例年、夏になると困ったことになる人がいる。それは神社の息子さんの春樹君だった。
彼の家には、娘がいなかったので巫女さんがいないのだ。そのために帰省のたびに春樹君は母親から
「お嫁さんはぁ?」
と聞かれるそうだ。
今年もまた、夏が来てしまった。全体的に年齢が上がったため、涼風の団員にも黒髪は少なくなってきた。
男嫌いな渚さん。彼としては渚さんに嫁としても巫女としても手伝いにきてほしい・・・のだが。

「・・・まだ、わかりません。」

そっけない返事にうちひしがれる。日本人として百点の彼女なら誰も文句は言わないのだが・・・しかたがないから、七海ちゃんに声をかける。
地毛が少々茶色いが、彼女は袴の着方や神楽を舞えるため貴重な戦力となる。

「巫女さんの服、もらっていい!?」

キラキラした目で見る。
・・・コスプレ大好きな彼女は、動機が不純である。
「去年あげたのあるだろ?」

「あ、えーっと・・・あれね、あれは・・・」

視線が泳いでいる。
嫌な予感がしてクローゼットをあける。

「・・・可愛い?」

「あぁ・・・可愛い!ってなにしてんだよ!」

「あはは、もう・・・着ないと思ったから。」

巫女さんの袴は見事に膝上のラインで切られ、すそにはふりるがあしらわれ・・・さらにパニエでふわふわになっていた。
確かに、可愛くないわけではない。しかしこれはもはや、正規の巫女さんなんかではない。

「じ、自信作です!!これでよかったらやりますよ?」

よいはずはない。
肩を落としたあとに、彼は今更ながらにその巫女さんの袴だったものを回収したそうだ。
ちなみに春樹君は、そのまま部屋を飛び出し「求人」をだした。
そこには「巫女さんになりたいだけのかたは応募しないでください。」
そこだけが「赤い文字」で必要以上に強調されていたそうです。
そのあとに、黒崎さんによるお仕事をするときには、「何事も真剣に取り組んでください」
と緊急の説明会があったそうです。当たり前のことですが、制服が可愛いからといって神聖な神社に働くなんてのはやめろと。
仕事は仕事。
気を引き締めてください。その日から・・・三日ほど、団員たちの態度は変化したそうです。