劇団、涼風では演技の練習という名目のもと、アニメやゲームの一場面を再現してみることがある。
ちなみに今回は昨年、放送された『Angel Beats!』の思わず感動のシーンの再現をすることになったのだった。
配役としては、ユイにゃんを七海が音無を太陽、日向は咲也があてられた。
夕日が照らす校庭で、普段は明るく振る舞っているユイが自分の未練を口にするシーンだ。なお、著作権の都合上・・・台詞はややオリジナル化されている。
ヘルメットをかぶり、運動着に身を包むユイにゃんこと七海は一見、完璧に見えたのだ。

しかし・・・その配役は残念なことにある意味では致命的であったのだった。
七海は、ホームランを打つためにボロボロになりながらも必死にバットをふる。しかし、彼女は強がっていて・・・もう、バットを支えることすら限界なのは目に見えていた。
たまらず、太陽が声をかけようとする。この後には、ユイの最大の願いが語られる・・・はずだった。
思いを込めて太陽がアンダースローで、ボールを投げる。
何気なく、七海は、ふらふらの手をきつく握り、最後の力を込めて思いっきりバットをふる。
カキーンと、キレイな金属音が響き渡る。
思わず、高く飛び上がったボールを二人の視線がおいかけることになる。

「・・・あっ!」
「まじ・・・っすか?」

夕日へと向かって、高く飛び上がった。そして・・・それは意外なまでに、そのままフェンスをこしてしまったのだ。
これには、その場にいた全員がぽかーんとするしかなかった。

「・・・ホームランっす。」

「うそ・・・私、現役の時すらできなかったのに!」
忘れてしまいがちだが、七海は、ソフトボール部だった。しかし、ずーっとバントしかさせられないような打順であり、また力もなかったため外野までボールをとばすことも難しかった。奇跡だ。
思わず、涙ぐんでしまう七海の手を太陽がしっかりと握りしめていた。

それが、ここにきてこのタイミングでできてしまったのだ。

「すごぃっす!七海、よかったっすね!」

「うん!やった!私、やったんだよ~!」

二人は、手をたたきあって喜びをわかちあっていた。まさしく・・・この瞬間に七海は「未練」をはたせたとでも言えるのだろう。
きゃぁ、きゃぁ!と二人がはしゃいでいるのを、影から見つめる・・・忘れ去られた今回のヒーローになるはずだった咲也君。

「くそ・・・出ていけねぇじゃないか。」

困ったように、しかたがなくフェンスの外にあったボールを拾いながら呟いたのだった。

「・・・俺、結婚できるのか?」

もちろん、拾い上げたボールはなにも返してはくれない。
そして

ー結婚してやんよ!ー

この名台詞も、言えないままとまってしまったのだった。