涼風シリーズですが珍しくシリアスです(-_-;)

~助けてくれないの?~
私は私でしかないはずなのに・・・私は私でなくなると言うの。ここに連れてこられて、何日がすぎたんだろう。・・・だんだん、なにかがなくなっていくのがわかった。

「・・・本当ですか?」

あの人は私を完璧に閉じ込めたりはしなかった。周囲から怪しまれないように、学校へ行くことなどは許してくれた。
ただし、あくまで他者へとの接触は観察されていた。

「あぁ、行ってきていいよ。・・・もちろん俺も行くけどね。」

優しい声。
優しい笑顔。
でも、信じてはいけない。この人は私の知っているあの人ではない。
今日は、私の好きな歌手のコンサートだった。諦めかけていたのに、彼の出した答えは「いっていい」だった。
・・・コンサートになら、必ず兄さんがいる。兄さんなら、私を助けてくれる。





「さぁ?そろそろ帰ろう。」

あっという間にコンサートは終わってしまい、私は握られた手を振り払うこともできないままに外に連れ出された。

「ま、まだ・・・グッズを見たいです。」

「先に見ただろ?」

冷たい。
なんとかしなきゃ。
兄さんが助けてくれる。
兄さんが・・・!

「あ・・・」

私は兄さんの姿を見つけた。視線が一瞬交錯した。
兄さんの視線は冷たかった。

「どうしたんだい?」

「・・・なんでも、ないです。・・・満足・・・しました。」

そうか。
しかたがないんだね。
私たちが彼の心を壊してしまったのだから、私が責任をとらなくてはならないんだね。

「・・・助けてくれないの?」

小さく呟いた声は、届くわけがなかった。
兄さんは助けてくれない。・・・兄さんは助けてくれない。
それなら、私は・・・この人に従うしかない。


「疲れたろ?ゆっくり寝なさい。」

「・・・はい。」

またここに連れてこられた。まるで私はおとぎ話なお姫様みたいだ。

ジブンノチカラデハウンメイにアラガウコトスラデキナイ。

「・・・兄さんの・・・ばか。」

王子様は私の手をとって逃げることはしてくれなかった。それなら私は、ここにいるしかない。

「くくくっ・・・予想通りにうまくいった。そのまま弱ってくれれば『ゆな』に近づく。」

あの人が笑っている。
なんて楽しそうなんだろう。
私はもう・・・笑えそうにない。・・・笑えないよ。
「・・・助けてくれないの?」

あの瞬間、兄さんは私を見ていたはずなのに・・・なにも変わらなかった。
兄さんは・・・何を見ていたの?

「・・・助けてくれないの?」

涙が溢れてきた。
ねぇ?なんで、手を引いて逃げてくれなかったの?

「・・・もう・・・いらないのかな。」

そのままベッドで私は枕に顔を押し付けた。
そして、覚悟したの。

「・・・サヨナラ、だね。」

恨んでなんかいないから、お願い・・・最後にどうか「夢の中」でくらい笑ってね。

これが、最後の願いだから。
私は瞳を閉じた。

・・・夢の中で、あなたに会いたい。

もしも会えたのなら・・・どうか、私をつれて逃げてね?

「・・・助けて。」

素直なことばは、あなたには届くことはない。