なにかイベントの前には、鏡を前にぶつくさと自分について考察する。本人はかなり真面目にやっているのだが・・・人はそれをナルシストとも言う。

「・・・咲也は、そのへんの子より女の子っぽいっすね。」

例外なく、本日も鏡を前にしている彼にやや呆れたように太陽君が呟くと、鏡を見ていた咲也君はくるっと振り替えって牙をむきました。

「サービスだ、サービス。」

入念に考えられた上での彼の動きは、無駄がなく確かに乙女心の的をガッチリと得ていたのでした。

「咲也・・・自分のこと嫌いじゃなかったんすか?」
「嫌いだぞ。」

と言いながらも、相変わらず鏡から目をそらすことはなく。髪の毛の揺れ方など異常なまでに細かい部分まで、リハーサルを何度も繰り返すのでした。

「・・・嫌いだから、研究してんだよ。」

「・・・咲也?」

「嫌いだから、咲也でいることを研究してるんだっての。」

咲也としての自分を作ることにより、嫌いだった自分をなんとか好きになろうというのが彼なりの理由だったのです。

「さて、今日も頑張るか!」

鏡を見つめて笑うのは、彼なりのおまじないのようなものだったのでした。

その日のイベントも彼が動けば歓声があがります。
改めて彼の力を感じる瞬間だったのでした。
ちなみにその日の最後のトークでの太陽君のコメントは・・・

「咲也は、鏡を毎日50回は見ているっすよ!」

客席からは、喜んでいるのか呆れているのかよくわからない悲鳴があがりました。一瞬、呆気にとられたように固まった咲也君はすぐにまたニヤリと笑ったのでした。

「あぁ、俺、ナルシストだからさ。」

「・・・しかもかなり重度のっすね!」

「研究熱心なんだよ!」

彼はナルシスト。
でも、それは不器用な自分を隠すために身につけた、彼なりの大切な能力だったのでした。

「みんなも、鏡見てみな。嫌いな部分は変えていけばいいんだからさ。」

ウインクをしながら、語る彼はやっぱりすべてが計算なのかもしれないですが、誰もそれを否定することはないのです。
それがみなが求めてやまない「水無月咲也」という人間だから。
今日も研究を重ねる彼は、鏡を前にしながら、楽しそうに笑うのでした。

「今日も、頑張りますか!」

それでも、太陽君は苦笑いを浮かべるのでした。

「やっぱり、ナルシストっすね。」

咲也君いわく、たまには自分を愛してみようとのことだったのでした。