~本当は怖い…鈍感くーちゃん~

「…最近さ…気がつかないうちに…部屋の中のものが変わっていることがあるんだよなぁ~。」

なかなかショッキングな内容を、明日の天気を語るかのようになんてことなく口にする
『一人かくれんぼで寝れる男』
黒崎さん。

彼は怖いとかなんとか言いつつも、みんなが心配して見に行く頃には眠っていたり、塩水を飲んでみたりと幽霊が怖がりそうなことをしている。
たまたま台本の打ち合わせに来ていた咲也君が、ちょっと心配そうに見つめ返しました。

「…んー、昔俺も知らない女がはいりこんでたことあったなぁ~、部屋がピンクにされてたり、写真が置いてあったり、あれは怖かった。」

「…それは、日頃の行いのせいだろ?」

「いやいや、俺…自慢じゃないけどその辺はうまくやってるから。」

「うまくって…おまえ、いつか本当に刺されるぞ?」

「大丈夫だって、数回刺されたけど死んだことはないから!」

爽やかな声でとんでもないことをこちらもサラッと言ってのけてしまう。
それは、まったくうまくやっていけていないだろ!!とツッコムべきなんだろうが…無駄だろうから諦めることにした。

…相談する相手を間違えた。自分の発言を後悔した黒崎さんでした。

「んで、具体的に何があったんだ?」

「いや、本当にたいしたことはなかったんだけどさぁ…作った覚えがないおかずがはいってたり、朝崩れた本がキレイに並んでたりとか…」

「…結構、たいしたことあるよな!?」

鈍感というべきなのか、図太いと言うべきなのか…黒崎さんはラッキーなことだったから別に構わない!くらいの感覚で語るのだった。

「いや、パンツが無くなるとかなら…困るけどさ…」
なにか遠い目をする二人。
「あぁ…あれは…切実に困ったさ。」

どこかで
『だから、私じゃないって言っているじゃないですか!!』
と半泣き状態になっている女の子の姿が目に浮かぶ。

「料理はうまかったし、片付ける手間も省けたし、助かったな。あ、弁当も助かった!」

「食ったのかよ!?」

見ず知らずの人が作ったかもしれない得たいも知れない料理やら弁当を美味しかったで片付けてしまうあたり…警戒心と言うものをどこかにおいてきてしまったのではないのか?と思わず心配になってしまう瞬間だった。
しかし…刺されたことを普通に話すことを考えるとどっちもどっちだった。

「ま、まぁ…健康そうだからいいけどさ、他にはなにかなかったのか?」

少し…少し考えるように黒崎さんが口元に手を当てたあとに、ポンと手を叩く。
「あー、なんか異様に胡椒と一味が減るのが早くなったな。」

「…胡椒と…一味…」

その二つを聞いた瞬間に、咲也君が黒崎さんの部屋に起こっている不可解な事柄の答えにほとんど気がついたようだった。

「隙間女でもすんでんじゃないのか?」

ちょっとイタズラな表情で咲也君が言う。

「…すき…ま、女?」

「そう…都市伝説みたいなもんでさ、こう…確実に人間が入れないような隙間に…住み着く女…」

ガタッ!!
部屋のどこかでなにかが震えたような音がした。思わず黒崎さんがあたりをうかがうようにキョロキョロとする。

「甲斐甲斐しいじゃないか、それにしても新しいなぁ~…奥さまは…」
「…隙間女?」
首を横に振る咲也君。
「…魔女?」
首を横に振る咲也君。
「…魔法少女?」
首を横に振る咲也君。
「…男の子?」
首を…最早、思い付く限りの単語を口にしているのは明らかだった。
声のトーンを落として…咲也君が告げるのだった。

「奥さまは、惨殺少女だ!!」

瞬間、バンっとクローゼットが開く音がして、肩を震わせた七海ちゃんが顔を真っ赤にしながら声をあらげる。
手には、なぜか包丁とキャベツ。

「ごはんにする?
おふろにする?
七海にする?
それとも…みゆき?」

「…みゆき」

「あはは、兄さんのバカ!!バッドエンド一直線!」

いつの日か、二人でやったホラーゲーム?にでてきたやりとりを再現する姿をなにもしらない黒崎さんはポカーンとした瞳で見つめていた。

「わ、私…魔女じゃないもん、魔法少女にはなりたぃけど…年齢とか色々無理だし…体型は男の子だけど…気持ちは乙女だし…ヤンデレだけど…惨殺少女じゃないしぃ…セーラー服も着てないし…今日は…」

…兄二人が、異常なら…妹もまともなことは言わなかった。

「…包丁…包丁はたまたまだし…」

とりあえず、誰も聞いていないことを次々と早口に述べていく。
いろんな意味で危ないから、包丁を持ったまま慌てるのはやめていただきたい。というか咲也兄さんまた刺さらなくてよかったね。というレベルだった。

「す…隙間にはいれないから…こうやってクローゼットとかベットの下にいたんだもんー!!」

…やっていることについては見事なまでに都市伝説並みでした。

「えっと…七海、なにしてたんだ?」

ここにきて、ようやく黒崎さんからまともな発言がなされた瞬間だった。

「うー…咲也兄さん~…」
キャベツを握りしめて地団駄を踏む。

「よしよし、黒崎…おまえいくらなんでも鈍すぎだって。」

「え?え?俺なにした?ってか、なんで七海ここに?」

咲也兄さんの胸に抱きついて、泣く七海ちゃん。
さりげに包丁を奪い取っているあたりさすがの咲也兄さんである。
黒崎さんに呆れた視線を向けながら、七海ちゃんの頭をよしよしと撫でる咲也君はさすが…長年お兄さんをしていただけあります。

「…黒崎さん…世話やかしてくれなぃ…ななの存在意義がぁ~…咲也兄さんは、たくさん世話やかせてくれたのに~」

よくわからない理屈を次々と…並べていく七海ちゃん。

「うっう~…気がついてもらえないから…こっそり…自分のうちの胡椒と一味…なくなる度にもらってく…嫌がらせまでしたのにー」
ちなみに、七海ちゃんはかなりの辛党であり、本気で彼女が作ったキムチ鍋には危険が伴うほどである。
食べ残した蕎麦やらラーメンを食べてあげようとすれば…たまに悲鳴があがる。
「うっう~…黒崎さん…ありがとう…食費がちょっと浮いた…。」

「あ、いや…どういたしまして。」

いったいどれだけ、胡椒と一味に金をかけているんだ!?とか何を普通にお礼に律儀に答えているのだ!?とか色々と問題はある。

「七海は、こっそり黒崎お兄ちゃんの役に立ちたかったんだよ、それが鈍感なおまえは…こんだけ堂々と世話をやいているのに気がつかなかったと。」

ちなみに、まだ高校生だった頃、咲也君のアパートにも謎のお弁当やら部屋が片付くことがあったがしっかり気がついて、頭を撫でていた。

「…このまま…ずーっと、クローゼットから見つめるのかと思ったら…切なくて死ぬかと思ったよ。」

妹も妹で…でていくタイミングというものを見失ううちに、すっかりお馴染みの不思議な出来事にされてしまったらしい。
何事もなかったかのようにクローゼットにいるのはいつか不審人物として捕まらないことを祈るばかりだった。

「ごめん!!次からは、ちゃんと気がつくから、な?」
堂々と世話をやきにくればいいということは、なぜか提案されないのだった。


~数日後。~

「最近さ…わさびがなくなるんだよなぁ…」

またもや、台本の打ち合わせに来ていた咲也君を前に黒崎さんが呟く。
ベットがガタンと揺れるのを見ながら、咲也君が呆れたように答えるのだった。

「…おまえ、鈍すぎると…ベットの下の奥さまは妹に本当にバッドエンドにされるからな…」

「…ベットの下??なんだそりゃ?」

…本当に怖いのは、鈍すぎるのか天然なのかわからないところだと、肩を落とす咲也君と、また出るタイミングを失った七海ちゃんなのでした。
とりあえず、黒崎さんの都市伝説クラッシャーはいつか寺生まれのTさんをこせるのではないかと団員たちは密かに日々期待しているのでした。