決算期をなんとか乗り越え…新年度を迎えたというのにも関わらず、パソコンを前に頭を抱える苦労人が深くため息をつきながら、前方に急遽集めた団員たちをやや冷めた瞳で見つめています。

「…この中で、涼風のアカウントでゲーム予約した人…」

静まり返った団員たちは…生命の危機を感じ彼と目をあわせようとすらしません。

「もう一度だけ聞くな?…この中で『勉強用』としてゲーム予約した人…怒らないから手を挙げろ!!」

しーんとした中で女の子組みからチラホラと手があがりはじめしました。

「ありがとう…そのなかで…ゲームのタイトルにブラザーが入る人はそのまま挙げてろ!!」

無駄にエコーがかかった感じ。…手はさがらない。
それぞれに勝手な表情を浮かべながら、五人の手を挙げたままの女の子+なぜか往人さんまでお互いにビックリしたように顔を見つめています。

「あれ?あれ?亜水弥ちゃん…」
「へ?いや流行りには職業柄のらないと…なんで渚さん」
「…深い意味はありません…明音さんは…?」
「ちょっと、長男さんが飛呂人に似てる気がして…七海ちゃんも?」
「やー…だってお兄ちゃんと聞いたら体が勝手に…往人さんはついに?」
「ついに…なんだ…主人公に…興味があっただけだ!!」

ぐるっとまわって…それを見ていた苦労人咲也君が、ビシッと言い放ちます。

「一本くらいなら、勉強用に許すつもりだったけどな…なんで六人バラバラに同じゲーム予約した?いや、自分名義なら許すけどな…なんで全部、頼んだ人間俺になってんだよ!?」

鼓膜を震わせるような叫びに、近くの団員は耳を塞いでいます。
怒らないと言う言葉はどこにいってしまったのか?聞いてみたいものだ。

「にゅ…兄さん…久々召集がこんなんじゃ…ちょっと大人気ないよー」

「そうだな…俺、基本的には寛容だしさ、給料もまともに払えないような劇団だから…今までは少し位見なかったことにしてきたんだ…」

心なしか、給料もまともにが強調され、そのフレーズの後にうなり声をあげながら頭を抱えた人が一人。

「某密林の…お姉さんから戸惑いがちに電話きたさ…失礼ですが注文のお間違いじゃないですか?って怯えながらさ…ぶらざー」
「…タイトルはふせてください…」
「…うんたらってゲームが六本も予約されているんですがお間違いじゃないですか?ってさ」

さすがに…それは、例え違うゲームだったとしても業者はパニックになると思う。

「…配布用、保管用、特典用、自分用、貸し出し用…予備だな…わかります。」
往人さんがここぞとばかりに張り切って説明しながらドヤ顔をしています。
なんだか新しい定義ができた瞬間だった。

「どんだけ俺は、ブラコンなんだよ!!」

「はぅ!や、やっぱり太陽君のこと…」

いきなりボルテージが上がったらしい藍音さんがキラキラとした視線をむけています。

「脇道にそらすな!?みんなで話し合って一本を貸しあえばいいだろ?」

「え~、じゃあ咲也は七海を貸しあえばいいだろ!!って提供できるの?」

「そ、そんな…兄さんひどぃ!!」

亜水弥さんの腕にしがみついて、自分でさめざめと言っている七海ちゃん…彼女が兄さんを勝手に貸し出していたのは棚にあげられている。

「七海は消耗品じゃないだろ!!ゲームは、中古でも宜しいだろうが!!」

「愛が足りないね~」
「だよ、だよ~」
「…メーカーさんを敵に回すのですか?」
「…うっかり、初回を買わなくて…神ゲーだったら…泣けてくる」

彼が怒っている理由と、その他が主張している答えは大体ズレテイル。

「私は…勉強してみたかったんです…大体五人も兄を出せば、誰かが影が薄くなったり、被ったりするのに、何人ものキャラを書き分けるスキルを!!」

あくまで、勉強用だと言うことにして自分の行為を正当化しようとしている七海ちゃんは自分的にキリッとした表情をして手を胸にあてています。

「兄は俺で十分だろ?」
「…12人の妹ちゃんのゲームをしていた兄さんに言われたくないです。」

他の団員たちが懐かしそうにゲームの名前をあげて、あの頃は12が多かったなどと話し合っています。

「ふ…12人もいれば、1人くらい…ストライクがいるだろうと考えたのだろうが…甘い、甘すぎる!!残念、俺は12人くらいじゃ満足できない!!」

早口に言い切ったあとに…往人さんが非常に神妙な顔をしながら、拳を握りしめています。
いつになく饒舌なのは…それだけ思い入れが強かったのでしょう。

「あ、確かに長男さんって飛呂人さんに似てる!!…ところで、なんでこういうのって長男さん医師が多いんだろね?」
「年齢的に…じゃないかな、かな?あと親が留守だったりするのもかな、かな?あ、あと白衣って素敵だよ!だよ!」
「…一名、残念な白衣さんが…こちらを見ていますが…」

残念な白衣さんこと往人さんの理論も止まるところを知らなかった。

「乙女向けでも…意外と…主人公の子が…可愛かったりするのが主流だ…」

なんていうか…往人さんは、だんだん許容範囲の幅が広がりまくってきている。

「渚さんは…もしかして男性嫌い克服の練習だったりしますか?」
「…違うとは言えません…」
「健気さが…可愛すぎだよ、だよ!」

確かに向上心は素晴らしいが、そろそろ俺にもなれてほしいと感じてしまう。
だんだん…修整が聞かなくなってきた話の展開に、ついていくのを諦めた咲也君はとりあえず
『すべてキャンセルしてしまおう』
と思いながら、止まることを知ろうとしない彼らをただひたすらに見つめることにしたのです。

「咲也、長男さんは苦労するものっすよ!!」

うなだれる肩をトントンと叩いた後に、太陽君が天使のようなスマイルを浮かべていた。

「…俺さ…年齢的には、お前の弟なんだけど…」

しっかり者の咲也君だが…実は、団員の年齢からしたら下から数えた方が早かったりする。 同時に…太陽君があまりにも若々しく微笑んだのが印象に残り…
それから、咲也君はこっそりと鏡を見ながら

ー俺って、そんなに老けたのだろうかー

と頭を抱えることになってしまったという。
大概、不憫なお兄ちゃんであることは否定できない。

そして、たくさんのお兄ちゃんがでてくるゲームが一体何個届くのかは…発売を迎えるまで誰にも分からないままになってしまったのだった。