これは、まだ咲也君が中学生だったくらいのかなり昔のお話です。
台風が近づいていると言うのに、練習する場所のない涼風のメンバーは大きめの公園で練習をしていました。
もちろんそんな日に公園で遊んでいる人はいません。
当たり前ですが、空は暗いんです。

「・・・そろそろ、打ち切った方がいいんじゃないか?」

咲也君が空を見上げながら、暁羅さんに呟きました。今にも降りだしそうな空模様にみな同じように空を見上げます。

「ほんまやな、よし!撤収や!」

その瞬間、激しい光が走り直後に大きな音が響き渡りました。

「ふぇー!!」

「びびった・・・」

雷が苦手な七海ちゃんは、その場にぺたんと座り込んでしまいました。そして次の瞬間に、まるで狙ったかのように激しい雨が降りだしました。

「急げ、とりあえず屋内や!」

暁羅さんの言葉に、みな動き始めました。だいたいの人たちが二人一組で動いています。

「・・・風邪・・・ひく。」

「わ、ありがとうだよ!」
「亜水弥、これ。」

「さすがぁ!」

信也くんは、すかさず自分のパートナーの藍音さんに自分の上着をかけてあげたのでした。よくよく見ると、みんなパートナーに上着を渡しています。
一名をのぞいて。

「・・・七海、立てるか?」

手をさしのべた咲也君は、今回上着をきていなかったのでした。
そんなわけで、若干他のメンバーからの視線が冷たいのでした。

「・・・らぶらぶいいなぁ。」

深いため息をつきます。
七海ちゃんにしたら・・・雷よりも、上着をもらえないほうが悲しかったらしいです。

「・・・ズボンでいいか?」

さすがに困った咲也君がベルトに手を伸ばすと、学ランを脱いだ太陽君が、七海ちゃんに上着をかぶせています。

「咲也、それはただの変質者っす。ほら、七海、濡れちゃったっすから早く、中にはいるっすよ!」

・・・なんとなく、今自分の好感度はかなり下がったと悟った咲也君が七海ちゃんの手を引っ張ります。

「七海は俺が連れてく。」
「・・・咲也、今はそんな場合じゃないっすよ。」

「ななは太陽兄さんと行くもん!」

「ほら、咲也手はなすっす。」

「いーやーだ!!」

「・・・咲也にぃ離してよ!」




・・・先に、室内へと戻り体をふいていた他のメンバーはあきれながらそれを見ていたのでした。

「・・・あいつら、何してんだ?」

「さぁ。どうせ対したことじゃないよ。」

「同感だね。」

「あ、虹だよ~」

・・・いつの間にか、一時の雨は上がり空にはきらきらと虹がかかっていたのでした。ちなみに咲也君たちが室内へとうつったのはそれからまたさらにあとのことでした。

次の日、仲が悪かった三人は結果として、仲良く熱を出してしまったとのことでした。