~私たちは『ここ』で命をきざむ~
注意・涼風団員と震災についてのエピソードとなりますので、読む際にはいつも以上に心の余裕のあることを確認し、不快に思われる時には戻っていただけましたら幸いです。
あの日からの一年に…祈りと感謝を込めて…。
~~~
2012年3月11日14時36分。
時計の針を見ながら…目を閉じたとき、この小さな世界は、祈りと静寂に包まれた。
空からは…あの日と同じ白い雪。
どうしようもない思いを抱えて無情にふる雪を恨んだあの時…凍える体と心…このまま時間も固まってしまうとさえ感じた。
ー春先にふる雪は、すっと溶けるときに…俺たちの願いや思いを、空に届けてくれるんだよー
…そうだったね。
…そうだったんだよ。
雪は、悲しみや辛さじゃなく、優しさや、暖かさでもある。
季節はめぐる。
私たちが泣いたり、笑ったり…いろんなことを繰り返して、私たちは『ここ』で命をきざむ。
何気ない日常も、昨日あった笑い話も、しょうもないことでケンカしたり、どーしたらいいのか分からなくて静かに涙を流したときも…時間は私たちをおいていったりしない。
それが『残酷』なことなのか。
それとも『幸せ』なことなのか。
それでも…几帳面に進む針のように私たちはトクントクン…ほら、ね?
命の音を、刻む。
しんしんとふる雪の中…私たちはあの日、それぞれに空を見上げていた。
それから…どんな未来がやってくるのかなんて知らずに。
ただ…ただ自分たちにできることを探し、信じた。
『わたしはね…涼風はいつの日か無くなれば良いなって…思っているの。』
『守るために戦ってるんだって…いつも頑張ってるの見てやっぱ、カッコイイ!!この人についてきたのは間違いじゃなかったって』
『むー…お母さんはいそがしぃ…でも、僕にはパパとママがいるから寂しくないんだよ!』
たくさんの声が、心を揺らす。人の数だけ言葉があって言葉の数だけ…一緒に過ごした記憶があった。
その先には無数の未来があった。忘れない。
ずっとこれからも…『ここ』は私たちの故郷だから、トクントクン…小さいけどしっかりと命を刻もう。
黙祷が終わり静寂から、前を向いたみんなの顔が…なんだか他人のように大人びて見えた。
「今更だけど…あの日、連絡しなくてごめんな。」
たった一言のメールを送ることすらせずに津波へと立ち向かった青年が小さく呟いた。いつも過酷な運命に立ち向かう彼はすべてを捨て、名も知らぬ人たちとともに走りぬけた。
それから三週間…彼は帰れなかった。
怒りたい気持ちもあった。たった一言…それだけで少しは安心できたのに…でもこうして前を向く彼を見ると…誰にも彼をせめることなんてできなかった。
「それを言うなら、俺が一番…」
「違います!!暁羅さんに自信がないから、託したのは…俺です!!」
錯綜する連絡は、被災地からやや離れた位置にいた男に託された。予想を越えた現実に…悩みながら、彼が最初に送ったメールは
『全員と連絡がとれているから、とにかく自分…そして余力があるなら隣の人を大切にしろ』
彼の妹とその子どもがどこにいるのかを知りながらも年長者としての姿勢を崩さず…団員たちの混乱や不安を極力避けるために『嘘』をついた。
本当は連絡なんて…数人としかついていなかった。
「本当は…暁羅さんは一番に行きたかったはずなのに…俺が…」
仙台の駅前で、混乱する人たちを見ながら黒崎さんも必死に…足で情報を集めていた。
銘々が…自分こそと悔しさと力不足さを口にし始めた。
後悔をしない人間なんているのか…聞いてみたかった。
「てぃ!…てぃや!」
「へ…七海?」
「なな?」
少し不機嫌そうにしながら、もう少女からは少しだけレディになった七海が謝罪合戦の発端の二人の頬っぺたに桜の形のシールを貼っていた。
「暁羅さん…私たちのために泣くのを我慢してくれて『ありがとう』」
二人は互いの頬っぺたにはられたものを見つめている。
「黒崎さん…お仕事しながらみんなを探してくれて『ありがとう』」
そのあとも、ぺたぺたとみんなの頬っぺたに桜の形のシールを
『ありがとう』
の言葉とともにはっていく。
この一年…本当にたくさんのことがあったね。
「必ず守るから」
そう言って、前線に旅立とうとする信也の信念。
「こんな時だから…」
ピアノを弾いて小さな劇をした明音さん
一度は
「歌えない」
と言いながらも、子どもたちと歌った亜水弥さん。
「へろへろだけど、大丈夫、絶対に、ね!」
過酷な条件の中で患者さんに寄り添い続けた藍音さん。
「…たまたまです」
崩れかけた思い出の神社で、無事を祈ってお百度参りをした渚さん。
「潜ることに、不安も恐怖もないっす…こういう時は行くのがおきてっす!」
冷たい海へとためらわずに進んだ太陽君。
まだまだ…たくさん。
誰もが、誰かのために力をあわせたからこそ今日と言う日があるんだって。
「私…口ばっかしで、なんにもできなくて…だからみんなが頑張ってるの凄いなって…だから『ありがとう』って」
ごめんなさい。
よりもありがとう。
本当なら、スーパーですれ違った人、店員さん、隣を走っていた遠くからの援助の車…みんなに『ありがとう』を伝えたかった。
「そうっすね。俺も…『ありがとう』の方が嬉しかったっす!」
「うん…本当はいつだってその気持ちが大切なんじゃないかな、かな?」
後悔だけでは、前に進めない。
「よいしょっと…じゃあ、頑張ってシール作ってみんなに『ありがとう』って言ってくれた七海にも」
へ?
予想外の展開に、振り替えるとシール作りを手伝ってくれた珱稚先生が、向日葵のシールをおでこにはってくれた。
「みんなを見てくれて『ありがとう』」
パチパチとみんなが拍手をした。ちょっとこそばゆいけど…みんなとお揃いのシールはすごく嬉しかった。そこには、ありがとうと涙混じりの笑顔が広がった。
しばらくして、またそれぞれに会話がわかれたのを見ながら、安心してちょっと息をついた。
そんな時に…トントンと自分のなんにもついていない頬っぺたをつつきながら咲也君が寂しそうに問いかける。
「なな~お兄ちゃんにはないの?」
「ないです!!」
「…泣いていい?」
首を三回横に振ったあとに…落ち込んだ背中をよしよしとさすってちょっと涙混じりに微笑んだ。
「私、いつの間にかとっても…兄さんに似てしまったみたいなんですよ。」
碧色の四つ葉のクローバーに小さく書かれたメッセージをこっそりはった。
『帰ってきてくれてありがとう。ずっとこれからも…そばにいさせてください』
…素直じゃないね。
でもきっと、兄さんはちゃんと気がついて笑ってくれるから。
クローバー越しに命の刻む音を感じる。
…トクントクン…。
また、新しい一日が始まろうとしている。
きっとまだまだたくさん泣くし、くだらないことで落ち込んだり迷惑や心配をかけてしまうだろうけど…私にもきっと何か意味があると、信じることが背中を押してくれる。
命を刻もう。
小さな小さな…私の力で、一人でも笑ってくれるなら…こぼれた涙もいつかは、小さな芽をだし、葉になり、花ひらく。
私たちは、『ここ』で希望と言う名の明日を紡いでいくんだ。
注意・涼風団員と震災についてのエピソードとなりますので、読む際にはいつも以上に心の余裕のあることを確認し、不快に思われる時には戻っていただけましたら幸いです。
あの日からの一年に…祈りと感謝を込めて…。
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2012年3月11日14時36分。
時計の針を見ながら…目を閉じたとき、この小さな世界は、祈りと静寂に包まれた。
空からは…あの日と同じ白い雪。
どうしようもない思いを抱えて無情にふる雪を恨んだあの時…凍える体と心…このまま時間も固まってしまうとさえ感じた。
ー春先にふる雪は、すっと溶けるときに…俺たちの願いや思いを、空に届けてくれるんだよー
…そうだったね。
…そうだったんだよ。
雪は、悲しみや辛さじゃなく、優しさや、暖かさでもある。
季節はめぐる。
私たちが泣いたり、笑ったり…いろんなことを繰り返して、私たちは『ここ』で命をきざむ。
何気ない日常も、昨日あった笑い話も、しょうもないことでケンカしたり、どーしたらいいのか分からなくて静かに涙を流したときも…時間は私たちをおいていったりしない。
それが『残酷』なことなのか。
それとも『幸せ』なことなのか。
それでも…几帳面に進む針のように私たちはトクントクン…ほら、ね?
命の音を、刻む。
しんしんとふる雪の中…私たちはあの日、それぞれに空を見上げていた。
それから…どんな未来がやってくるのかなんて知らずに。
ただ…ただ自分たちにできることを探し、信じた。
『わたしはね…涼風はいつの日か無くなれば良いなって…思っているの。』
『守るために戦ってるんだって…いつも頑張ってるの見てやっぱ、カッコイイ!!この人についてきたのは間違いじゃなかったって』
『むー…お母さんはいそがしぃ…でも、僕にはパパとママがいるから寂しくないんだよ!』
たくさんの声が、心を揺らす。人の数だけ言葉があって言葉の数だけ…一緒に過ごした記憶があった。
その先には無数の未来があった。忘れない。
ずっとこれからも…『ここ』は私たちの故郷だから、トクントクン…小さいけどしっかりと命を刻もう。
黙祷が終わり静寂から、前を向いたみんなの顔が…なんだか他人のように大人びて見えた。
「今更だけど…あの日、連絡しなくてごめんな。」
たった一言のメールを送ることすらせずに津波へと立ち向かった青年が小さく呟いた。いつも過酷な運命に立ち向かう彼はすべてを捨て、名も知らぬ人たちとともに走りぬけた。
それから三週間…彼は帰れなかった。
怒りたい気持ちもあった。たった一言…それだけで少しは安心できたのに…でもこうして前を向く彼を見ると…誰にも彼をせめることなんてできなかった。
「それを言うなら、俺が一番…」
「違います!!暁羅さんに自信がないから、託したのは…俺です!!」
錯綜する連絡は、被災地からやや離れた位置にいた男に託された。予想を越えた現実に…悩みながら、彼が最初に送ったメールは
『全員と連絡がとれているから、とにかく自分…そして余力があるなら隣の人を大切にしろ』
彼の妹とその子どもがどこにいるのかを知りながらも年長者としての姿勢を崩さず…団員たちの混乱や不安を極力避けるために『嘘』をついた。
本当は連絡なんて…数人としかついていなかった。
「本当は…暁羅さんは一番に行きたかったはずなのに…俺が…」
仙台の駅前で、混乱する人たちを見ながら黒崎さんも必死に…足で情報を集めていた。
銘々が…自分こそと悔しさと力不足さを口にし始めた。
後悔をしない人間なんているのか…聞いてみたかった。
「てぃ!…てぃや!」
「へ…七海?」
「なな?」
少し不機嫌そうにしながら、もう少女からは少しだけレディになった七海が謝罪合戦の発端の二人の頬っぺたに桜の形のシールを貼っていた。
「暁羅さん…私たちのために泣くのを我慢してくれて『ありがとう』」
二人は互いの頬っぺたにはられたものを見つめている。
「黒崎さん…お仕事しながらみんなを探してくれて『ありがとう』」
そのあとも、ぺたぺたとみんなの頬っぺたに桜の形のシールを
『ありがとう』
の言葉とともにはっていく。
この一年…本当にたくさんのことがあったね。
「必ず守るから」
そう言って、前線に旅立とうとする信也の信念。
「こんな時だから…」
ピアノを弾いて小さな劇をした明音さん
一度は
「歌えない」
と言いながらも、子どもたちと歌った亜水弥さん。
「へろへろだけど、大丈夫、絶対に、ね!」
過酷な条件の中で患者さんに寄り添い続けた藍音さん。
「…たまたまです」
崩れかけた思い出の神社で、無事を祈ってお百度参りをした渚さん。
「潜ることに、不安も恐怖もないっす…こういう時は行くのがおきてっす!」
冷たい海へとためらわずに進んだ太陽君。
まだまだ…たくさん。
誰もが、誰かのために力をあわせたからこそ今日と言う日があるんだって。
「私…口ばっかしで、なんにもできなくて…だからみんなが頑張ってるの凄いなって…だから『ありがとう』って」
ごめんなさい。
よりもありがとう。
本当なら、スーパーですれ違った人、店員さん、隣を走っていた遠くからの援助の車…みんなに『ありがとう』を伝えたかった。
「そうっすね。俺も…『ありがとう』の方が嬉しかったっす!」
「うん…本当はいつだってその気持ちが大切なんじゃないかな、かな?」
後悔だけでは、前に進めない。
「よいしょっと…じゃあ、頑張ってシール作ってみんなに『ありがとう』って言ってくれた七海にも」
へ?
予想外の展開に、振り替えるとシール作りを手伝ってくれた珱稚先生が、向日葵のシールをおでこにはってくれた。
「みんなを見てくれて『ありがとう』」
パチパチとみんなが拍手をした。ちょっとこそばゆいけど…みんなとお揃いのシールはすごく嬉しかった。そこには、ありがとうと涙混じりの笑顔が広がった。
しばらくして、またそれぞれに会話がわかれたのを見ながら、安心してちょっと息をついた。
そんな時に…トントンと自分のなんにもついていない頬っぺたをつつきながら咲也君が寂しそうに問いかける。
「なな~お兄ちゃんにはないの?」
「ないです!!」
「…泣いていい?」
首を三回横に振ったあとに…落ち込んだ背中をよしよしとさすってちょっと涙混じりに微笑んだ。
「私、いつの間にかとっても…兄さんに似てしまったみたいなんですよ。」
碧色の四つ葉のクローバーに小さく書かれたメッセージをこっそりはった。
『帰ってきてくれてありがとう。ずっとこれからも…そばにいさせてください』
…素直じゃないね。
でもきっと、兄さんはちゃんと気がついて笑ってくれるから。
クローバー越しに命の刻む音を感じる。
…トクントクン…。
また、新しい一日が始まろうとしている。
きっとまだまだたくさん泣くし、くだらないことで落ち込んだり迷惑や心配をかけてしまうだろうけど…私にもきっと何か意味があると、信じることが背中を押してくれる。
命を刻もう。
小さな小さな…私の力で、一人でも笑ってくれるなら…こぼれた涙もいつかは、小さな芽をだし、葉になり、花ひらく。
私たちは、『ここ』で希望と言う名の明日を紡いでいくんだ。
