さて、危うくあと少しで握りつぶしてしまいかねなかった兄から手を離し、七海ちゃんがコントローラーを握りしめました。

「じゃ・・・行くよ?」

息を大きく吸い込み、震える手をなんとか押さえながらテレビと向かい合います。心なしか・・・操作キャラの動きもぶれているように見えるのはおそらく気のせいです。

「ぎゃ!」
「むりー!!」
「とべー!!」
「トランスしないのー!!」「ファイアー!!てかケアルはぁ?」

一人大きな声を出しながら格闘している七海ちゃんに周囲は笑いながら見ていました。

「・・・もはや違うゲームになってるよな」

「確かに、ファイアは必要っすね!」

ようやく、先のゾンビの犬のショックから立ち直った太陽君も頷きながら見つめています。

「なんかいるー!!」

ドアを開けた瞬間に銃を構えた操作キャラは、パニックを引き起こした七海ちゃんによって即座に銃を乱射したのでした。

「!!それ仲間だろ!」

明らかにそれは、仲間なキャラなんですが・・・本人がトランスしたために聞こえていません。
無惨にも弾がなくなるまで、無意味な乱射が続いたのでした。

「・・・ごめんね・・・」
ちなみにゲームをやらせるとなぜか、仲間キャラにまで間違って攻撃をするのは七海ちゃんの特技でもあります。
落ち着いた七海ちゃんが静かに謝った瞬間に、ゾンビさん。

「にゃー!」

叫びと共に引っこ抜けたコントローラーが咲也君の顎にメガヒット!
なかなかな破壊力だったために、言葉も出せないままにふっとんだのでした。

「すごいっす!!これはまさしく完璧な・・・クリティカルヒットっすね」

感心したような太陽君の呟きだけが静まり返った部屋のなかにいつまでも残ったのでした。ちなみに、大分ダメージが大きく、顎を押さえて痛みに震える咲也君の様子を見つめているうちに、銃の弾すらなかった操作キャラさんは逃げることもできずに・・・誰にも知られることなく、静かに餌食になってしまっていたのでした。

ちなみに自らが攻撃をしてしまった咲也君にたいして必死になって何度も無意味に近い
「ケアルー!」
と叫び続ける七海ちゃんの姿はどうやら、まだトランス状態のようだったのでした。

そんなわけで人知れず終了していたゲーム。彼らが画面に浮かぶゲームオーバーの文字に気がついたのはそれからさらに、数十分後のお話だったのでした。