八月です。原爆に終戦。日本人にとってはふかいふかい意味のある月でもありますね。たまには社会的なものをテーマに短い話を書きたいと思います。
今回は、テーマが重いためにシリアスに書きます。

~架け橋~
そこに、空はなかった。
降りやまない黒い雨は・・・まるで意識までをも黒く染めていくかのように、感情を麻痺させていった。
人の悲鳴や嘆き悲しむ声だけが・・・与えられた音だった。

「・・・忘れない。」

私は、壊れてしまった住み慣れた我が家を前に唇を噛み締めた。・・・中にいた弟たちは見つからなかった。・・・見つけられなかった。

ごめんなさい。
それすらが、虚しい。
この光景を忘れてはいけない。・・・二度とみたくない・・・光景を。

なにがいけなかったの?
そんなこと、誰も教えてなんかくれない。それなら誰を恨めばいいの?
私のやるせない気持ちは、誰にいったらいいの?
わからない。
ただ、私はこの光景を胸に焼き付けた。



夏の香りが満ちたこの土地に再び静寂がもたらされる。
「黙祷。」

今年もまた、私はこの場に来ることができた。よく生きたと自分でも感心する。草木が生えないとまで言われていたはずの広島も復興を遂げた。・・・だんだん、あの悲惨な「現実」は「歴史」へと変わっていってしまった。

みなが祈りを捧げる。
亡き人をくやんで。
または、被爆者をしのんで。
一瞬の静寂の間に、私の心はあの日に戻る。・・・弟たちの泣く声に、光さえ閉ざした黒い雨。
変わってしまった町。
幸いなことにまだ、私のような人たちがこの「事実」を教えることができている。核を持つことにより、国は国民を人質として・・・いまだに水面下で争っている。

人間はまた繰り返すのだろうか?

見学に来ていた学生が私に近づいてきた。

「あの・・う・・んでますか?」

片言の日本語だった。
どうやら日本人とアメリカ人のハーフのようだ。
私は聞き取れなかったので首をかしげた。

「うら・・んでますか?」
恨んでますか?
彼はなにを思って聞いてきたのだろう。私は、涙を堪えながら答えた?

「・・・・うらんでいないといったら、嘘になるわ・・・それでもね、恨んでもなにも・・・変わらないの」

完璧な被害者も完璧な加害者もいない。・・・それが戦争だ。
私は、彼の予想以上に幼い手を握りしめて微笑んだ。

「ともに、記憶を残しましょう・・・こんな争いが二度と起こらないように。・・・恨みの連鎖はたちきるのよ。」

彼も手を握り返しながら、私に笑いかけてくれた。
恨みからはなんにも生まれない。
そんな連鎖をたちきるための橋になりたいと思った。
彼と私は・・・確かに、多くの偶然が重なり長い歴史の迷路を抜けてつながったのだから。
私の記憶は・・・彼に、また伝えてもらおう。


空が明るい。
太陽の光にあふれている。そしてなにより、サッと降り注いだ雨は平和な未来を象徴するかのよう

消えてしまうなら、伝えていけばいいのだ。

世界が幸せになる日まで。