先日の咲也兄さんの誕生日のさいに、何人かの方から『どうして9月なのに水無月なのか?』とメッセージをいただきました!中には間違えているのではと、心配までしていただきありがたいかぎりですしょぼん
本編では晴一の話の途中で意味がわかるようにしていたのでつい普通に書いてしまいました(-_-;)
考えてみたら、ここでは書いてなかったガーンそんなわけで水無月の意味を、今回は咲也視点から書きますキラキラキラキラ
興味のある方はのぞいてみてくださいにひひシリアス・・・かな?




~水無月の理由~
一人で生きれる。
自信があった。・・・とにかくあそこに戻る気にはならなかった。あいつらは、俺をまるで化け物みたいに扱う・・・だから・・・。

「こんなとこで、なにしてるんだい?」

真夜中に繁華街の外れで、俺はいつも立っていた。そうすれば汚いやつらが声をかけてくる。
まだ、小学校の低学年だったけど似たくもない父親に似た俺の身体は早熟だった。そして母から教え込まれた知識で、いい意味でも悪い意味でも頭がよかった。たまに警察に声をかけられることもあった・・・そんな時にはフランス語を話せば大抵のやつらは対応に困る。簡単に逃げられた。


「・・・帰る場所がない。」

小さく呟けばいい。
自信なさげに、兎の皮をかぶればいい。

「可哀想に・・・じゃあ、おじさんとこにくるかい?」

ほら、簡単だ。
大人なんかこうして、子どもを支配した気になる。
あとは適当なところで、金だけもらって逃げればいい。
頷こうとした。
俺の手を誰かが掴んだ。

「やめろ!」

和服を着た変な男・・・おそらく大学生くらいだろう。そいつが俺の手を掴んでいた。そう言えば、最近よく見かけた男だ。・・・和服が妙に目立つから頭のどこかにひっかかる。

「な、なんだ?」

「汚い手で、こいつに触るな!」

慌てたオヤジを前に、そいつは捲し立てた。
オヤジが困惑した顔で俺を見ていたが、俺にだって貴重な金儲けのチャンスを邪魔された訳だから面白くない。

「・・・はなせ!」

ムカつく。
こういうやつが、一番嫌いだ。なんにも知らないくせに、正義だなんだと自分の考えを押し付けやがる。
暴れた俺を、その男は睨み付けてきた。あまりの剣幕に、おされ声が出なかった。

「おまえは俺が買う!」

「は?」

信じられないことを言った。こいつもカモ・・・だったのか?
呆然としている俺を見て、そいつは引っ張ることをやめ聞いてきた。

「その男についていくか、俺についてくるか・・・おまえが決めろ。」

なんなんだよ?
・・・わからない。
展開についていけというほうが無理だろ?

ただ・・・。
たださ・・・差し伸べられた手が、嬉しくて俺は結局、この俺に「買われる」ことになった。


連れてこられたのは、大きな家だった。来るまでに茶道の家元だと話していたことから、和服をきていた訳が理解できた。

「さてと、家族を紹介せんとあかんな。」

「・・・家族?」

急に俺の雰囲気が変わった。イントネーションが違うとは思っていたが元は関西に住んでいたらしい。

「んー、とりあえずおまえには兄ちゃんを紹介してやるさかい。」

そうして、俺は横にいた女性に声をかけた。綺麗な人だった。どうやら妹さんだそうだ。
すぐに、俺より少し年上の男が二人はいってきた。
一人は大人っぽく、対して一人は活発そうだった。

「こいつが新入り?可愛いじゃん!俺は飛呂人、兄ちゃんってよんでいいからな~!」

いきなり、頭をぐりぐりとされた。事態についていけない。睨んだにも関わらず飛呂人と名乗った男はスルーした。

「・・・また、誘拐したんですか?」

対して、一人はすこし呆れているようだった。

「任意や!相変わらず珱稚は冷静やなぁ。っと、こっちが飛呂人でこっちが珱稚や。それから俺は暁羅でそっちは暁那や、気軽にお父さんと呼んでかまわんからな!」

フリーズした俺に暁那さんが優しく笑いかけてくれた。

「・・・団長と副団長でいいからね。」

簡単に説明された。
ここは俺みたいに「社会になじめていない子ども」を集めて、家族として生活させているらしい。

「さて、残すはお前の自己紹介やで。」

「・・・嫌だ。」

俺は、自分の名前を言いたくない。
大っ嫌いだから。こんな名前も自分も。

「成瀬拓人君・・・やな。」

「!!・・・なんで!」

なんで知っているだよ!
そんな言葉にすらならない。後から知ったことだったが、暁羅は前々から俺を見ていてすでに俺についてのことを調べていたそうだ。
「団長、この子また勝手に連れてきたんですよね?保護者から許可は?」

珱稚は、あん時から冷静だった。団長はわかっていたんだろうけど・・・あえて聞いてきた。

「そうやなぁ、拓人。おまえ家に帰らんでいいのか?」

帰る場所がないくらい、わかってたんだろ?

「・・どうせ誰も心配なんかしないし・・それよりもその名で呼ばないでください。」

団長が困ったように笑っていた。

「そないなこと・・・いや、分かった。それなら俺が新しい名前つけたるさかい。」

予想外の展開に俺はただ突っ立っていた。

「うーん・・・おまえ、誕生日はいつや?」

「・・9月17日・・。」

「じゃあ水無月咲也や。」
・・何が何で、じゃあなのか全然わからなかった。

「・・・兄さん。9月は長月よ。」

副長が軽くツッコミを入れたがそんなことまったく気にもとめずに団長は語っていった。

「えぇか?おまえ顔はいいさかい、水も滴るいい男の水に・・・」

なんだか一気に呆れてしまって団長をじと目でにらんでやった。

「冗談や、全てを写す鏡のような水に、仏教用語だと人間を越えた悟りを開く・・・神のようなものを現す無、いつも一定の面を見せる月に、おまえが花のように咲けるように咲也や。」
水無月・・・咲也。

何度かこっそりと繰り返してみると嬉しさがこみ上げてくるようだった。
あぁ、俺はもう・・・弱虫でなんにもできない成瀬拓人じゃないんだ。
そうなんだ。
俺は、成瀬拓人じゃない。
今日から俺は水無月咲也。
この日から、俺は水無月咲也として生きていくことを決めたんだ。いつも笑って強気で、拓人とは正反対の俺の憧れのヒーローになると決めたんだ。
それが、俺の水無月咲也としての始まりだった。