東京にたまたまでかけた、とある日の夕食の際に、黒崎さんは咲也君と一緒に珍しく夕食を食べることになったのでした。
いつもなら、断られてしまっていたのがなぜかすんなりと受け入れられたために黒崎さんは張り切って、高ーいレストランを予約しておいたのでした。

「お、咲也待ったか?」

スーツ姿のまま、仕事から直接レストランへとやってきた黒崎さんは、高いレストランにも関わらず堂々としている咲也君の姿に・・・声をかけにくかったそうでした。

「や、待ってない。・・・それなりに楽しんでたから気にするな。」

軽く手をふっている姿を見るにどうやら、都会のお姉さまたちと素敵な時間を過ごしていたようでした。
少し、あきれながらも黒崎さんは咲也君をつれてレストランに入りました。

「めちゃくちゃ、混んでるよな?・・・こんな店、よく予約とれたな。」

確かに、普通に生活をしていたならばなかなかこのようなレストランには行くことはないと思うほどに、豪華なレストランだったのでした。

「まぁ、クライエントさんと一度食事をしたんだけど・・・うまかったからさ。」

「・・・おまえも、たまには仕事をしているんだな。」

その瞬間、彼は向日葵のような笑顔に、少しパンチをいれたくなったそうでした。

「・・・とりあえず、予約してあるから」

その瞬間に、店員さんが少し顔をだして予約が書かれているであろう紙を見ながら、高らかに呼んだのでした。
それは決して・・・フルネームでは呼んではいけない名前。

「黒崎様、二名様でご予約の黒崎・・・一護様、お席の準備ができました。」

その瞬間に、レストランにいた人たちのほとんどが振り返ったそうでした。
そう、彼のお名前はとある有名なキャラクターと同じ。決してまねした訳ではなくたまたまなのですが・・・。

「ここまできて、フルネームな罠かよ!」

あまりの恥ずかしさとイレギュラーさから、思わず声をあげてしまった黒崎さん。そのとき、彼は確かに・・・いっせいに空気が冷たくなるのを感じたそうでした。

「さ、咲也~」

振り返ったときに、残念なことに黒崎さんのどじさを知っていた咲也君は、すでにそこにはいなかったのでした。
そのまま、うろたえたワンコのようにしばらくの間、黒崎さんは

「あれ?あれ?咲也は?咲也?さーくーやー!」

とうろちょろしていたそうだったのでした。
ちなみに咲也君はほとぼりが覚めるまで外でその様子を見守っていたそうです。

「・・・だから、抜けてるんだよなぁ。」

フルネームが呼ばれない。ある意味、不幸な男性の救いのない時間のお話でした。