偉い人たちに任せてとりあえず、うちらの明日のほうが切実だから!!」

瞬間スッと、無言で黒崎さんが立ち上がったのでみんな思わず固まってしまった。

「いいか?例え支持できる政策がなかったとしたら例え無効票だったとしても…意見を伝えることが大切なんだ。」

………選挙、終わる前に言うべきだったっぽい言葉を言い終わると、そのまままたこたつに戻る。
ちなみに、全員対応に困ってしまったため奇妙な沈黙が続いてしまっている。

「…黒崎団長?とりあえず…たまった仕事をやってからそう言う発言してくれませんか?」

すーっと、冷たい風と一緒に黒髪ポニテをなびかせながら渚さんが音もなくやって来た。彼女の言葉には、懐かしい副団長を思い出させる強さを秘めている。
次の瞬間、無言で、立ち上がり見事なまでにそれぞれの係りの仕事に戻っていく団員たち。

「…政権交代ってこーいうことだよね、兄さん!!」
「しっ、もうすぐ誕生日なんだから…せめてもう少しは夢を見させてやろうな。」

プレパラートの厚さくらいには気を使っているらしく?こそこそと話し合っている咲也×七海コンビの的を得た発言に二重にダメージを受けている黒崎さん。
ちなみに、最近は誕生日についてもあんまり触れてほしくないお年頃らしい。

「…そういえば、大掃除、感謝祭イベント、クリスマス、帳尻あわせ、黒崎さんの誕生日…っときたら…そろそろ触れてほしい人がソワソワソワソワしている時期っすよね!!」

「あいつも、いい大人だから、誕生日にみんなから祝ってもらえるかは、この終わっていない作業と赤字から空気を読ませよーぜ。」

優しくない(ツンデレな息子と誰かが必ず訂正する)咲也さんの発言の直後、何かが微かに動いた気配をそこにいた全員が感じて…なんとも気まずくなった。

「ま、まとめたらいいんじゃないかなぁ??黒崎さんと暁羅さん誕生日とクリスマス~」

「そ、そうっすね!!掃除しながらパーティっすよ!!赤字も季節にあってるっす!!」
「あ、亜水弥さんもツリー出してきたいな~って藍にゃと話し合ってたんだよね…探すの大変だから人間ツリーだな…」

「ど…同時にやるのは…機能的ですね…いささか遅い気もするのですが…言わないことにします」

「い、いくつになっても…なんだかんだいいながら俺らの大切なイベントだったしな。…渚さん言ってますよ、あと亜水弥…人間ツリーでこっち見んな!!」

蘇ってくる…トナカイタイツの悪夢。
ツリーがなくて、一日ツリーの役になったジャンケンに負けた生け贄。
真っ暗な家にグリコポーズで帰ってきた虚しさ。
クリスマスツリーの天辺から飛び立とうとする姿。
ミニスカサンタと共に川に落下したこともあった。
氷の上で身を張ったトリプルアクセルで顔面着地…

…何年前を思い出してみても、この季節に起こることは大抵悲劇からぐるっとまわって喜劇でしかない。
そしてなにより、本人が一番気に入ったプレゼントに商品が出されるある意味強制的にプレゼントよこせよーな
『暁羅の誕生日』
は、まわりの気合いはともかく…涼風最大行事

必死になって、場を盛り上げる団員たちの言葉に、また何かが微かに動いた。

「よし!!じゃあ、団長命令、プロジェクト一ひとまとめ開始!」

「「了解!!」」

団長としての黒崎の言葉に、みんなはいつまでたっても一番祝ってもらいたがりな自分達のお父さんの誕生日を祝うためにそれぞれ歩き始めた。
全員が部屋からいなくなったあとにカタカタと箱の後ろから出てくるソワソワソワソワしている人。

「ひとまとめ…ひとまとめってなんや…悪いがそない簡単に今日と言う日が終わると思ったら大間違いやで!!」

あーははははは!!
とどこかの魔女のように笑う声が響き渡ったことにより、団員たちは全速力で誕生日を祝うための余興の準備へと走り出すことになったのだった。

「くそ…帰ってくるの明日にすりゃよかった…」

「兄さん、甘いよ?元団長はどこまでも兄さんを愛しているんだから!!…回収されてやってきてしまうのがオチだよ…」

「ロマンティックという言葉が全く似合わないクリスマスってのも…すごいよな…いっそ、二人で愛の逃避行でも」

「…元団長との愛の逃避行??」

「…そうくるか!?そこはもちろんお兄さんと七海のだろ!?」

「あー!!そこの二人、こっそりこたつに入ってまた漫才してないで早く余興の準備するっす!!」

どこまでいってもこたつにすがり付く兄妹はズルズルと引きずられて…こうして涼風のクリスマスは今年もしっかりとはじまりをむかえようとしているのだった。

みなさん、メリークリスマス&暁羅さん(24日)黒崎さん(25日)ハッピーバースデー!!
どうぞ、素敵な日になりますように!!